第三話 デスゲーム
突如突きつけられた快諾しがたい条件に、願いを叶えると言う甘い言葉でそれまで期待に満ちていた者たちの瞳が、一瞬にして絶望に染まる。
「はい。この世界はそのための舞台……つまり戦場です。あっちの世界でこんなことやるとマスコミとか警察とかうるさいですからねぇ……。まぁそういうわけなので人目を気にせずどうぞ存分に殺しあってください。ちなみにこの世界は森林をイメージしておりますので、くれぐれも森で迷わないように」
饒舌に喋る青年は、もはやこちらを敬っているのか貶しているのか判らない態度だった。狂気に満ちている、と言うと一番しっくりくるかもしれない。
「……あぁそうだ、いつまでたっても決まらないのは困るので制限時間は一六八時間とさせて頂きます。それまでに終わらなかった場合は、全員敗者とみなします。もちろん、敗者に待っているのは死です。制限時間いっぱい隠れる、などといったつまらない行為をする方も敗者とみなしますので、どうぞよろしくお願いします」
優雅に一礼してくる青年を見据える時無は、なるほどと静かに嘆息した。
つまり《神》とかいう奴は、願いを叶えるために殺し合う姿を見て愉しもうという魂胆だろう。根拠は今の青年の説明で十分だ。
この魔法を顕在させた者がまだ生きているかは知り得ないが、少なくともその趣向はどうやら青年(魔法)にも受け継がれているらしい。
《神》とも呼べる者が殺し合いを見て愉しむなど……。全く皮肉もいいところである。
しかしそんなことは時無にはどうでもよかった。殺し合いなどという行いは彼にとって“日常茶飯事”であるし、そんなものをするだけで一つ願いが叶えられるというなれば、これほどおいしい話はない。
これで長年追い続けてきた目的が果たせるならば、これくらいの危険は皆無に等しい。
しかし当然ここにいる全員の魔術師がそう思うわけではなく、すぐさま反発の声が上がった。
「ちょっとふざけないでよ! わたしは殺し合いなんて危ない真似、したくない!」
声の高さからして女性だろうか。荒々しく叫びながら抗議するも、青年は余裕の態度を崩さない。
「……勘違いしていそうなので言っておきますが、私はべつにあなた方にしてくれと頼んだ覚えはありませんよ。ただあなたが殺し合いたくないと言っても、他の誰かが願いを叶えたいと思っていたら、あなたは問答無用で殺されるでしょうね。――つまりここに連れて来られた時点であなた方に選択権はないんです。願いを叶えられるかもしれないというのに、そんなくだらない偽善のせいで自らの命を棒に振るか。それとも大願成就という大儀名分の下に他者を殺し、あわよくば勝ち残り願いを叶えるか。……どちらが利口な判断かは、明白だと思いますよ」
無機質な声が、今起きていることは現実なのだと突きつけてくる。青年の容赦ない宣告に、彼女は悔しそうに拳を握りながらもそれ以上の反論はしなかった。
他の魔術師たちも異論は無いのか、皆一様に青年を黙視する。
それを見た青年は満足そうに頷いた。
「さて、どうやらこれ以上話す必要は無いみたいなので私は失礼しますね。……あぁ、忘れていました。この建物から出れば食料や水など生きるための最低限の生活用品が置いてある場所がいくつかございます。狂宴が始まるまでまだ時間がありますので、まずは拠点の確保をしてはいかがでしょうか。――それでは開幕の時にまた会いましょう」
最後にそう言い残した青年は、風にさらわれていくように静かに消えていった。
しばらくの間、室内に沈黙が流れる。
「……くそ、もうどうにでもなれ」
沈黙に耐え切れなくなったのか、一人の男が広間を出ていった。それを機に他の面々も一人また一人と拠点を探しに広間から出て行く。
一人広間に残された時無は、ふと礼装であり今はもう自身の手の一部と言ってもいいほど馴染んだ得物を見つめた。
鈍い銀色のフォルムをした、普通なら魔術師とは縁のない武器――銃。己の望みを叶えるために、自分の中で何かが壊れた“あの日”からずっと使い続けているものの一つだ。
あの時誓ったことを実現する。そのためにこの銃はこれまで何人もの血を吸ってきた。
しかし心のどこかでこの願いは叶わないものなのではないかとずっと思っていた。でも今は違う。
もし本当にこの悪戯で生き残ったなら、不可能に近かったこの願いは成就する。
そう。ようやく終わりが示されたのだ。
ならばこの戦い、どんな理由があろうとも、負けることは許されまい。
成すべきことは唯一つ。あらゆる手段を用いて他の五人を屠り、最後の一人となること。ただ、それだけだ。
珍しく昂ぶっている自身の魔力を感じながら、時無は覚悟を決めた。