10話 聖獣
アルカスさまがユライトさんの言葉に同意するように頷いた。
「そうそう、くらいが高くなるほどプライドも高くなるから本当に苦戦したよ。妖精のパールでさえ僕に懐いてくれるようになるまで半年かかった。
ーーーだから、今のサラさんのような状況って実はかなり稀なことなんだよ」
「へ?」
間の抜けた声が出てしまった。恥ずかしい。
ちなみに今の私の状況といえば、手にはパールを乗せ、頭にはいつの間にかクレアが乗っていた。ちょっと重い。
「まぁ、確かに主人以外ここまで懐くのは初めて見たな」
「そういうものなんですか?」
手のひらに視線を落とす。手の上ではパールがきゅるんとした瞳でこちらを見上げていた。指の腹でパールを撫でてあげると嬉しそうに頭を擦り寄せてくる。
・・・うーん、懐きにくいなんてとてもじゃないけど、信じられない。
エルディが私の手のひらを覗き込んできた。
「そんなんが可愛いですかね」
「エルディよりは遥かに」
「エルディくんも触ってみる?」
アルカスさまに促されてしまったエルディは渋々といった様子でパールに手を伸ばす。
しかし
「ピピぃっ!ビッ」
「いった!何すんだこの鶏肉が‼︎」
「落ち着いてエルディ。本性出ちゃってるから」
いきなりパールに手を突かれたエルディを宥める。
「たかが妖精のくせに・・・っ。精霊はもっと心が広かった‼︎」
手を押さえ唸るエルディの言葉にユライトさんが食いついた。
「お前、精霊と会ったことがあるのか⁉︎」
「せ、精霊を見たことが・・・?それはすごいな。父上でさえ二度ほどしか見たことがないというのに」
アルカスさまが感嘆したような声を漏らす。父上、というのはパリオン皇帝のことだろう。そんな中、私は一人、完全に置いてけぼりをくらっていた。
・・・さっきから妖精とか精霊とか、何それ?
「ねぇ、エルディ、妖精とか、精霊って何?」
「あ〜、そういえばお嬢さまって世間知らずの箱入り娘でしたね。忘れてました」
エルディの
歯に衣着せぬ言い方に眉根を寄せる。
・・・否定はしないけど、世間知らずとはなんだ。一般的な教養しか受けてないし、ほとんど神殿の外に出たことはないけど、言い方ってものがあるでしょう。
「や魔法とか、聖獣とかと関わることはないと思ってたから学んでこなかったんだってば・・・。ざっくりでいいから。ね?」
「そこまで言わなくても教えますって。はぁ…。いいですかお嬢さま。
聖獣とはーーー」
◇◇◇
聖獣。
魔獣と相対する位置に存在する生物。格下から順に妖精、幻獣、精霊といった種がおり、格上になればなるほど魔力も、希少価値も高い。
それぞれ、見分け方は、人と同じような姿であれば精霊。実在する動物の姿でなければ幻獣。反対に実在する動物の姿であれば妖精である。それぞれの種族には王がいて、魔力量が飛び抜けて高く、そしてその魔法属性はーーー聖属性である。
白銀の毛を持つその姿は、とても美しいのだという。
また、種族の王とは別に、聖獣たちには一つ、絶対的な王が存在し、我々はそれを天姫と呼ぶ。
人として生まれ、幾度となく転生を繰り返す彼女についての事はほとんど分かっておらず、王家や神殿の数少ない伝承を頼るしかない。しあし、全ての文献に決まって記されていることがあった。
『天姫はいつの時代にいるとは限らない。天姫が現れるのは魔族の王が再び目覚める時のみ』
◇◇◇
「そうなんだ・・・」
エルディから聞いた話は知らないことだらけだった。聖獣についてほとんど学んでこなかったからなぁ。
「因みに、エルディはそれをどこで知ったの?」
「王立図書館あたりを漁ると聖獣について記された本は結構ありますよ。あとは、会った精霊が教えてくれました」
「ふぅん」
相槌を打ったところでコツコツと、窓が叩かれる音がした。
ユライトさんが窓を開けると蒼い不死鳥が入ってきた。ユライトさんの聖獣のフェリズである。
「そういえば、なんのために飛ばしてたんですか?」
純粋な疑問を口に出すと、ユライトさまがあぁそれね、と返事をした。
「フェリズに情報収集をしに行ってもらったんだよ」
どうやら、私が話したことを裏付ける情報を王国まで集めに行ったらしい。
三、四十分しか経ってないのに一体どうやって・・・。
「別に、この部屋で話したことだから間違いなく真実なわけで、わざわざ情報とか集めに行かなくてもいいんだけど、君を聖女として迎え入れるには必要な作業だからね。国の会議を通して正式に決定を下すには確固たる証拠となる情報がなければならないんだ」
「なるほど」
それもそうだ。国としての正式な判断だから、誰もが納得するような相応の情報源が必要となるのも頷ける。アルカスさまが立ち上がった。
「じゃぁ、僕らはこの情報を持っていかなくちゃならないからお暇するよ。パールは置いていくから遊んでやって欲しいな」
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
アルカスさまに上半身だけで礼をする。私は立ちあがろうとしたけど、エルディや、アルカスさまに寝ていろと止められたし、ユライトさんがジト目で睨んでくるもんなので、大人しく布団をかぶっていることにした。
すると、ユライトさんが突然私に向かって片腕を差し出してきた。
「?」
「クレア。お前もいくぞ、来い」
ユライトさんの声に応えるように頭上からキュイっと何かの鳴く声がした。少し置いて、頭がフッと軽くなる。驚いて、少し上を向くと、赤い不死鳥がユライトさんの方へと飛んでいくのが見えた。
・・・そういえば、あの子、頭に乗ったままだっけ。慣れって怖いなぁ・・・。
そのままフェリズとクレアを連れたアルカスさまとユライトさんは部屋から出て行った。私とエルディ、パールが残される。
「・・・ねぇお嬢さま、この隙にこの鳥焼いて食いません?」
「ピピイッ⁉︎」
「ダメに決まってるでしょ。よしよし、パール、こっちで一緒に寝ていれば安全だからね」
「ピィ〜」
「チッ」
エルディから守るべくパールを手のひらに抱いた私はそのふわふわとした温もりを感じながら深い眠りについたのだった。




