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六話 情報過多

一体、私たちはどうなってしまうのだろう。ガタゴトと揺れる馬車の中、紺髪さんと向き合う私は若干現実逃避気味にそう思っていた。

あのあと、私たちの目的地がパリオン皇国だと知った彼は、無言で剣をしまっていたエルディに

「パリオンの皇城に行く。出発しろ」

と伝えたかと思うと、呆然とする私を馬車の中に放り込み、自分も私の前の席に腰を下ろしたのだった。エルディが戸惑いながらも馬車を動かしたのが数分前である。


「・・・」


お互いが全く何も話さなくて、流石に気まずい。そもそも名前も知らないし、何が目的かも分からない。自分の屋敷なら聖女の私をお抱えにしてその力を独占しようとした人は過去にもいたから理解ができるが、皇城に連れて行くのは本当に意味がわからない。皇子や、皇帝ならば国のために働いてもらおうと思ったか、力を独占する貴族の皇族バージョンなのかと思うけれど、多分それはない。

パリオン皇族の直径の人間は皆、金髪金眼なんだそうで、目の前の人は紺髪、青眼。どちらも見事に反対色だ。

じゃあ何故?国の偉い人?うーん、うーんと唸っていると、唐突に声をかけられた。


「名前はなんだ」


「へ?」


「名前だ」


いや、聞こえなかったんじゃなくて。あまりにも突然すぎて。


「あ、サラ・アスティンです」


「そうか」


「・・・」


また馬車の中に静寂が訪れる。このままじゃダメだ。無駄に緊張してしまう。私も何か喋らなければ。謎の義務感で口を開いた。


「あのーーー」


「着いた」


私の小さすぎる声は(たぶん)悪気ゼロの彼の言葉によってかき消されてしまう。若干落ち込んでいると、彼が言った通り、皇城に着いたようでゆっくりと大きな門の前で馬車が止まる。


「身元がわからない方をお通しするわけにはいきません」


「そんなこと言われてもなぁ・・・」


ふと、エルディの声が聞こえた。窓から見てみると、どうも門番と揉めているようだった。

・・・まぁそうだよね。私たちにはこの国の戸籍すらないのだ。そんな怪しい人たちを皇城に入れてくれるわけがない。紺髪さんの指示できただけだからどうすればいいのかわかんないしなぁ・・・。

後ろの方でガチャリと音がする。彼が馬車のドアを開けた音だった。そのままなんのためらいもなく降りて行ってしまう。ぴたりと門番の人の声が聞こえなくなり、その代わりに紺髪さんが何か話している声が聞こえた。

内容まではうまく聞き取れない。五言程喋ったかと思うとまたガチャリと音がして彼が乗り込んでくる。数秒後馬車が動き出し、皇城の門をくぐった。

紺髪さんを見るとまるで、何事もありませんでしたよ、とでも言いそうな顔をしていた。

・・・本当にこの人は何者なんだろう。


◇◇◇


馬車を降りた私とエルディは紺髪さんに着いてこいと言われて大人しくその後を着いていっている。

正装とかしてないし、というか物凄く質素な服なので、なんていうかとても居た堪れない。しかも、この髪色のせいで偶にすれ違う方々にすごい勢いで振り返られる。

・・・お願いだからあんまり見ないでください。お願いだから。

そうして歩くこと数分。特に迷う様子なく進んでいく彼について行った先には、とても豪華な扉があった。扉の取手部分にはツノが三本生えたドラゴンの彫刻が施されている。


ドラゴンといえば、パリオン皇国を象徴する成獣で、この意匠を普段から身につけていいのは確か、皇帝と、皇位継承権がある人間だけ。

皇帝が首が三つあるドラゴンの意匠でそのほかは一つ首のドラゴンで、ツノの数は継承権の順位を表しているんだっけ。

・・・つまり、この中にいるのはーーー


「入るぞ」


紺髪さんはそれだけ言うと扉を開けてしまう。そのまま当たり前のように中に入ってしまった。

・・・嘘でしょう?私たちはどうすればいいんですか。あなたの言葉が足りないために困ってますけど?

当の本人は不可解なものでも見ているように首を傾げた。


「何をしてんだ。さっさと入れ」


尊大な態度にちょっとイラッとする。隣りのエルディが無表情で腰に刺している剣を撫でた。

・・・エルディ。気持ちはすごくわかるけどそれだけはやっちゃダメだ。すごくよく気持ちはわかるけど。


「・・・失礼いたします」


恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れる。思った通り、そこにいたのはーーー


「やぁ!初めまして!君がエルディの言っていた聖女さまか!僕はアルカス・パリオン。この国の第三皇子だ。さっ、立っていないで座ってくれ」


笑顔が眩しすぎる、金髪金眼のパリオン皇国第三皇子、

アルカス・パリオン殿下だった。


◇◇◇


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


出された紅茶を持つ手が緊張で震える。

王国の聖女時代、王や王子とも何度か会ってきたが。しかし、この時はこんなお粗末な格好じゃなかったし、そもそも王と皇帝は全然別物なのだ。

王が統べるのは自分の国一つだけだが、皇帝が統べるのは自分の国を含めた二つ以上の国。王よりも格上の存在。別格なのである。それなのにエルディは平然としている。

・・・なんで?


「それにしても本当に綺麗な髪だね。途中から髪色が変化して銀髪になる人と生まれつきの人がいるというけど君はどっち?」


私の動揺に気づかないのか、殿下は興味津々と言った様子で目を輝かせながら問うてくる。

・・・やめてほしい。私のキャパはもういっぱいいっぱいなの!


「う、生まれつきです」


「アルカス、その辺にしてやれ。私の許容量は超えてますって顔をしている」


ナイス紺髪さん!って一瞬思ったけど、一番の原因はあなたですからね?その紺髪さんの言葉に少しだけ冷静になる。そして、冷静になって、気づいた。

・・・紺髪さん、今殿下のこと呼び捨てしてなかった・・・?


「あ、あああの、殿下」


「もう、堅苦しいな。名前で呼んでよ」


「アルカスさま。ずっと気になってたんですけど、こんが・・・ん"んっ。そこの方は一体・・・?」


完全にパニック状態になっていた私は言われるがままアルカスさま呼びになってしまう。そしてアルカスさまは紺髪さんの方を向いた。


「あれ?カイルまだ名前言ってなかったの?」


「そういや言ってなかったような・・・」


「うわ〜サラさん付いてきてくれたね。怪しすぎるよ」


「慌ててたんだから仕方ない」


「開き直っちゃダメでしょ。はぁ、まぁいいや。

サラさん。この人は僕の親友兼幼馴染のカイル・ユライト。

大魔術師の資格を持っていて、第一魔塔主をしているんだ」


大魔術師・・・?第一魔棟主・・・?フットワーク軽めな会話の中に突然投げ入れられた爆弾に、私の頭と体が硬直する。

いくらなんでも展開早すぎるって。私には追いつけない。


「お嬢さま⁉︎」


視界がぐらりと揺れる。そして許容量をとっくにぶっちぎっていた私は、エルディの焦った声と共に意識を手放したのだった。

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