四章 こわいのは、雷?それとも、恋?それとも…幸せ?
屋敷の門前。馬車を用意した私に、子供たちが群がった。
「母上、危険です。護衛は必須です」
と、コンラッド。
「母さん!俺も一緒に行く!」
ジャック。
「母さま、僕って魔法使いだよ」
カイル。
「お母様、馬車で毛布を!」
エレナ。
「ママ、静養中なのにっ!」
ルリア。
「はいはい、ありがとう。でも――」
私は五人を順に見渡した。
「これは“母”の役目よ。家を守るために、水脈を整える。あなたたちはそれぞれこの国での役目をきちんと守るのよ」
「……」
渋い顔をした子供たちの背後から、軽やかな声が重なる。
「安心して。僕が一緒だから」
セドリックが外套を羽織り、にこやかに立っていた。
「……信用していいの」
ルリアが低く唸るような声で聞く。
セドリックは真剣な眼差しで言い切った。
「ああ、必ず守る。――王位とアウラへの想いを賭けて」
皆が一瞬、息を呑んだ。
(…お、王位をかけるなんて、簡単に言わないでよねえ…)
私も動揺していたが、子供たちが黙っている間に私はそそくさと馬車に乗り込んだ。
「すぐ戻るわ。心配しないで」
子供達が馬車を見送りながら
「殿下が王位より大事な母上への恋を賭けるなんて…」
「本気で守ってくれるってことだなあ」
「お母様の事になるとあの人、なりふり構ってられないのね」
「実質、告白みたいなもんだわ!」
「…母さま、にぶい」
と、口々にぼやいていたことは、知る由もない。
◇
森の泉。水面は薄く揺れ、澱んでいた。自然にある魔力が大きく歪んでいる。
「やっぱり……」
私は魔力を込めた護符を並べた。
「南東が弱いかな。……僕が手を貸す」
セドリックが隣に膝をつく。
護符に魔力を流し込むと水面がふっと澄んだ。
「これで数日はもつわ。後日、改めて山の方できちんと整えないと」
「その時も一緒に行くよ――アウラ、師としてじゃなく、私のことももっと頼って」
「……公務は?」
「私用を優先するよ」
「もう……あなたは弟子の頃から変わらないわね」
「うん。歴史上、師匠に惚れ込む弟子は珍しくないだろう?」
「それを公言する弟子は珍しいの」
「では、私が第一号かな?」
掛け合いに笑い合う。
「さ、帰りましょ……」
そう言った瞬間、空が鳴った。
――ゴロッ。
「……っ!」
膝が崩れた。思わず耳を塞ぐ。
「……あ、あ、あぁっ!」
カッと光り、雷が落ちる音が大きく鳴った。
耳を押さえたまましゃがみ込む。息がうまくできない。
(いや……やめて……あの夜を思い出してしまう……!)
「アウラ!」
強い腕が肩を支えた。
セドリックが私を抱き寄せる。
「大丈夫、大丈夫だから」
耳元に落ちた声が、雷よりも低く響いた。
「……やめて……やめて、か、雷は……」
声が震えて止まらない。
抱きしめられたまま、優しく背中を撫でられる。
「……泣かないで」
「な、いてない……!」
「嘘。君は前も、泣いていた」
あの頃。まだ彼が少年だった頃。護身魔法を教えた雨の日。雷に怯えて泣いた私を、同じように抱きとめてくれた。
「……そのときから、好きだった」
「な、何を……」
「アウラ。僕は君を必ず守るよ。呪いだろうと、雷だろうと」
優しい言葉に、視界が揺れ、彼の胸に額を押しつけた。温かい掌が背を撫でる。
唇が近づく。思考よりも先に、心臓が大きく跳ね――
ズキンッッ!
激しい頭痛が襲った。
「……ああぁッッ!」
「アウラ!」
視界が白く弾け、力が抜ける。セドリックが慌てて治癒をかけ、抱きとめた。
「……呪いが恋を拒んでる」
彼の声は震えていた。
「……必ず、解呪する」
額に手を置かれ、柔らかな光が痛みを溶かす。
私は小さく首を振った。
「たいしたこと、ない……これくらい……」
「私がそうしたいんだ。君に恋をしてほしい――私が君に恋をしているから」
その強い眼差しに、私はまだ返す言葉を持っていなかった。




