咲樹は機械狂い
最初の部活動はあまりに意外な内容だった。まさかの自由時間、己の好きな事をやれと力強く叫ぶ変態部長こと片那
「自由時間って何すればいいんですか?」
「あー、敬語は無しでいいぞ咲樹。自由時間は自由時間だ。何やってもいい。他の部活に参加する事も可能。だけど私が放送で呼び出したら5分以内に来るように」
「ちょっと待て。他の部活に参加可能って、なんで!?」
「なんでって、……なあ?」
視線の先には髪を縛っている沙耶先輩が。……片那と姉妹らしいが、この先輩だけはまともなんだよな
「えっと、真理亜先輩の事知らないの? 刹那君も面識ある筈だけど?」
「肘鉄?」
「……入学式の時いきなり話振られたよね?」
……え?
いや、まさか、そんな莫迦な。つまりあの変態はアレという事か? あり得ない、あり得ないよいくらなんでも!
「気持ちはよく分かるけど生徒会長で間違いない、……間違いないんだよ」
絶句した。何か言おうと思っても言葉が出ない。なんだろう、喉に魚の骨が刺さった時みたいな気持ち悪さがじわじわと……
「ちなみに私はこの学校一の問題児でな。問題を起こさないのを条件にこの学校では何でも出来る。あ、問題と言っても不良とは違うから安心しろ」
今までの言動の何処に安心出来る要素がある?
あと学校が折れるような問題児って……いったい何をした?
「助っ人で出た大会全優勝、街の治安維持の為にヤクザを8割潰した。残ってるのも弱小ばかりだから警察でもなんとかなるな。後は犯罪者を現行犯で7回程捕まえたかな? その報復で何度か学校に莫迦共が来たが、なに。片那ちゃんの3分クッキングを何人かに試したら半狂乱になって帰ったよ。いやはや、あの時は楽しかった」
……空が青いな(現実逃避)
まあ、ともかく……そのお陰で料理研究部に行ける事になったのは行幸だ。あの部活は色々な調味料があるから楽しみなんだよな
……うん、楽しみにしてたんだ
「しくしくしくしく…」
何故か料理器具にほとんど触れる事が出来ず、エプロンを着てから強制的に写真撮影に……せめてクッキー作らせて。咲樹にあげる約束してるんだ。渡せなかったら多分悲しそうな目で見られるんだ
「あー、ごめんね。もう何枚か撮ったから作ってもいいよ?」
「ほ、本当に?」
「う、うん……涙目威力高いわ(ボソッ)」
何か呟いていた気がするけど気にせず材料と器具を用意する。……時間もないし、簡単なのでいいか
とりあえず薄力粉と砂糖は必須として、バターはアレルギー分からないからマーガリンで代用。まあ、これなら失敗しないだろう。個人的に普通に美味しいと思うし
振るった薄力粉と砂糖をボウルに入れてマーガリンを投入。粉っぽさが無くなるまで混ぜる
混ぜた物を麺棒で均一に伸ばし、それを型抜きで切り抜いていく。ちなみに今回は丸型、一番使いやすいよねこの形
さて、切り抜いた物を余熱(170℃)しておいオープンに入れて待つこと約20分。簡単クッキーの出来上がりだ
「一枚貰ってもいい?」
「いいですよ」
「じゃあ有り難く、あむ……うん、悔し、美味しいよ」
「ありがとうございます!」
とりあえず料理研究部を後にして、咲樹がいる部室に戻る事にした
◆ ◆ ◆
入ってすぐにUターン。おかしいな、精々一時間ちょっとしか出てなかったのに部屋がメカメカしてる気が……あはは、なんだこの機械。バイクのフルフェイスメットが繋がってるや
「あ、せっちゃんお帰り!」
「う、うんただいま咲樹。はい、お土産のクッキーだ」
「ありがとう! 調整終わったら食べるから待ってて!」
……普段の弱々しさなんて何処へやら。白衣を着た咲樹はまるで玩具を貰った子供のように楽しげに色々な操作をやっている。ぶっちゃけると何をしてるか全く分からない。分かるのは、それが凄まじく速い事くらい
[紅茶入れました]
「あ、うん。ありがとうシロ」
「ふう、……ちょっと手を洗ってくるね」
……もしかして、この部活で常識人なのは俺と沙耶先輩だけなのかもと真剣に悩む
[大丈夫、沙耶先輩も含めて全員変人奇人変態の集まりですオカマスター・セツナ]
「マジで砕くぞコラ」
[まあこわいー。わがはいみにまむますたーにこわされちゃうー]
「棒読み凄く腹立つな。しかも莫迦にするのを忘れないのはある意味尊敬するわ」
[ありがとうございますマスター・セツナ]
欠片も誉めてないから
「お待たせ、クッキー食べよう!」
「無駄に元気だな咲樹」
「機械に囲まれてるから、……学校でも囲まれるようになるなんて幸せ♪」
……なんだろう、咲樹がちょっと怖い