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五話 魔獣と魔法使い

泣き疲れて寝ていた私は御者のエルディの声で目が覚めた。一度馬を休ませるためにお昼休憩を取るとのことでゆっくりと馬車が止まる。


エルディは神殿長が護衛も兼ねて付けてくれた人で、幼い頃から、神殿長が留守の時の私の世話や、いつも護衛として側に居てくれた信頼できる兄のような人だ。

何より、忠実で私に魔力が無いことを知る数少ない人物だが、そのことを誰にも話さなかった。

しかもエルディは強い。王国の中で片手に入る剣士の資格を持っている。

そして昨日神殿に戻り、国外追放になった、と伝えた時、即座に「自分がついていく」と言ってくれた人でもある。


因みに、何故エルディが秘密を誰にも言っていないのか分かるのかというと、神殿の中には神の御加護により嘘がつけない部屋が存在するのだが、そこに神殿長がエルディを放り込んで秘密を誰にも伝えていないかなどを確認したところ全て白だったという。

それでユリアも尋問してみればよかったのかもしれないけど、ユリアは事前に外泊許可を取っていて実家に泊まっていた。計画的に私を陥れたということだ。

うーん。悲しい。


「エルディ。一緒にご飯食べよう」


現在地を教えて欲しいので、御者席のエルディを呼ぶ。


「サンドイッチあります?卵が入ったやつ」


「あるよ」


エルディは卵が入ったサンドイッチが好物なんだ。

エルディが馬車の中に入って来ると、私は地図を広げてみせた。


「エルディ、今どの辺にいるかわかる?」


「正確な位置ではありませんけど、距離や地形の特徴からしてこの辺ですかね」


「ありがとう。じゃあパリオン皇国にはもう入っているんだね」


エルデイが指し示したのはパリオン皇国に少し入った森の中だった。


「あれ?でも国境門くぐったっけ」


「くぐってませんよ。此処はほぼ先住民族の自治区なんだそうで森を抜けたところに国境門があるみたいですね。

そもそもお嬢さまはさっきまで寝てたんですから、

くぐっててもわかりませんよね」


「うぐぅ」


エルディは少々ずけずけと物を言い過ぎだと思う。そういうところがいいんだけど。

サンドイッチを食べ終えた私は座席を立ち上がる。


「エルディ外に出てもいい?」


「構いませんけどどうしてです?」


「外の空気が吸いたくて。ちょっと考え事もしたいし」


「わかりました。この辺は魔獣が出るらしいので気をつけてくださいね」


「わかった。じゃあついでに周りに対魔獣の結界張っておくね」


私は卵サンドを頬張るエルディを残して外に出た。ぶわりと肺に入ってくる新鮮な空気が心地よい。

私は一度大きく呼吸すると目を閉じ、結界を張っていく。

目を開けて周囲を見渡すといずれも一定の所から景色が陽炎のように揺れていた。

ちゃんと張れたみたい。

私はふと王国の結界のことを思い出した。

・・・そういえば、王国の結界はどうなったんだろう。そろそろ私の力の残滓も消えて結界が完全に消滅するころだと思うけど。

ユリアはどこから私の情報を仕入れたのだろう。情報元がわからないかぎりまた私や今度は神殿長やエルディにもに危害が及ぶ可能性がある。


「お嬢さま、そろそろ出発しますよ」


うーん、うーんと顎に手を当てて考えていたところ、エルディが呼びに来た。


「あ、はーい」


素直に返事をして馬車に戻ろうとしたそのときだった。

ぐわんと私の結界が大きく揺れる気配がして、振り返ると私の結界の周りを狼のような魔獣が取り囲んでいた。


「クライアウルフ・・・。B級の魔獣ですね。一、ニ、三・・・五匹程度ならお嬢様の結界で十分でしょう。壊せないんで去って行ってくれると思いますよ」


魔獣、魔族は『魔物』という生物にあてはまる。魔物には魔法か、祈りの力か、勇者と呼ばれる天恵を持つ人々の攻撃しか効かず、E級〜S級に分類される。そのうちのB級となるとそこそこ強く、魔法使いが五人で倒す程度だ。

私の結界なら大丈夫だとエルディは言うけれど、私が先程感じた結界の揺れはB級以上の力があったように思い、こめかみから汗が伝った。


「不安ですか?いざとなったら俺が全部倒すんで安心してください」


「うん、ならいいけど・・・」


エルディは本当に強い。確かに彼なら倒せるだろう。しかし、一度抱いてしまった嫌な予感はじわじわと広がり続け、消えなかった。

直後、クライアウルフが一斉に結界に攻撃を始めた。何度か攻撃されるうちにピシリと音がして小さくヒビが入った。


「うそ・・・。あのクライアウルフ、やっぱりB級以上の実力がある!」


「これはちょっとまずいかもしれませんね。お嬢様、あと結界、どれくらい持ちそうですか?」


そうしている間にも日々は広がり続けている。このままだと・・・


「あと、十発は耐えられない」


「分かりました」


エルディは腰に刺している剣を引き抜く。その刀身には五つの魔石が並んでいてとても美しい。


「結界が壊れた瞬間に自分だけ囲むように新しい結界を張ってください。俺が魔獣を全部殺すまで解いちゃダメですよ」


「エルディーーー」


「お嬢様、俺を誰だと思ってるんですか?俺は・・・」


エルディがニッと口角を上げた。金色の瞳が凄絶に輝き出す。私の結界はというと、ヒビが大きくなって今にも割れそうだ。


「王国の三本指に入る魔剣士ですよ」


ーーー魔剣士。魔力を斬撃に乗せて攻撃する剣士。エルディは元々貴族で魔力レベルも8なので結構魔力が多いのだが、普段は魔力が少ない貴族がなりがちな騎士として動いているために魔力が少ないと思われやすい。

しかし、その本当の正体は、ほぼ最強魔剣士なのだった。

ヒビはいつのまにか全体に入っていて、クライアウルフがさらに攻撃を重ねてきた。割れるーーー。そう思って固く目を瞑った次の瞬間


「アイスレイン」


低く、冷たい声が響いた。直後、突如として無数の氷柱がクライアウルフたちの頭上に現れたかと思うと、止まっていた時間が動き出すが如く、降り注ぐ。

それはまさに、アイスレインと呼ぶ他にない美しい魔法だった。

氷柱が当たったクライアウルフたちは次々と倒れていく。そして一分もかからずにクライアウルフは全滅していた。クライアウルフたちが倒れた際にたった土埃が晴れてきて、その向こうの景色が見えるようになってくる。

そこには、一人の若い男が立っていた。


少し離れたここからでも分かるほど、信じられないくらい整った顔。紺色の短髪はサラサラと風に揺れるが、ところどころ跳ねているのが幼さを醸し出す。しかし、そのすらりとした長身としなやかな筋肉がバランスをとっている。涼しげなアイスブルーの目元が、私たちを捉えた。彼は私たちの3メートルほど手前までくると足を止めた。


「森で魔獣が頻出してるって聞いたから来てみたが、珍しいこともあるんだな」


彼は私の髪を指差した。


「その髪。お前、聖女か」

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