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無計画な転職  作者:
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また、くびになっちゃった・・・

 ううぅ・・・


 夕暮れの町を、小さな人影がとぼとぼと歩いていた。季節は、冬。

 エリーゼは、住み込みの家庭教師をくびになり、たった今住む場所まで失った。


 ああ、寒い。心の中まで。 


 ポケットの中をまさぐってもたいしたお金は入っていない。今度は紹介状すら書いてもらえなかった。これでは仕事が見つからない。死活問題である。

 

 これはまずい。

 真剣に。

 本当に、どうしたものか。


 勤め先のあった高級住宅街をあてもなくさまよう。高い塀に囲まれた、立派な屋敷が建ち並ぶ通り。どの家々も、来るクリスマスに向けて、クリスマス飾りをキラキラと飾りつけている。分厚いカーテンをかけたアーチ状の窓からは、オレンジの光がこぼれている。邸宅の中の暖かな様子を見せつけている様だ。

 

 こうなれば、夜のお仕事でも何でもやってやる。


 半ばやさぐれて、おかしな決意を固めてみる。

 しかし、自分の格好を見回してみるとすぐにそんな気はなえる。

 とても十代には見えない、地味な紺の詰め襟ドレス。固そうな革靴。いかめしい眼鏡。やぼったい、でかいだけの鞄。

 実家のばあやの格好と大差ない。


 これがどうやって、夜の蝶になれるというのか。


 襟ぐりの大きく開いたドレスなんて、もう何年も着ていない。爪の手入れはおろか、肌の手入れもご無沙汰しまくっている。おまけに、追っ手を逃れる為に染色を繰り返した髪は、本来の色つやを全く失って、ぼさぼさである。

 夜の、とかそう言う事をぬきにしても、うら若き乙女として終わっている気がするのは、どうがんばったって気のせいではないだろう。


 ・・・。

 あきらめて、実家に帰れという事だろうか。

 いやいやいや、そんな事をすれば一瞬のうちに結婚させられてしまう。

 自立。

 そう、自立した大人の女性にならなくては。


 エリーザは、結婚がいやで実家を飛び出した家出少女だった。家を飛び出すまでは、れっきとしたお姫様だったのだ。

 もちろん、多少のお転婆を繰り返してはいたが。

 たくさんの侍女たちにかしづかれ、大切に、大切に、育てられた。超箱入り娘だったと言っても過言ではない。幼い頃に母が亡くなったため、父や兄たちには、それはもう溺愛されて育った。

 想いを交わした相手もいたにはいたが、3年前に遠い異国の地に留学へ行ったままいっこうに戻ってくる気配も、便りもない。待っていてくださいね、とは言っていたが、私のことなど忘れたんだろうな。と思う事はや数年。

 そんなものに、すがりついていさせてくれるほど、実家は寛容ではなかった。このままでは、うちの娘が嫁き遅れる、と、次から次へと父が用意する婚約者候補。釣書の山。よくもまあ、こんなに適齢期の男性がいたものと、あきれるほどの数だった。

 それらを、粗大ゴミよろしく掃いては捨て、掃いては捨て、を繰り返していたら、号を煮やした父が、ついに既成事実を作ってしまえと男をけしかけるようになった。流石に兄たちが、必死で守ってはくれたが。

 しかし、


 冗談じゃない。


 と家を飛び出したのが、1年ほど前。以来、自分のお嬢様スキルを活かしつつ、いけてないオールド・ミスになりきり家庭教師業に邁進していた、という訳である。今のところ、実家に見つかってはいない。

 恋人も見つかっていないが。

 しかし、もともとおてんば少女だった彼女が、しおらしく厳格なオールド・ミスを演じきれるはずもなく。子どもたちとつい、はしゃいで鬼ごっこやかくれんぼに興じる事数回。三度目の解雇と相成った訳である。

 エリーゼとて、来年で20歳になる。貴族としては完全に嫁き遅れだし、うるさ方の気持ちもわからなくはない。親の面子も完全に丸つぶれである。なんて、親不孝な私。と思わなくもない。基本的に、家族の事は大好きだ。


 だからって、知りもしない男の方とそうほいほい簡単に結婚させられてたまるものですか。


 意気込んだところで、ごほ、と変装様の綿を口から取り出す。顔の造作を帰る事など、もはやお手の物である。綿を使うのは、偶然に出会った旅の一座に教えてもらったやり方だ。他にも、老け顔メイクや白髪カラーリングなど、怪しげな道具をたくさん持っている。

 しかし、変装も板についてきたとはいえ、如何せん不自由である事に変わりはない。はやく現状を打破したい、という気持ちや、弱音も徐々に大きくなってきている。そんなところに、今回の解雇である。さすがに骨身に沁みようと言うものだ。

 もはや、意地しかなかったのに、そのなけなしの意地も崩れてしまいそうだ。しかしながら、一年も意地を張り続けてどうやって引っ込めろというのか。

 引っ込みがつく訳がない。

 エリーゼはひとまず、今日は適当な宿で夜を凌ぎ、明日の朝、職業斡旋所に行ってみようと決めた。婿を取りたくないのなら、他に選択肢はない。


いや、でも、流石に、泣きそう。


 今夜は絶対泣き明かしてやる、と決め、目についた安宿の戸を叩いたのだった


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