三話 父と娘
まだ二話しか投稿していなかったのにブックマークをつけてくれた方が二人もいてとっっっても嬉しかったです‼︎ありがとうございます!これからもこの作品をよろしくお願いします!
「すまない、すまないサラ。何もできなかった私を許してくれ・・・!」
「落ち着いてください神殿長。もう二度と会えなくなるわけじゃないし、むしろ最後は私が望んだんですから!」
神殿に帰ってから神殿長室に呼び出された私。そこには大粒の涙を流し謝罪をする神殿長がいた。
「まさか国外追放にまでなると思わなかった・・・。
王子め・・・よりによって何故国王が不在の時に‼︎サラがいなくなってからサラの凄さに気づいたって、あいつはもう治療してやらないからな‼︎
ユリアも、あとで懲罰房にて聖女の歴史を一から学び直しだぁあ!」
神殿長は、親バカなのだ。
「だから落ち着いてくださいって。
・・・私、思っちゃって。
聖女の皆にも国民にもなんでか知らないけど私嫌われてるじゃないですか。そんなに嫌われているのに、この国を護る理由、あるのかなって。
だったら、誰も私のことをまだ嫌ってない新しい土地で、人生を再スタートさせたいな。今度こそ、皆に愛される聖女になりたいなって」
「サラ・・・」
「神殿長のことは心配ですけど、なら尚更、此処を出て行った方がいいと思うんです。養子縁組も解消して。そうすれば神殿長は書類上他人になりますから立場は守られます。
それに、神殿にだけ結界を張っていきますから!」
「サラ・・・それは!」
「流石に遠い場所からこの国をまるっと包めるだけの結界は維持できません。でも神殿だけなら神具を使えばなんとかなります!」
すると、神殿長は苦い顔をした。
「サラ、君はーーー」
「あ・・・」
ざあっと血の気が引いていく。身内しか頭にない自己中心的な人間だと思われてしまっだろうか。失望されてしまったのではないだろうか。
私の焦りとは裏腹にいきなり神殿長の目から溢れる涙の量が増えた。
「神殿長っ⁉︎」
「サラ、君はーーーどうしてそんなに優しいんだい?」
「え・・・?」
私が、優しい?
思いもよらない言葉に私の思考は停止する。すると神殿長は少しを遠くを見つめるように目を細めた。
「昔話をしようか」
◇◇◇
サラ、わたしは昔は君が思うほど、いい人ではなかった。少なくとも、君を養子にする前までは。
聖女を神殿に入れる為ならなんでもしたし、優秀さだけが、力の強さだけが人の価値だと信じて疑わなかった時期もあった。もちろん、今は違うけどね。
私が32歳。君が7歳の時、わたしは君を見つけた。確か訪問した村の道端で蹲っていたんだ。
「お父さんとお母さんが喧嘩してて、居たら蹴られるから、出てきた」
と言っていた。まだ7歳だったのに。
服も手足も汚れて煤けていたのに、銀色の髪だけは本当に綺麗だった。いや桃色の瞳も綺麗だったね。あんなに辛い環境で育って来たのに、絶えず光り輝いていて・・・。
名前を聞いたら君は、沢山の大人が後ろに控えていたのに一切臆することなく、しっかりと私の目を見て名を名乗ったんだ。こんな子供がいるのかと本当に驚いたよ。
ーーー話が逸れてしまったね。
わたしはそのあと形だけでも許可を取らなければならないから君の両親に会いに行ったよ。
本当にひどい場所だった。酒とタバコと腐ったような匂いが充満していて・・・。金を渡して、君を連れて帰ると言ったとき、手放しで喜んでいたよ。でも、その時でさえあの人たちは君の名前を呼ぼうとしなかった。
その時、ふと思った。
「自分が親代わりに可愛がってやればあの子は私に懐き、文句を言わずに聖女としてのお務めを全うしてくれるのでないか」
君の祈りの力は本当に大きかった。もし魔力があれば、間違いなく伝説級の大聖女になっていただろね。
だからこそ、神殿は君を手放したくなかった。
わたしは養父になった。予想通り君は懐いてくれたよ。むしろ予想以上だった。
今思うと涙が出てくる。七歳まで一切何も勉強せずに育ったのに、三ヶ月後には十歳の子よりも上のレベルのことを学んでいた。
その当時の君に話を聞いたら
『お義父さまに恩返しがしたかったから。でも、まだまだ足りないくらいです』
それだけであれほど努力できる人はなかなかいない。教師に聞けば、毎晩寝ずに勉強しているようだと言われたとき、驚愕した。
あれほどに努力ができて、優秀なのに、慢心せず、むしろ常に上を向いて先を進む人に追いつこうとしている。
眩しかったよ・・・。わたしは随分と前にその熱量を失ったからね。
君はユリアには最初から目をつけられていた。初めて機嫌が悪かったユリアに当たられた時、君はなんて言ったと思う?
自分が至らないから気に触れてしまったのだと、ずっと努力していればいつか認めてもらえるはずだからそのときまで頑張ると言ったんだよ。
君は誰のことも悪いと言わなかった。責めなかった。全て自分だけで背負う。穏やかに微笑んだ君はまさに聖女さまのようだった。
その時にわたしは思った。それまで曖昧にしか思っていなかったことをその時初めてはっきりと捉えることができたんだ。
人の真の価値とは、力の大きさでもなく、立場でもなく、
その人がどれだけ正直に清らかに努力して生きたかである、と。
わたしはサラに本当に感謝しているよ。君のおかげでわたしはもう一度人に期待し、正直に清らかに優しく生きるという目標を取り戻せたのだから。
本当に君が娘でよかった
◇◇◇
話を聞き終えた時、わたしの目からはボロボロと涙が溢れていた。
「ちなみに今は単純に娘として、君が可愛い。周囲の人から親バカと言われるよ。
サラには幸せになって欲しい。だから、今回のことはむしろよかったのかもしれない。今までこの国が君にしてきたのは、君が望んだところではない場所で、サラの将来を決めつけ、縛り付けることだったから。
だから、神殿に結界を張る必要はないよ。養子縁組も解消しなくても、立場は悪くならないだろう。やっていけるさ」
神殿長は本当に優しく穏やかに微笑んだ。
「・・・サラ、君は間違っていない。偶々、分かり合えなかっただけなんだ。そういう人だって、いる。
傷つけられた時は、泣いても、いいんだよ」
神殿長は・・・お父さまは子供みたいに泣きじゃくり蹲る私の頭をそっと撫でた。
言葉が、嬉しかった。愛されていた。私の生き方は正しかった。
そう、思えた。
「ほ、本当は…っ、寂しいです。恐いし…、嫌われてて悲しかった!」
最後の家族団欒だ。家族に本音を言えるのは、もうこれで最後だと思うと悲しくて、悲しくてたまらなかった。
お父さまは黙って言葉を聞いてくれた。
「まだまだ夜は長い。今夜ばかりはちょっとだけ夜更かしして沢山喋ろう。そうだ、厨房からクッキーを持ってこよう。ホットミルクもだ。それを食べて楽しく話をしよう。
…父娘の最後の時間だから」
そうして私たちは、夜がすっかりふけるまで泣いて
楽しい話も悲しい話も面白い話も未来の話も、
沢山した。
クッキーは美味しかった。お父さまが面白おかしく語る話に咽せたりしたけれど、それもこれも全部幸せだった。