X マレイヤを目指して
歩いているうちにイルオーネの外れまで来た。
イルオーネの領土は狭いため僕の家からここまでくるのに半日程度しかかからなかった。
「じゃあ、僕らはこっちに行くから。」
エランテはそういうと、少し向きを変えた。
「そうだね。ここでお別れかな。またね、2人とも!」
「また機会があればイルオーネに行くよ! お世話になったねルーカ!」
「ばいばい、お兄さんー!」
マリッツァやセレーナと違って、この2人は意外とあっさり別れられた。
お互い少し疲れていたせいかもしれない。もう太陽は少し西に傾き始めている。
「さてと、ここで食事にするか。」
僕はここから知り合いの商人たちの馬に、マレイヤ付近の河まで同乗させてもらうことになっている。
彼らが着く前に食事を済ませなければ。僕はそう思った。
ーーー大して急がなくとも空腹な僕が食料を頬張るスピードはいつもの倍以上で、あっという間に食事は終わってしまったのだけれど。
食事の片付けを終えたところでタイミングよく商人たちが到着した。
彼らはとても明るく僕を受け入れてくれた。よかった、旅の始まりは順調だ。
そのまま馬に揺られて2日と半日、ついにプーラ河に着いた。
この河はマレイヤとイルオーネの真ん中ーーー正確に言うとかなりマレイヤ側にかたよっているのだがーーーに位置する、世界でもトップクラスに大きな河だ。
そこから船に乗って5.6時間。やっと向こう岸に着く。
ここの船着場では馬を貸してくれるようだったので、僕は料金を払い、ここからも馬に乗って行くことにした。
あと少し馬に揺られればマレイヤだ。長かったような、短かったような。
移動はあまり面白くなかったな、と僕は思った。
確かにマレイヤもイルオーネも気候はあまり変わらないし、地形も似たようなところが多い。
イルオーネから離れたという実感はあっても、他国に向かっているという実感はなかった。
そろそろ夕焼けが見えてきた。
夜明けの直後に河を渡ったというのに、時が経つのは早いものだ。
出来れば日がかわる前にマレイヤに着きたいと思っていた僕は馬の速度を上げた。
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なんとかその日のうちにマレイヤに着いた僕だったが、その時にはすでに空は濃い群青色に染まり、星が瞬いていた。
といっても、家からもれてくる明かりや街灯のおかげであたりはさほど暗くなかった。
宿屋を探そう。そう思ったが周りを見ても僕以外の人は誰1人いない。
つまり、宿屋の場所を尋ねることが出来ないということだ。
疲れ切っていた僕は、人を探して歩き回る元気もなかった。
さっき馬を借りたときにお金を使ってしまったからな。余計な出費は避けたい。
そう自分を説得して、近くの森で野宿をすることに決めた。
馬を木につなぎ、リュックから寝袋を引っ張り出して中に入ると、僕はそのまま眠ってしまった。