XIII 新たな体験
次の日、僕はルーチェに呼ばれて街の広場にある噴水の前にいた。もちろんトランペットを持って。
少し遅れてルーチェがやってきた。肩にかけているケースにはきっと楽器が入っているんだろう。
ルーチェは顔の前で手を合わせてすまなさそうに笑った。
「ごめーん! 今すぐ準備するからちょっと待っててー!!」
「いや、そんなに待ってないからいいですよ?」
僕の言葉は聞こえているのかいないのか、ルーチェは手際よく荷物を準備しだした。
そして最後に楽器ケースを開ける。
そこで僕は気づいた。
「ルーチェもトランペットを吹くの…?」
ケースには銀色のトランペットが入っていたんだ。
「そうだけど………あ、ルーカもトランペットなのかぁ〜」
「すごい! 僕、自分以外にトランペット吹く人と会ったのまだ2回目です!
1人は僕にトランペットを教えてくれたお姉さん。そして2人目はルーチェ。
まぁ、選定のときに見た神官を入れれば3人ですけど。」
「へぇぇ。 マレイヤにはトランペット吹きがいっぱいいるから、私はルーカで何人目とか分かんないや。」
なんかごめんね、とルーチェは笑った。
「でもまぁ、トランペット二重奏をやってもなんかつまんないよね。
どうしよっか。私トロンボーンも出来るけど、そっちの方がいい?」
「僕はトランペット二重奏でもいいですよ! 他人のトランペット聴くことあんまりなかったんで新鮮なんです。」
「じゃあそうしよっか。 というか、まずルーカに曲を教えなくちゃね。」
「はい! お願いします。」
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結局その日は日が暮れるまでルーチェとトランペットを吹いた。
まだ覚えきれてないけどたくさんの曲を習った。
道行く人々が「見ない顔だねぇ、どこから来たの?」だとか「上手いね!」だとか色々話しかけてくれるのが嬉しかった。
イルオーネで変わり者だった僕も、マレイヤでは一般人としてやっていけそうな気がした。
家に帰るとアレッタが夕飯を作って待っていてくれた。
アレッタとルーチェのやりとりは相変わらず騒がしかったけど、それは2人の仲の良さのあらわれのようでなんだか微笑ましかった。
食事を終えると僕はアレッタと共に書斎へ足を運んだ。
これから毎晩ここで魔法を教わることになっているのだ。
僕ははじめ、夜だと近所迷惑で楽器が吹けないからという理由で断ったのだが、アレッタが言うに
「大丈夫! 私もいつも失敗して大きな音たてたり、大声で呪文唱えたりしてるけど1度も問題になったことないし!
書斎は家の隣の林に面してるから近所迷惑にはならないよ、多分ね!」
だそうだ。
それならば、と僕は 昼間は楽器、夜は魔法という順序で学ぶことにしたのだ。
といっても、マレイヤとイルオーネの魔法は系統が違う。
僕はまずマレイヤの魔法の基礎知識から教わることになった。
その日、夜遅くまで勉強した結果
“マレイヤの魔法とイルオーネのそれでは精霊と交信する手段が異なるだけで、根本的には同じようなことをしている”
と言うことが分かった。
ただマレイヤの魔法の方が、精霊に対してより複雑な要求が出来るらしく、その分魔法を使う際の動作や呪文も複雑みたいだ。
ひとくちに「魔法」と言ってもこんなに違いがあるんだな……やっぱり世界は僕の知らないことでいっぱいだ。
イルオーネに帰ったとき、少しでもみんなに知識を提供出来るように頑張ろう。
そう思いながら僕は布団にもぐった。