だけど、戦い続ける
俺は、一つの小さな王国で生まれた。この国は小さい。
1914年。戦争が起きた。この国ではなく、この国を挟む国が。戦争を仕掛けた方の国が、中立だったこの国を通り攻め込もうとした。その時、国王はこういったらしい、
「国家にして道に有らず」、と
怒ったその国は攻め込んできた。兵士だった俺は、前線に送られた。
戦場は、地獄だった。日夜絶え間無く砲撃が塹壕の中に落ちて血まみれになる人が出る。俺はほぼずっと前線で機関銃を撃ち続けた。突っ込んでくる敵に鉛の雨を横から降らせる。隣で機関銃を撃っていた15歳くらいの少年が頭を撃たれた。俺は、その子を死んだと決めつけ、機関銃を撃ち続けた。
敵が一時的に撤退したのを確認した俺は、倒れている少年を見た。
少年は、俺を見ていた。そして手を伸ばしたまま死んでいた。
俺は思った。なぜこんな小さい子が死なねばならないのか?だけどそれだけだった。その少年は、疫病の原因となるので燃やされた。ドックタグから少年の名前などを知り、遺族に報告される。
戦争をしていない方の国から義勇兵と、物質が届いた。兵士が足りないのは、どこも一緒らしい。
義勇兵と共に攻勢に出て、一度奪われた街を一つ取り戻せた。ここで一度俺は、他の地区に回された。敵は3チームいたからだ。占領された街を後にし、もう一つの方に向かった。
だけど、すぐに戻された。元いたところで、敵が毒ガスを使って攻めたらしい。かなりの死傷者が出た。また街を奪われた。
行く途中でガスマスクを貰った。使い方も覚えた。野戦病院では、皮膚がただれている負傷者がほとんどだった。毒ガスの影響らしい。皮膚から侵入する毒ガスらしいので、防護服も貰った。
防護服を着て銃座に座る。敵が来る。撃つ。
砲弾が近くに着弾した。黄緑色の煙が出る。誰かが叫んだ「毒ガスだ!」
防護服を着ていた俺は助かった。しかし、ガスマスクのみの奴は、黄緑色の煙が皮膚を焼く。そこらじゅうで悲鳴が上がる。
そんな時に敵が来る。俺は、数少ない味方と共に撃ち続けた。しかし数が少ない。ほとんどの兵士が無力化されたからだ、塹壕の中に敵が入ってきた。
白兵戦になる。毒ガスにやられた奴は、何も出来ずに首を銃剣で刺されていく。その時、毒ガスにやられた奴の一人が敵に囲まれた時に手榴弾のピンを抜いた。
爆発する。何十もの鉄片が相手に刺さる。それからは、どこもかしくも手榴弾の爆発音が響く。
俺も銃剣で戦い続けた。三人殺したところで敵に倒されて馬乗りになった。敵に殺される
と、思った時に鮮明に銃声が聞こえた。敵が憎悪の目で俺を見ながら倒れてく。後ろから仲間が助けてくれた。彼は、親指を上げた。そして、そのまま敵に撃たれた。
誰かが叫んだ「撤退だ!撤退しろ!」その言葉を聞いて俺は走った。後ろを振り返らず、前を走っていたのに撃たれた仲間を見捨てて。
完全な敗走だった。生きて味方の陣地に帰ったのは、数百名のみ。何万もあの時は居たのだ。それが数百名のみ。完全な負けだった。
あの時、味方の半分が自分より年下の兵士だった。何で俺が生き残った?若いやつより先に何で死ねないのか?
俺は、思い出す。俺に助けを求めたまま死んだ少年を、俺を助けて死んだ仲間を。今なら分かる。 俺に憎悪の目を向けたまま死んだ敵の気持ちが。彼も仲間に助けられ、助けられなかった男だろう。
俺は、怪我をあまりしていなかったので、すぐに前線に戻された。俺は、死ぬまでこの国と共に、戦うことになるだろう。
今日も銃座に座り敵を撃つ。敵に憎悪の目を向けて。
それから数ヶ月後、この国の軍は事実上全滅した。敵は国境を超え、相手の国に乗り込んだ。
ベルギー王国での戦いを題材にしています。
元になったイーペルの戦いは科学兵器が始めて使われた戦いです。第一次世界大戦中の科学兵器での死者は、連合国ののみで9万人に登ります。