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そんな話  作者: 宵の明星
7/9

騎士

 ……ねぇ……




「……ん?」




 ……なんで、戦うの?




「……この国を守りたいからさ」




 負けると分かってるのに?




「……」




 もう直ぐこの国は滅ぶのに?




「……滅ばないさ」




 どうして?




「俺達がいる」




 ……無理だよ。




「やってみなければ分からない」




 分かるよ。




「……何故?」




 相手は一億の大軍勢。

 

 対するこっちはたった数百人の騎士だけ。

 

 ……絶対に無理だよ。




「……それでも俺は戦う」




 ……なんで?




「この国を守りたいから━━」




 それはもうさっき聞いた。

 

 僕が聞きたいのはその理由。




「……うーん……この国が好きだから……かな?」




 そんなの理由にならないよ。




「……理屈じゃないのさ」




 ……うーん……




「……まぁ、お前にもそのうち分かる時がくる」




 ……そんなの……分からなくていいよ。




「……どうして?」




 ……だって……あいつらの国はもの凄く巨大なんだよ?


 もし今回の戦いに勝ったとしても、きっと同じような大軍勢がまたすぐにやってくる。


 だけど、この国にはもうあいつらと戦えるような力なんてない。


 ……結局、この国は滅ぶしかないんだ……


 ……それなのに、どうして命を賭けてまでこの国を守ろうとするの?


 どうせなくなる物の為に死ぬなんて……意味がない……ただの無駄死にだよ!!




「……」




 ……




「……うーん……そうかなぁ?」




 ……?




「……いや、本当にそれは無駄なのかな、ってさ……」




 ……どういう事?




「……えーと……まぁ、俺もお前も必ずいつかは死ぬだろ?」




 うん。




「それは俺達だけじゃなく他の人達も同じだ。」




 そうだね。

 

 人はみんな死んじゃうからね。




「……でも、それは人に限らず他の動物や植物もそうだし、……あと、川や湖とかもそうだ」




 ……え? 変だよ。


 川も湖も生きてないよ?




「え? ……あぁ、だってさ、川も湖もいつかは干上がってなくなるだろ?」




 ……えぇー?




「……まぁ、とりあえずそういう事にしといてくれ……じゃないと進まない……」




 ……仕方ないなぁ……




「……えーと……で、他には俺の家もそうだ」




 ……いつかは必ず壊れるから?




「……おお、正解」




 やったね。




「……フフッ……そう、お前の言った通り俺の家も時が経てば崩れてなくなる。…………そして、それはこの国も同じだ」




 ……うん……




「……でも、それはこの国に限った事じゃない。俺達が相手にしている国もそうだし、それ以外の国やどこか知らない遠い場所にある国もそうだ」




 ……まぁ、そうだね。




「そう。つまり、この世界に存在するもの全てがどうせなくなってしまうものって事だな」




 そういう事になるね。




「……そうするとだ。……この世界はあっても意味のない無駄なものだ……て、思わないか?」




 ……えっ!? どうして!?




「違うのか? だってこの世界に存在する全てのものはどうせなくなってしまうものなんだろ? つまりその存在自体が無駄だって事じゃないか」




 えっ? えぇと……それは……




「だったらこの世界は無駄な存在だろ? ……という事はだ。……この世界で生きている事自体が無駄なわけだから……始めからこんな世界になんて生まれてこなければよかったって事か……」




 ……ち、違うよ!!




「……どうして?」




 だって……えぇと……その……生きてると毎日楽しいじゃん!!




「なんで?」




 え? ……う、うーんと……友達と鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり……あと、家で絵本を読んだり、ご飯食べたり、お母さんのお手伝いしたり、後は……




「でも、その友達も、絵本も、ご飯も、お母さんも、どうせいつかはなくなってしまう無駄なものなんだろ?」




 そ、それは違うよ!!


 ……確かにどうせいつかはなくなっちゃう…… 


 ……でも……だからって無駄なんかじゃない!!


 だって……どれも大切な……




「……大切な?」




 ……




「…………えーと、まぁ、意地悪はこのくらいにして……つまりそういう事さ」




 ……全然どういう事か分からないんだけど……




「……あー、つまりだな。……さっき言ったみたいに確かにこの世界に存在する物はいつか必ずなくなる。でも、だからと言って無駄ってわけじゃない。それらは実はなくなるまでの一瞬の間に大切な何かをたくさん作りだしているんだ。……それはこの国も例外じゃない。俺はこの国に生まれたおかげでとても大切な物とたくさん巡り会う事ができた。……お前と同じようにな」




 ……うん。




「……俺は、そんな一瞬の間に生まれたかけがえのないもの、そしてかけがえのないものを生み出すものを守りたい。そんなかけがえのないものを俺に与えてくれた大切なものを守りたい。」




 それが騎士様にとってこの国なんだね?




「ああ、そうだ。……たとえ無理だといわれても、どれだけ不可能だったとしても黙ってなんかいられない。俺はどんな事があったとしてもこの国を守る。……守れる、守れないじゃない……守るんだ!! ……なんてな」




 なんかかっこいいね。




「……え、そうか? ……照れるな……」




 でも、やっぱり駄目




「……結局、どっちなんだい?」




 本当にかっこよくなるのは、騎士様が戦場から生きて帰ってきた時だからね。




「……それは、また難しいな」




 難しくなんかないよ。


 こんなかっこいい事を言うんだから生きて帰ってくるぐらい簡単でしょ?




「……無茶言うなぁ……」




 この国を守るんでしょ?


 だったら生きて帰ってこなくちゃ!!


 騎士様が死んじゃったらその後は誰がこの国を守るの?




「うーん……そのうち誰か出てくるんじゃないか?」




 それはないと思うけどなぁ。


 だって全く勝ち目のない相手に戦いを挑むんだよ?


 出てくるとしてもそれは今すぐじゃないと思う。


 だから、それまでは騎士様に頑張ってもらわないと。




「……責任重大だな……」




 そうだね。




「……お前なぁ……」




 あははっ。




「……ふう……わかった。……ま、全力で頑張ってみるよ」




 違うよ。


 頑張るんじゃなくて……




「分かってるさ。……必ず生きて帰る」




 ……絶対だよ。




「ああ、もちろんさ」






 そう言うと騎士は戦場へと向かって行く。




 そして、そんな騎士の背中を少年はただじっと見つめていた……









 ……そんな話。




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