プロローグ とある少年の過去の話
父が死んだ。
不器用だが、それでも家族のことを第一に考えてくれていた大きな背中が、崩れ去るように倒れた。
それを見た母は真っ先に父の下へ駆けた。瞼いっぱいに涙を溜めながら、しかしその涙が流れることはなく、慈愛に満ちていた母は糸が切れたように事切れた。
それに続くように怒りに震えていた姉も、瞬きする間に逝った。何かと世話を焼いてくれたその華奢な体躯が朽ちる姿はあまりにも呆気なかった。
一人、一人、また一人と人が死んでいく。
秒を刻むごとに、周囲から心臓の鼓動が一つずつ消えていく。家族や親しかった人から、一度顔を見たことがあるかどうかという知り合いとも呼べない近所の人まで、余すことなく死は平等に訪れていた。
しかしそれでも一番近い心臓の音だけは、絶えることはなかった。
つかの間の静寂を得た街に一人残された《少年》は、腰が抜けたようにその場に座り込んでいた。
瞼に涙を溜めもせず、その瞳に怒りを宿すことも無く、声を上げることすらできずに。地獄へと化していく自分の街を、ただただ傍観することしかできない。
それほどまでに今目の前で起きている惨劇は、まだ年端も行かぬ少年には理解ができなかった。
そしてあろうことか、この惨劇の元凶たる《男》は、《少年》を今回の“実験体”にすることを決めた。
《少年》の目の前に銃が投げ捨てられる。それも後は引き金を引くだけで銃弾が発射される状態だ。
ただ漠然と目の前に投げられた銃と《男》を交互に見つめる《少年》に、《男》は愉快な顔で呟いた。
“君の願いは、なんだ――?”
投げかけられた問に、しかし《少年》は何の解も示さない。
《男》が無防備である今こそ、家族を目の前で殺した相手に復讐できるチャンスであるというのに、《少年》はまるで置物であるかの如く微動だにしない。
そんな《少年》に《男》は何をするわけでもなく、満足気な笑みを浮かべるとゆっくりとその場を立ち去った。
今度こそ確かな静寂を取り戻した街には、生気などどこにもなく、ただ恐怖から解放された壊れた子供が一人いるだけだった――。
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです!蒼鳥です。
ようやく連載することができました。
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