写真タイムトラベラー
初投稿です。
初日の勝負に失敗し、クラスで孤独な少女、畔小鳥が居場所を作る為に写真同好会を立ち上げる話です。
私の経験を参考に、少し美化して文章にします。
写真って時間旅行みたいだなぁ……。
ふと、そう思った。
高校2年生、畔小鳥は教室の隅っこで一人お弁当を食べている。カメラに映る、写真を見ながら。
孤独な訳ではない。居場所ができたから。
私はいわゆる乗り遅れた人。始業式の日に誰にも話しかけず、誰にも話しかけられなかったちょっと悲しい人。
中学の時まではそうでもなく、誰とでも分け隔てなく仲良くすることができた。準備登校でも他クラスに1人友達ができた。しかし、高校の入学初日。直感で思った。
あ、無理かも、と。
周りは化粧と香水の匂いで溢れ返り、初日からギャアギャアワアワアとうるさいったらありゃしない。男子は存在感が薄いし……。どうなっているんだ?私、こんな高校選んだっけ?
聞き耳を立ててみると、どうやら中学が一緒だったり、ネットで知り合っていたり、とにかく初めましてではなかったようだ。そんな中、一ヶ月前にスマホを持たせてもらった私にはネット事情や最近の流行など全くわからず、癖毛も変な方向に伸びている始末。
……つまり、浮いていたのである。
このままではいけないと、髪の毛のお手入れを始めたり、みんなが使っているようなアプリを入れてみたり、クラスに友達を作ろうと頑張って声をかけていったり、でも、全部、失敗失敗失敗……。
タイプが合いそうな子達にもお弁当一緒に食べよう、と誘ってみるが、3日も持たない。
そして、聞いてしまったのだ。
「やっぱり、グループ作るなら偶数がいいよねー。」
私がいると7人になる。
間接的に、私は邪魔だと言われたのだ。
それでも、私は見捨てられるのが怖くて、必死にしがみついた。
だけど……。
いつものように自分の席でお昼ご飯を食べていたんだ。一人で。
そしたら、前の席で食べている4人グループの女子達がクスクス笑っていて、なんだろうと思って顔を上げた。
そしたら、スマホで私を隠し撮りしてたんだ。
それを理解した瞬間、何かを失ったような、諦めたような感覚に陥った。
「そんなことに使うなよ……」
…………。
必死になって友達を作ろうと頑張るのって、ちょっと惨めだな。
そう思った。
それからはクラスに友達を作ろうとはしなかった。
そのせいで、今まで感じなかった孤独を知ることになった。
班決め、グループワーク、お昼ご飯。必ずあまり物になって、私と組むと嫌な顔をされる。
毎回毎回毎回毎回、心臓の音が聞こえる。
ドッドッドッドッドッドッ…………。
いや、だなあ。
「ねえ、優奈、写真、興味ない?」
準備登校の時に友達になった優奈とは、いつのまにか呼び捨てで呼ぶほどの仲になっていた。
ジュースを飲みながら帰る様はなんだか学生っぽい。
「え、どうしたの?興味無くはないけど……」
中学の時まで友達が周りにいた当たり前が一変。クラスに友達が一人もいなくなって、居場所が欲しかったのかもしれない。
すがりつくように言った。
「写真同好会、作らない?」
ああ、私って本当に……。
「いいよ。」
「……え?」
あっさりと答えられたから、本当にいいのか疑う。
「……なんで小鳥が意外な顔してるの?」
「だ、だって、あまりにもあっさりと……」
「だって楽しそうじゃん。なかなかできることじゃないし、今部活入ってないから時間もあるし」
トットットットットットッ…………。
心臓がドキドキする。だけど、これは嫌なやつじゃない。
嬉しいし、ワクワクするし。
「あ……ありがとう、優奈、私、私、ワクワクしてきた!」
持つべきは友達ってよく言うけど、それってきっと私にとって優奈のことだ。
それからと言うものの、写真同好会を作るために人数集め、ポスター作り、会議、申請、色々な事を計画した。
頭の中はそれでいっぱいだ。そのせいでテストの点数が落ちたのは……、まあ、無視しよう。
そうしていくうちにクラスでの孤独感はちっぽけな物になっていった。
クラスに友達ができた訳ではないけど、気持ちの大半を占めていた嫌なモヤモヤが、目標が出来た事によって端に退けられた感じだ。
「まずは人集めだね!と言っても……。」
私達は友達の幅が狭く、なかなか難しい。
最初から最難関だ。
「クラスで部活に入ってない子に声をかけてみようか。」
「あ、うん」
クラス、という単語が出てきた時に、ほんの少しだけ心臓が跳ねた気がした。
……私って、こんなに弱かったんだ。
孤独がどんなに私にとって辛い事なのか、中学の時までは考えもしなかったなぁ。
一人でいる子って、みんなこんなに辛い思いをしているのかな?
いや、多分それは違うんだろうな、一人でいることと孤独はイコールにならないし、一人が好きな人もいる。
……あ、人間ってめんどくさ。
寝る前に考えてみる。
宇宙のどこかに、地球みたいに生命が存在する星があったとして、そこに生きる者は私みたいな思いをするんだろうか。そこに生きる者は、私みたいに他の星の生命体に思いを馳せるのだろうか……。
「おじちゃん、それ、なあに?」
おじちゃんが持っているのは、大きくて黒い物体だった。
丸い筒の中に、私が写っている。
「これはカメラ。ほら、ここからものを写して写真を撮るんだよ。」
おじちゃんは隣の家に住んでいて、幼い頃から良くしてもらっている。
私がよく見るおじちゃんは、いつも土いじりをして、花を育てたり、鳥の巣を見つけるのが上手だったり、自然と一緒にいる姿が当たり前だったから、機械に触っているのが少し新鮮だったのだ。
「撮ってみるか?」
「うん!」
気をつけて持つんだよ、と言われながら持たせてもらったカメラはずっしりしていて、まだ6歳だった私にとってずっとは持っていられない重さだった。
おじちゃんに手伝ってもらいながら頑張ってブレないように撮ったその写真には、おじちゃんが育てた、綺麗に咲いている紫色のお花が写っていた。
「このお花はなあに?」
「これはシオンだよ」
こうやって花の名前を聞くのが好きだった。
目いっぱいに花の色を焼き付けるのが好きだった。
また、あの頃に……。
「戻りたい……。」
次の日の朝。私はいつもより30分早く学校に着いた。
クラスの人の部活事情は聞き耳を立てていれば、大体分かる。
女子はバイトで、部活をしている人は少ない。
誘ったところで断られるだろうし、そもそも一緒にやりたくない。
男子はほとんどがサッカー部。
だから、部活をやってない人はすぐわかる。
教室で話しかけるのは気が引けるから、こうして朝早く来たのだ。
そして、お目当ての人がいた。
教室の鍵担当の男子生徒、豊橋くんだ。
第一校舎と第二校舎を繋げる、ドーム階段を登ってきている。手に鍵を持っている。いつもこんな朝早くに来ているなんてすごいな、と思いながら口を開く。
「あ、あの、豊橋くん、おはよう。」
彼の顔がゆっくりと上がり、私の顔を見る。
ドーム階段にはちょうど日が差していて、眩しい。
目を細めているから、少し顔が変かもしれないな、なんて思いながら言葉を続ける。
「ちょっと、話したいことが、あるの」
一緒に同好会をやらないかという事と、どんな事をやるのかを拙い言葉で簡単に伝えた。
「畔さんに話し掛けられてちょっとびっくりした。あまり畔さんと話したことがなかったから」
確かに豊橋くんとは授業で少し話した事がある程度だった。
「そ、そうだよね、急に話しかけられてびっくりするよね、ごめんね、考えておいて。明日、また聞くから」
あ、という声が聞こえた気がするが、無視して逃げる。
教室は空いてないから、図書室にでも行こう。
私は足早にその場を離れた。
「我はさらに親を恋ふる心忘れじと思ひて、紫苑と云ふ草こそ、それを見る人、心に思ゆる事は忘れざなれとて……」
授業の内容が頭に入らない。
流石に、あの場で逃げるように豊橋くんから離れたのは失礼だったかも……何か言おうとしてたし。
今更遅いよね、絶対失敗した。もう無理だ〜
そうやって机に頭を抱えるように突っ伏した。
それを、豊橋くんは見ていた。
お昼休み。
教科書をまとめてロッカーに行こうと席を立つ。
すると、誰かに声をかけられた。
声の主は、豊橋くんだ。
「あ、えっと、どうしたの?」
あまり教室では話したくない。人の目が怖い。
「さっき、伝えられなかったから……その、同好会の、話し」
そうだよね、さっきは逃げてごめんね。
「いいよ」
「いいの!?」
思ったより大きな声が出て、クラスが一瞬静まり返った。
ばかばかばか!恥ずかしい!
みんなが会話を再開させると、少し咳払いをして、話を続けた。
「えっと、同好会の参加の話?回答は明日のはずだったけど……」
「明日、あの時間にあの場所にいるとは限らないし、断る理由もないし。それに、そういうのって早めがいいでしょ?」
とてもありがたい。豊橋くんに誘ってよかった。
「ありがとう。じゃあ、よろしくね。」
「うん。」
それからは早かった。
担任の先生に相談して、生徒会の先生を紹介してもらい、同好会を作る条件を教えてもらった。
今までは計画段階だったから、とうとう動き始めた感じだ。
同好会を作る条件はざっとこんな感じ。
①メンバーを五人以上集める(ポスター作り)
②顧問の先生を見つける
③申請書を作ってもらう
④申請書を代議委員会に提出する
⑤代議委員会の承認をもらったら校長先生の許可をもらう。
⑥活動場所を確保して出来上がり!
最初の感想は3人口を揃えて「むず」だった。
それでも私たちは立ち止まらず進めていった。
ポスターは計画段階の時に作っていたので、先生に印刷をしてもらい、校内に貼り付ける。
部活動やバイトに入っている人が多く、効果はそこまでなかったが、一人、男の子がきて、さらにその子が友達を引っ張ってきたので、メンバー集めは成功。
顧問の先生に関しても、生徒会の先生が教えてくれた役職をやっていない先生リストから、一人一人にあたっていき、すぐに決まった。
それと同時に申請書も、先生が作って欲しいと事務の人に催促をしてくれたおかげで初めてのことにも関わらず、二ヶ月もしないうちに作ってもらえた。
提出もして、あとは待つだけ。
やっと、作れるよ。おじちゃん。
自分の部屋の机の上に置いてあるカメラ。あの頃と変わらず、綺麗なままだ。
「はい」
「何?これ?」
「一ヶ月前に撮ったシオンの写真。今はもう枯れちゃったけど、写真の中はいつまでも咲いてるよ」
その言葉が、その頃の私にとってとっても嬉しかったんだ。
「これ、すごいね。タイムカプセルじゃん!んーちょっと違う?タイムペーパー、とか?」
「へえ、小鳥は面白いことを思いつくねぇ、おじちゃんなら、タイムトラベルって表現するかなあ」
タイムトラベル。
「いいね!いつでもこのシオンが咲いている時に戻れるし!きっと写真って私たちをタイムトラベルに行かせてくれるんだ!」
「じゃあ、小鳥は写真タイムトラベラーだね。」
カメラの下にあるシオンの写った写真を見ながら、そんなことを思い出す。
「あの頃から、随分変わっちゃったな」
楽しく話していたおじちゃんはもういない。
私が中2の時のお葬式に飾られたおじちゃんの写真を見ながら、私は泣いた。
死んじゃったからじゃない。思い出せなかったから。
存在していた記憶はあるのに、なぜか曖昧になって上手に思い出せなかったから。
それが、悔しくて、憎かった。
タイムトラベルできる夢のようなものだと思っていたのに、裏切られた気持ちになった。
そして、一時期カメラや写真と距離を置いていた。
でもある日、隣の家のおばちゃんからカメラが送られてきた。
「これって……」
「あの人が、小鳥ちゃんにって。……きっと、あなたの支えになると思うから。」
今一番距離を置きたいその物体が、なぜか目の前にある。
受け取らないわけにもいかず、私はそれを受け取った。
あの頃と変わらない、ずっしりとした重み。
でも、その頃には、ずっと持ってられない程ではなかった。
ほらね、変わっていくんだよ。
自分の部屋に戻って、カメラを起動するすると、そこにはおじちゃんが撮ってきた数々の写真が。
私の知らない場所、知ってる場所、知らないもの、知ってるもの、知らない人、知ってる人、綺麗なもの、よく分からないもの。
あれ、
手を止めた場所。そこには、私が写っていた。
「これ、いつ撮ったんだろう。」
確か、おじちゃんのお手伝いをするために、大きなジョウロを持って花に水やりをして……その後にバランスを崩して水をかぶったんだっけ。
次の写真を見る。
それを見て、目を見開いた。
画面をなぞる。
「おじちゃん……」
少しぶれている画面に、土に空気を含ませているおじちゃんが写っていた。
私が隠し撮りをしたやつだ。
撮っているのに気づいたおじちゃんが、勝手に撮ったらダメでしょって言いながらカメラを取り上げたんだっけ。
「消さずに残してくれてたんだ……」
そこで、気づいた。
思い出せることに。
匂いが、光が、音が、暖かさが、私を包み込む。
距離を置く必要なんて、なかったんだ。
その瞬間、何かが解けた気がした。
写真に対する距離なのか、おじちゃんに対する思いなのか。
写真って、タイムトラベルみたいだなぁ……。
改めて、ふと、そう思えた。
昼休み。私は一人、お弁当を食べている。
カメラに映る、過去を見ながら。
「畔先輩!部活の会議!忘れてますよね?」
「え!うそ、今日だっけ?すぐ行くから、先行ってて!」
高校2年生。春に写真同好会は実績を認められ、晴れて部活になり、人数も大幅に増えた。そして今や私は部長なのだ。
私は孤独ではない。居場所があるから。
未来を見据えて、今日も今を撮り続けている!!
シオンの花言葉:「追憶」「あなたを忘れない」「遠くにある人を思う」
いかがでしたでしょうか?
今後も楽しく物語を書いていこうと思いますので、成長のためにも評価をして頂けると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。