四話 別れと旅立ち
ちょっと短いので、二話同時投稿です
「本当に結界を張らなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。他の聖女だっているし、それこそ結界の魔道具だってある。心配せずとも、神殿くらいであれば余裕だよ」
翌日の朝、神殿長と私は奥国の国境門の前に立っていた。私は少ない荷物を入れた旅行鞄を、神殿長は白い布袋を抱えている。
本当は、一応罪人なので誰にも見送られず、一人で発たなければいけないのだが、神殿長が昨日のパーティーの後、王子に頭を下げて『見送らせて欲しい』と頼み込んだらしい。嬉しいけれど、やっぱり申し訳ない。
「ところで神殿長。その袋って一体なんなんですか?」
すると神殿長は私の頭ほどもあるそれを少し持ち上げてみせた。
「これかい?これはサラにあげるために持ってきたんだよ」
差し出され、受け取った私はその布袋のあまりの重さに慌てて持ち直した。中を見てごらん、と言われ、ちょっとだけ口を広げて中を覗く、と。
「きっ、金貨⁉︎」
小銅貨から大金貨までざっくざくだった。大金貨なんて平民として生きていたらまず一生お目にかかれなかったと思う。
「これでもわたしは貴族だからね。神殿に入ってからの貯金の三分の二ほどかな?路銀の足しだ。わたしからの餞別だと思って受け取ってくれないか」
神殿長の厚意に昨日枯れたと思った涙がまた滲んでくる。
「でも・・・こんな大金受け取れません」
「わたしにはもうこれほどのお金を使う場所も機会もない。必要のないものだから、どうか貰ってくれ。・・・わたしが親として子供の君にできる最後のことなんだよ」
寂しげな顔でそんなことを言われては断れない。私はありがたく受け取ると馬車に乗り込んだ。
馬車の窓を開けて神殿長を見下ろすと、神殿長は穏やかな顔で手を振っていた。
「・・・っ必ず!落ち着いたら手紙を書きますから、返事をくださいね!」
「勿論。会いにだっていこう。体調に気をつけるんだよ」
あぁ、視界がぼやけてしまって上手く姿が見えない。もうほぼ会えなくなってしまうのに。ぱち、ぱちと瞬きすると涙が流れて少しだけ視界が晴れる。
馬車が動き出した。
「お父さまも!お元気で‼︎」
神殿長の目から一筋涙が流れた。そうして私たちは手を振り続けた。互いの姿がすっかり見えなくなってしまうまで。