第五話 拠点
「ここはよさそうだな」
幸運というべきか不運というべきか、本来叶えられるはずのない願いを持った者たちが集められ、現状を突きつけられてからおよそ三〇分。
時無と藍花はひとまず拠点となる場所を探すべく、建物を出て周囲を散策していた。
そんな中見つけたのが、この川の近くにあった小さな一軒家であった。
「へえ、意外と綺麗なのね」
居間を見渡した藍花が埃一つない部屋を見て感嘆の声を上げる。
内装は普通の一軒家と変わらず、室内は清潔でトイレやベッド、洗面台に風呂場といった生活に必要な物が揃っている。
部屋は大きく分けてリビングと寝室と台所。
確認したところ電気も水も使えるらしく、二階もなく住むには酷く狭い所ではあるが、この戦いの間だけ生活する環境としては十分だった。
藍花も同じく満足気に頷いた。
「生活に困るようなことはなさそうだし、すぐそこに小川もあるからわたしの魔術も高速化できるし、いいと思うよ」
はじめの建物を出るとき、時無が藍花に属性を確認すると予想通り“水”であった。
魔術は基本的には術者の魔力のみで顕在するものだが、その属性に準ずる物を媒体とすることで術者の負担を軽減し、なおかつ素早く顕在化させることができる。
もっとも媒体としていることで本来の性能よりかは多少落ちることになるが、負担軽減と顕在高速化のメリットを考慮すれば無視できるレベルである。
即ちこの周辺で戦闘をする場合は顕在高速化の恩恵によりこちらが優位な状況で戦えることになる。拠点としての最低限の条件を、ここはクリアしていた。
しかし一番肝心な問題、食料はどうするのか。この《デスゲーム》の間、まさか一切食事をしないわけにもいかない――。
そう思いながら、キッチンの隅の方に見つけた冷蔵庫を開けると、存外それなりの飲食物があった。
贅沢に消費しても四日ほど保つ量はある。
「お前らは殺し合いに集中しろ、ということか……」
なにやともあれ、食の問題が解決された今、もう迷う要素はなかった。
「よし、拠点はここにする。いいよな?」
「うん。文句ないわ」
どこまでも事務的に話す時無に心なしか、藍花は退屈そうな顔をしていた。