表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そんな話  作者: 宵の明星
9/9

 

 

 

 

 その部屋に家具や窓は一切なかった




 あるとするなら大きな鉄製の扉が一つと私……




 あとは全て薄汚れた灰色の壁しか見えない






 コンコン






 扉を叩く音が聞こえた




 誰か扉の向こうにいるらしい




 一体、誰なんだろう?



















 「すいません」





 ……だれ?





 「いえ、ただの通りすがりの旅人ですよ」





 そうなの?





 「それよりも……あなたはなんでこんな部屋に閉じ込められているのですか?」





 ……どうしてだと思う?





 「それは……多分あなたはなにかとても悪い事をしてしまったので、その罰としてこの部屋に閉じ込められている……のでしょうか?」





 うーん……違うと思う……多分……





 「そうなのですか? ……では一体どういう理由で?」





 私も分からないの





 「……それはまた不思議ですね……」





 不思議よね





 「……なにか心当たりはないんですか?」





 ないわ





 「……随分はっきりと言いますね……」





 だって本当にないんだもの





 「……困りましたね……」





 うーん……だったらそうね……これからあなたも私と一緒に考えてくれないかしら?


 ……なんで私がここに閉じ込められたのかを……





 「はい、いいですよ」





 え、ほんとに?





 「えぇ、私は暇人ですので」





 ……もしかして、ただ暇つぶしがしたいだけ?





 「いえいえ、決してそんな事はないですよ。真剣に考えますから」





 ……そうは聞こえないけど……まぁ、いっか……





 「でわ、早速ですがこんなのはどうでしょう?」





 考えるの速いわね……それで、一体なにを思いついたの?





 「はい、それはですね……実はあなたはとても感染力の高い病気にかかってしまったため、この部屋に隔離されたのではないのでしょうか?」





 ……そんなの嫌よ





 「……嫌と言われましても……」





 だって……それってつまり私の病気が他の人へ感染しないように閉じ込めたって事でしょ?


 ……なんか厄介者あつかいされてるみたいで……嫌だわ……





 「そんな事言われましても……あなたの病気を移されてしまった人が死んでしまうかもしれませんし……」





 えっ!? 私のかかってる病気って死んじゃうくらい危ないものなの!?





 「え? いや、こんな場所に隔離する程なのだからきっとそれぐらい重い病気なんじゃないかと思いまして」





 

 ……うそ……それじゃ……私、死んじゃうの?





 「それはわかりませんけど……その可能性はありますね……」





 いーやー!!!!!





 「落ち着いてください。あくまでこれはあなたがそんな病気に感染していたらという話ですので」





 はっ!! そ、そういえばそうよね……て、そもそもあなたがこんな話をしたのが原因じゃない!!!





 「……そんな事をいわれましても……私は考えた結果を言ったまでですし……」





 あなたね……もう少しまともな理由を考えなさいよ





 「いや、あなたが考えてと言ったから私は考えたのですよ?」





 ……確かあなたは真剣に考るって言ってなかったかしら?





 「……真剣に考えた結果だったのですが……」





 もうっ!! あなたって駄目ね!!





 「……酷い言われようですね……」





 そう思うのならなにかまともな考えを言ってみなさい





 「……うーん……そうですね……」





 ……どう? なにか思いついた?





 「はい……あなたの身内の人があなたの事を溺愛していて、あなたを守るためにここに閉じ込めた……」





 ……ありえないわね……





 「……ですね……」





 本当に愛しているのなら閉じ込めるなんて事をする必要がないわ





 「それに仮にあなたの身内が異常なくらい過保護だったとしてあなたをどこかに閉じ込めようとしたとしても、こんな牢獄のような場所に閉じ込めようとはしないでしょう。きっとあなたが喜びそうな部屋にするはずです」





 えぇ、そうね。 ……だいたい私の両親はそんな事をする人じゃないし


 ……それにしても……やっぱりあなた駄目ね……





 「いや、次こそはまともな事を言いますよ」





 ……本当かしら?





 「えぇ、まかせてください…………そうですね……うん…………でしたら、先程の考えを参考にして……」





 どうするのかしら?





 「逆にあなたは両親から嫌われていて、あなたが邪魔になり……」





 ……怒るわよ……





 「……もうしわけありません……」





 私の両親はそんな人じゃないわ!! ちゃんと私の事を愛してくれているわよ!!


 普通にね!!





 「……はい……ですよね……」





 ……次は? ……それとももうないの?





 「え、えーと……そうですね……」







 「実はあなたはこの場所を知っていて、自分でここにやってきたのですがこの部屋で記憶喪失になってしまった」





 ……都合のいい話ね……


 仮にそうだとして、私はなんでこんな場所に来ようとしてたのよ?





 「……一人になりたかった?」





 私、それほど孤独を愛してないわよ?





 「……失恋とかで……」





 そんな記憶はありません





 「それも記憶喪失の影響でしょうね」





 ……やっぱり都合のいい話ね……





 「……恐らく記憶喪失になったのは失恋によるショックからでしょう……」





 はいはい、次は?





 「実はあなたは閉じ込められていなくて、逆に私の方が閉じ込められていた」





 ……ふざけてるの?





 「……すいません……」





 はぁ……結局駄目じゃない……





 「……もうしわけないです……」





 もういいわ……今度は私が考えるから


 ……えーと……うーんと……





 「……ちょっとよろしいですか?」





 ……あーと……え? なに?





 「もう一つだけ私の考えを言ってもよろしいでしょうか?」





 ……えー?





 「もうしわけありません。ですが、どうかもう一つだけ……」





 ……しょうがないなぁ……





 「ありがとうございます」





 ……それで、どんな事を思いついたの?





 「……はい、それはですね……」











 「……あなたは他人に傷つけられるのが怖いのでこの部屋に閉じこもっている……」











 ……どういう事かしら?





 「……いえ、今までの会話の中であなたは一言もその部屋から出たいと言わなかったので……そうかなと……」





 ……?





 「……えーとですね……普通だったらまずその部屋から出ようとすると思うんです。気がついたら見知らぬ部屋に閉じ込められていたんですからね。それが当然のはず……しかし、あなたは私に助けを求めようとせず、ここに閉じ込められた理由を一緒に考えてほしいと私に言った。……つまりあなたはその部屋から出るつもりはなかった……それは何故でしょうか?」





 ……





 「……あなたは私と話していて……まぁ、楽しいかどうかは分かりませんが少なくとも話していてつまらなそうだという印象はありませんでした。という事はあなたは人と話す事は好きだと考えられます。」





 ……





 「なのであなたはきっと他人と話したいけれども自分の心には深く踏み込んでもらいたくはない……他人の心に触れたいけれども自分は傷つきたくない……だからこの部屋に閉じこもりながら私と話をしていたんじゃないかなぁと思ったのですが……」





 ……





 「……いかがでしょうか?」





 ……ふふっ……





 「……?」





 ……凄いわね……意外とあなたやるじゃない





 「いえいえ、それほどでもありません……と、いうかあなたは始めから私にこの答えを言わせようとしていたのではないのですか? だからこの部屋に閉じ込められている理由を一緒に考えてほしいなんて言ったのでしょう?」





 うふふ……まぁね


 でも、少し焦っちゃったわ


 あなた全然気付かないんだもの





 「いや、普通に気付く事は難しいと思いますよ……うん」





 ……そうかしら?





 「はい……ところで……」





 なにかしら?





 「……今でも……怖いですか?」





 ……そうね……





 「……」





 ……そうでもないかもしれないわね……





 「……また曖昧ですね……」





 しょうがないじゃない分からないんだから





 「……でしたら……試しにその扉を開けてみますか?」





 ……えっ?





 「そうすれば怖くないかわかりますよ?」





 ……でも……





 「まだ私が信じられませんか?」





 いや、そういうわけじゃ……





 「大丈夫ですよ。……私は絶対にあなたを傷つけませんから……」





 ……











 ……私は……静かに扉を開いた……











 「こんにちは……お嬢さん」





 こんにちは……旅人さん





 「……感想はいかがですか?」





 ……そうね……





 ……悪くはないわね……





 私がそういうと旅人は優しく微笑んだ















 

 ……あなた本当に旅人なの?





 「えぇ、本当に旅人ですよ。ただし心を旅する旅人ですけどね」





 心を旅する?





 「えぇ、私は様々な人の心を渡り歩いているのです」





 いい迷惑ね





 「……酷いですね……」





 だってそうじゃない


 勝手に人の心に踏み込んで言いたい放題言って去って行くんでしょ?


 心に踏み込まれた方からしたらいい迷惑よ





 「まぁ、言いたい放題というわけじゃないですけど……確かにそうかもしれないですね……」





 ……でも……





 「……でも?」





 私はいいと思うけどね


 きっと私みたいに心になにか隠してる人はいっぱいいるはずだから……


 ……そんな人達の支えになってあげて……





 「……でも、さっき迷惑だと……」





 人のためになる事だったら迷惑でもいいのよ





 「……そういうものですかね?」





 そういうものよ





 「……やっぱり違うと思うんですけど……」





 あ〜もう別にいいのよ!!


 細かい事は気にしないでやればいいのよやれば!!





 「……強引ですね……」















 「……さて、そろそろ行くとしますか……」





 そうね、行きましょう





 「え、ついてくるんですか?」





 違うわよ、私は私の世界に戻るって事





 「あぁ、そういう事ですか……」





 という事で……お別れね……





 「……そうですね……」





 また会えるかしら?





 「……そうですね……運がよければですけどね」





 そう……じゃあ、また会える事を祈ってるわ





 「そうですね……私も祈ってますよ」
















 じゃあね旅人さん





 「じゃあねお嬢さん」










 ……そんな話




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ