第17話_ラッキースケベ術の真実
「これが…北の神殿」
四人は開かれた通路を抜け、ついに本物の神殿の内部に足を踏み入れた。そこは想像を遥かに超える壮大な空間だった。
天井は高く、まるで星空のように無数の青い光点が浮かんでいた。壁や柱には、星と大地のモチーフが織り交ぜられた彫刻が施されている。床には複雑な幾何学模様が描かれ、その線に沿って淡い光が流れていた。
「すごい…」エリザベスは息を呑んだ。
「まるで夜空の下にいるようだ」セシリアが見上げた。
神殿の中央には大きな円形の広間があり、そこに集まった十数人の白い長衣を着た人々が四人を見つめていた。彼らの年齢は様々で、若い男女から白髪の老人まで、皆が同じ装いをしていた。
広間の中央から一人の年配の女性が歩み寄ってきた。彼女の長い銀髪は後ろで一つに束ねられ、澄んだ青い瞳は知恵に満ちていた。
「私はロレイン。この神殿の長老の一人です」彼女は温かく微笑んだ。「よく来てくれました、星の試練を乗り越えた勇敢な旅人たち」
リーザが一歩前に出た。「私たちを迎えてくださり、ありがとうございます」
ロレインは頷いた後、四人をじっくりと見つめた。「星読みの聖域を通ってここまで辿り着いた者たちは、長い年月の中でもわずかです。そなたたちの旅の目的は何でしょう?」
「真実を求めています」セシリアが静かに答えた。「教会が教えない本当の歴史と知識を」
「そして俺は自分の力について知りたい」幸運が付け加えた。「この『ラッキースケベ』と呼ばれる能力の真の意味を」
ロレインの目に興味の色が浮かんだ。「なるほど。それでは仲間たちに紹介しましょう」
彼女は四人を円形広間の中央へと導いた。そこでは他の星読みたちが半円を描くように並び、彼らを迎え入れた。
「今日は特別な日です」ロレインが高らかに宣言した。「星の試練を乗り越え、この神殿に足を踏み入れた勇敢な旅人たちを歓迎します」
他の星読みたちが穏やかに頷き、微笑みを浮かべた。
「まずは休息を」ロレインは四人に言った。「その後で、そなたたちの質問に答えましょう」
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休息と食事を終えた後、四人は大きな部屋に案内された。部屋の中央には低いテーブルがあり、周りに座布団が置かれていた。壁には古い巻物や書物が並ぶ棚があり、どれも大切に保管されているようだった。
ロレインと数人の長老たちが四人と向かい合って座った。
「さて、何から話しましょうか」ロレインが言った。
「星樹の教えについて教えてください」セシリアが切り出した。「教会との関係も含めて」
ロレインは深く頷いた。「星樹の教えは、この地に古くから伝わる信仰です。宇宙と大地を繋ぐ巨大な樹、星樹を崇めるものです」
「星樹の女神イヴァルについても伺いたいです」リーザが言った。
「イヴァルは星樹の具現化とも言える存在」老長老の一人が説明した。「かつて人々はイヴァルの導きにより、自然と調和し、星の力を理解していました」
「では教会は?」セシリアが尋ねた。
ロレインの表情が少し曇った。「教会は星樹の教えから派生したものです。しかし、時が経つにつれ、その教えは変質していきました。権力を持つ者たちは、自分たちに都合の良いように教えを解釈し始めたのです」
「だから異端審問が…」セシリアが呟いた。
「彼らは古来の知恵を含め、意に沿わないものを『異端』と呼び、排除しようとしました。私たちはその知恵を守るために、ここに隠れ住むことになったのです」
幸運が前のめりになった。「俺の能力についても何か知っていますか?このラッキースケベと呼ばれる…」
ロレインと他の長老たちは顔を見合わせた後、一人の白髪の男性が口を開いた。
「それはどんな能力ですか?」
幸運が説明した。リーザ・エリザベス・セシリアは呆れ顔で聞いていた。
しかしロレインは真剣に聞いていた。
「その能力は特別なものかもしれません。古来の記録によると、一部の特別な魂を持つ者には、他者との接触を通じて力を覚醒させる素質があると言われています」
「接触…ですか?」幸運は考え込んだ。「確かに、俺のラッキースケベは常に誰かに触れるときに起きます」
「それは単なる偶然ではない可能性が高い」ロレインが言った。「あなたの中に眠る力が、そのような形で表出しているのかもしれません」
「その力を目覚めさせる方法はありますか?」エリザベスが尋ねた。
ロレインは再び長老たちと視線を交わした後、頷いた。「一つの可能性があります。星の光を直接浴びる儀式です」
「星の光?」四人は同時に尋ねた。
「この神殿の屋上では、星の力を最も強く感じることができます」ロレインは説明した。「そこで特別な儀式を行えば、あなたの中に眠る力を目覚めさせる手助けになるでしょう」
「やってみたい」幸運は即座に答えた。「その儀式をお願いします」
「宜しい。今夜は満天の星空です。絶好の機会でしょう。お仲間の皆さんと共に神殿の屋上へ上がってください」
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神殿の屋上は広く開けた平らな場所だった。周囲には低い石の欄干があり、その向こうには山々の暗い輪郭が広がっていた。頭上には信じられないほど鮮明な星空が広がり、天の川までもがはっきりと見えた。
「きれいね…」エリザベスは星空を見上げて呟いた。
ロレインは四人に屋上の中央に描かれた円の中に立つよう指示した。円の中には複雑な幾何学模様が描かれており、地面に埋め込まれた小さな青い結晶がその線に沿って配置されていた。
「幸運さんは中央に。残りの三人は彼を取り囲むように立ってください」ロレインは言った。
四人が指示通りに配置につくと、ロレインは最後の説明をした。
「あなたは星の光を受け、真の自分を見出すのです。これから私たちは下に戻り、儀式により星の光を強める手助けをします」
「心を開き、星の声に耳を傾けてください」ロレインは幸運を見た。
「どうすれば…?」幸運が不安そうに尋ねた。
「それはあなた自身が見つけるもの」ロレインは微笑んだ。「恐れずに、ただ素直な心で星を見つめればよいのです」
最後の言葉を残し、ロレインと他の星読みたちは屋上を後にした。四人だけが残された屋上は、星明かりだけで照らされていた。
「さて、どうするの?」リーザが幸運に尋ねた。
「わからない…」幸運は星空を見上げた。「でも、なんとなく…」
彼は両手を広げ、目を閉じた。最初は何も起こらなかったが、しばらくすると、彼の周りの青い結晶が微かに輝き始めた。
「何か始まったわ」エリザベスが囁いた。
結晶の光は徐々に強まり、地面に描かれた模様に沿って流れ始めた。幸運の体が淡く青白い光に包まれ始める。
「幸運…?」セシリアが心配そうに呼びかけた。
「大丈夫…なんだか温かい感じがする」幸運は目を閉じたまま答えた。
光はさらに強まり、今や幸運の全身が青白い光のオーラに包まれていた。そして驚くべきことに、頭上の星々から細い光の線が幸運に向かって伸び始めた。まるで星々が彼に手を伸ばしているかのようだった。
「すごい…」リーザも息を呑んだ。
光の線は幸運の体に吸収され、彼のオーラはさらに輝きを増した。彼の表情は穏やかで、何か深い理解に達したかのようだった。
儀式は数分間続き、やがて星からの光の線が一本、また一本と消えていった。最後の光が消えると、幸運の周りのオーラも徐々に薄れ、やがて彼の体の輪郭を淡く照らすだけになった。
幸運はゆっくりと目を開けた。彼の瞳には星の光が宿ったように見えた。
「どんな感じ?」エリザベスが尋ねた。
「言葉にするのは難しい…」幸運は自分の手を見つめた。「でも、何かが変わった気がする。何かが目覚めた…」
「何か新しいことができる?」リーザが興味深そうに尋ねた。
幸運は手のひらを上に向け、集中した。「さっきの儀式の間に、不思議なことがあったんだ。みんなの魔法の感覚が…なんというか、俺の中に入ってきたような」
「どういうこと?」セシリアが首を傾げた。
幸運は深呼吸し、リーザの方を見た。彼の手から突然、彼女の使う風の魔法に似た小さな竜巻が現れた。
「えっ!」リーザは目を見開いた。「それ、私の風の魔法と同じよ!」
幸運は次にエリザベスに向き直り、集中すると地面から小さな石が浮かび上がり、彼の周りを回り始めた。
「私の土魔法!」エリザベスは息を呑んだ。
最後に幸運はセシリアに視線を移し、手のひらから彼女の得意とする光の魔法そっくりの淡い金色の光を放った。
「どうして…」セシリアは驚きのあまり言葉を失った。
「わからないんだ」幸運は自分の手を不思議そうに見つめた。「でも、儀式の後、星の力が俺の中の何かを目覚めさせた。そして、みんなとこれまでラッキースケベで触れ合った時の記憶が…魔法の感覚と一緒にはっきりと思い出せるようになったんだ」
「ラッキースケベで触れた相手の魔法をコピーできるってこと?」リーザが驚きの声を上げた。
「そんな能力があったなんて…」エリザベスは目を丸くした。
「これが本当の俺の力なのかもしれない」幸運は呟いた。
四人は幸運の新たな力に感嘆し、星空の下で語り合った。幸運は自分の中に流れ込んできた感覚や、断片的に見えた不思議なビジョンについて話した。それは星々の間を旅するような感覚だったという。
「これが本当の俺の力なのかな…」幸運は呟いた。
「素晴らしいわ」セシリアは心から言った。
「ラッキースケベ術師も、ちょっとは格好良くなったかな?」幸運は照れくさそうに笑った。
「どうかな」リーザはからかうように言ったが、その目は優しかった。
「あなたが使えるプチファイアも、もしかしたら誰かの魔法なのかしら」エリザベスが興味深そうに言った。
「炎を使える人は誰だろうね~」幸運は顎に手を当てて考えている。
「誰から何の魔法をもらったか分からない。という事は…。気づいてないだけで色んな魔法を使えるかも?」セシリアがそう言った。
「なるほど…!色んな人にラッキースケベしたからなあ」幸運がニヤけた。
「とんだドスケベ術師様だよこれ」リーザが両手でヤレヤレのポーズをして笑っている。
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彼らがそうして語り合っている間、誰も気がつかなかった。
夜空の星々の間を移動する複数の暗い影があることに。それらは徐々に神殿に近づいていた。
「風の音がするわ」ようやくエリザベスが違和感に気づいた。
四人が周囲を見回すと、風が強くなり、何かが近づいてくる地響きのような音が聞こえ始めた。
「何かが来る!」リーザは警戒して立ち上がった。
その時、月明かりに照らされた巨大な影が屋上の上空を横切った。その後さらに複数の同様の影が続いた。
四人が見上げると、そこには信じられない光景があった。
巨大な飛竜が七頭、神殿の屋上を取り囲むように空中を旋回していた。それぞれの飛竜の背には、銀と青の鎧を着た騎士が乗っていた。
飛竜は低く唸り声を上げながら徐々に降下し、ついに一頭が屋上に着地した。その巨体は地面を揺るがせ、強い風を巻き起こした。
飛竜の背から一人の騎士が降り立った。他の飛竜たちは空中でホバリングを続けながら、屋上を完全に包囲していた。
降り立った騎士は、他の騎士たちより装飾の施された鎧を身につけており、明らかに指揮官のようだった。彼はゆっくりと兜を脱ぎ、露わになったのは厳しい表情の中年の男性の顔だった。
「帝国竜騎士隊長、ヴァルガスだ」彼は威厳のある声で宣言した。「そなたたちが教会から報告のあった危険分子か?」
四人は驚きと緊張で固まった。
「私たちは危険分子などではありません」セシリアが一歩前に出て答えた。「どのような報告があったのですか?」
「教会の『おっぱい天動説』を否定し、異端の教えを広めようとしている者たち」ヴァルガスは冷たく言った。
リーザはおっぱいというワードに一瞬笑いそうになったが、笑ってはいけない場面なので必死に堪えた。
「さらに教会の異端審問官を撃退し、聖遺物の剣を手に入れようとし、また北の山岳地帯に逃げ込んだと」
「それは誤解です!」セシリアは声を上げた。「確かに私たちは真実を求めていますが、暴力を振るったのは教会の側です」
「それを判断するのは私ではない」ヴァルガスは一歩近づいた。「帝国と教会は同盟関係にある。教会の要請により、そなたたちを連行する。抵抗は無用だ」
「ちょっと待ってください」エリザベスも前に出た。「私たちは話し合いで解決できるはずです」
「時間の無駄だ」ヴァルガスは手を上げた。「従うか、力ずくで連れていくか。選べ」
リーザはまっすぐヴァルガスを見つめたまま、ゆっくりと剣に手を当てた。「私たちは何も悪いことはしていない。従う理由はないわ」
「そうね」セシリアも決意を固めた。「教会の誤解を解くために、私たちの話を聞いてください」
「話し合いの時間は終わりだ」ヴァルガスは冷たく言い放った。「全員、拘束せよ!」
彼の命令に応じて、空中の飛竜たちが一斉に唸り声を上げた。騎士たちは武器を構え、今にも攻撃を仕掛けようとしていた。
「どうする?」エリザベスが緊張した声で尋ねた。
「戦うしかないわね」リーザは剣を抜いて構えを固めた。
「幸運、新しい力は使えるの?」セシリアが幸運を見た。
幸運は自分の手を見つめ、まだ淡く輝いていた光を見た。「わからない。でも、試してみる価値はあるよな」
四人は背中合わせで円陣を組み、迫り来る竜騎士隊に立ち向かう準備をした。
「覚悟はいいか?」ヴァルガスは冷ややかに笑った。「帝国竜騎士隊の力を思い知るがいい!」
竜騎士たちの一斉攻撃が始まろうとしていた。