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四章 こわいのは、雷?それとも、恋?それとも…幸せ?

 屋敷の門前。馬車を用意した私に、子供たちが群がった。


「母上、危険です。護衛は必須です」

と、コンラッド。

「母さん!俺も一緒に行く!」

ジャック。

「母さま、僕って魔法使いだよ」

カイル。

「お母様、馬車で毛布を!」

エレナ。

「ママ、静養中なのにっ!」

ルリア。


「はいはい、ありがとう。でも――」

私は五人を順に見渡した。


「これは“母”の役目よ。家を守るために、水脈を整える。あなたたちはそれぞれこの国での役目をきちんと守るのよ」


「……」

渋い顔をした子供たちの背後から、軽やかな声が重なる。


「安心して。僕が一緒だから」

セドリックが外套を羽織り、にこやかに立っていた。


「……信用していいの」

ルリアが低く唸るような声で聞く。

セドリックは真剣な眼差しで言い切った。


「ああ、必ず守る。――王位とアウラへの想いを賭けて」


 皆が一瞬、息を呑んだ。


(…お、王位をかけるなんて、簡単に言わないでよねえ…)


私も動揺していたが、子供たちが黙っている間に私はそそくさと馬車に乗り込んだ。


「すぐ戻るわ。心配しないで」


子供達が馬車を見送りながら

「殿下が王位より大事な母上への恋を賭けるなんて…」

「本気で守ってくれるってことだなあ」

「お母様の事になるとあの人、なりふり構ってられないのね」

「実質、告白みたいなもんだわ!」

「…母さま、にぶい」

と、口々にぼやいていたことは、知る由もない。



 森の泉。水面は薄く揺れ、澱んでいた。自然にある魔力が大きく歪んでいる。


「やっぱり……」

私は魔力を込めた護符を並べた。

「南東が弱いかな。……僕が手を貸す」

セドリックが隣に膝をつく。


 護符に魔力を流し込むと水面がふっと澄んだ。

「これで数日はもつわ。後日、改めて山の方できちんと整えないと」


「その時も一緒に行くよ――アウラ、師としてじゃなく、私のことももっと頼って」

「……公務は?」

「私用を優先するよ」

「もう……あなたは弟子の頃から変わらないわね」

「うん。歴史上、師匠に惚れ込む弟子は珍しくないだろう?」

「それを公言する弟子は珍しいの」

「では、私が第一号かな?」

掛け合いに笑い合う。


「さ、帰りましょ……」


 そう言った瞬間、空が鳴った。

――ゴロッ。


「……っ!」

 膝が崩れた。思わず耳を塞ぐ。



「……あ、あ、あぁっ!」

 カッと光り、雷が落ちる音が大きく鳴った。

 耳を押さえたまましゃがみ込む。息がうまくできない。


(いや……やめて……あの夜を思い出してしまう……!)


「アウラ!」

 強い腕が肩を支えた。

 セドリックが私を抱き寄せる。

「大丈夫、大丈夫だから」

耳元に落ちた声が、雷よりも低く響いた。


「……やめて……やめて、か、雷は……」

 声が震えて止まらない。

 抱きしめられたまま、優しく背中を撫でられる。


「……泣かないで」

「な、いてない……!」

「嘘。君は前も、泣いていた」


 あの頃。まだ彼が少年だった頃。護身魔法を教えた雨の日。雷に怯えて泣いた私を、同じように抱きとめてくれた。


「……そのときから、好きだった」

「な、何を……」

「アウラ。僕は君を必ず守るよ。呪いだろうと、雷だろうと」


 優しい言葉に、視界が揺れ、彼の胸に額を押しつけた。温かい掌が背を撫でる。


 唇が近づく。思考よりも先に、心臓が大きく跳ね――


 ズキンッッ!

 激しい頭痛が襲った。


「……ああぁッッ!」

「アウラ!」


 視界が白く弾け、力が抜ける。セドリックが慌てて治癒をかけ、抱きとめた。


「……呪いが恋を拒んでる」

彼の声は震えていた。


「……必ず、解呪する」

額に手を置かれ、柔らかな光が痛みを溶かす。


 私は小さく首を振った。

「たいしたこと、ない……これくらい……」

「私がそうしたいんだ。君に恋をしてほしい――私が君に恋をしているから」


 その強い眼差しに、私はまだ返す言葉を持っていなかった。


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