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そんな話  作者: 宵の明星
5/9

自分




 ……俺は……誰だ?






 目を覚ました時、俺は全てを失っていた。



 ……いわゆる記憶喪失というものだ。



 医者が俺の家族だという人達を連れてきた。



 ……誰だ? こいつら



 その人達がいくら嬉し涙を流したり、抱きしめてきたりしても俺は何も感じなかった。



 ……だって、こいつらのこと本当に知らないし……



 医者は、記憶を取り戻す方法は家族と一緒に暮らして自然に戻るのを待つしかないと言った。



 それを聞いて俺の家族だと言った人達は一緒に暮らしてもいいかと聞いた。




 ……冗談じゃない。なんでこんな見知らぬ奴らと一緒に暮らさなくちゃいけないんだ。




 しかし、医者の意見と俺の家族だという奴らの強い要望により俺はこいつらと暮らす事になった。






 俺の母親だと言う奴がアルバムを開いて、俺の写った写真を指差しながら俺との思い出を語った。




 ……知らない。




 俺の父親だと言う奴がキャッチボールをしようと言い出した。

 なんでも俺が幼い頃よく一緒にやったらしい。




 ……分からない。




 俺の妹だと言う奴が一緒に買い物に行こうと言った。

 俺とこうやって買い物するのは久しぶりらしい。

 なんだかとても嬉しそうだった。




 ……思い出せない。






 ……落ち込んでいる俺に対してあいつらは優しく声をかけてきた。


 焦る必要はない。これから少しづつゆっくりと思い出せばいい、と……。




 しかし、俺にはそんな言葉など聞こえてはいなかった。




 常に考える事はただ一つ




 ……俺は誰なんだ……




 記憶のない毎日をおくる度に自分は誰なのか、どんな存在なのかという疑問と不安が大きくなっていく……




 更に記憶を思い出せない事の焦りから、不安な気持ちはよりいっそう大きくなっていった。






 ……ていうか、そもそも本当にこいつらは俺の家族なのだろうか?




 実は俺を騙すために家族を演じているだけじゃないのだろうか?




 ……だが、もしそうだとしたらその理由はなんだ?







 ……金か?



 よくテレビとかで保険金目的で人を殺す事件などが報道されているが……



 ……まさか、俺に多額の保険金をかけて殺すつもりなのか?




 それとも復讐か?



 実は昔の俺はとんでもなく悪いやつで、その時こいつらになにかしてしまったのか?




 クソッ!! 分からねぇッ!!



 自分の事も、あいつらの事も、……あぁもう、なにもかも全部分かんねぇ!!!!



 分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ、分からねぇ……







 ……もう……分かんねぇよ……







 ……次の日、俺は首を吊った……







 ……そんな話。





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