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第12話_ラッキースケベ術師と村の依頼

「起きろ~!いつまで寝てるつもりだ!」


明るい声とともに、布団が勢いよく剥ぎ取られた。


「うぅ…まだ寝かせてくれよ…」


幸運は目をこすりながら、ぼんやりとした視界の中にリーザの姿を認めた。朝日が窓から差し込み、彼女の赤い髪が輝いて見える。


「元気だな…昨日の占い師のことは気にしてないのか?」


「気にしてどうなる?あんなの当てにならないわ」


リーザはそう言い切ったが、その声には少しだけ強がりが混じっていた。


「とにかく、エリザベスが朝食の準備をしてるから、さっさと起きなさい」


幸運は重い体を引きずるようにして起き上がった。南の湖の村に到着してから二日目の朝。昨日、祠でラッキースケベの剣を抜けなかったこと、そして老占い師から「不完全な魂」と言われたことが、まだ頭の中をぐるぐると回っていた。


宿の食堂では、エリザベスがすでに食事を始めていた。サラも一緒だ。


「おはよう、寝坊助」エリザベスが軽く手を振る。


「おはようございます、幸運さん」サラも笑顔で挨拶した。


「おはよう…」幸運は席に着いた。


テーブルには村の特産品である湖の魚の干物と、新鮮な野菜のスープが並んでいた。いい匂いが漂う。


食事を進めていると、エリザベスが突然財布を取り出した。


「ねぇ、私たちの路銀、心もとないわね」


中を覗き込んだエリザベスの表情が曇る。


「このままじゃ帰りの旅費もままならないわ」


リーザも財布を確認して、渋い顔をした。「確かに…これは厳しいな」


幸運も自分の財布を見てみたが、状況は同じだった。

隣国への潜入作戦で稼いだとは言え、あれ以来まともな収入もなく、さすがに路銀が尽きてきたのだ。


「どうすればいいんだろう…」


幸運が頭を抱えていると、サラが提案した。


「村のことでしたら、村長に相談してみては?最近は魔物が増えているので、村も手伝いを求めているんですよ」


「村長?」


「ええ、この村を治めているイーノおじいさんです。とても優しい方なので、きっと何か仕事を紹介してくれると思いますよ」


「それはいいな!」リーザが目を輝かせた。「少しでも稼げれば、帰りの資金になる」


「私も賛成よ」エリザベスも頷いた。


朝食を終えると、サラの案内で村長の家へ向かった。村長の家は、村の中心近くにある古い木造の建物だった。入り口には美しい花が植えられ、手入れが行き届いている。


「イーノおじいさん、お客様です」サラが声をかけると、中から「はーい、今行くよ」という返事が聞こえた。


しばらくして出てきたのは、白髪の長い髭を蓄えた老人だった。背は低いが、目は輝いていて、穏やかな笑顔が印象的だ。


「おや、サラ。この人たちは?」


「旅の冒険者さんたちです。南の湖の祠に来られたんですよ」


「あぁ、なるほど」イーノは一行を見回した。「噂に聞いていますよ。ラッキースケベ術師と仲間たちですね?」


「え?」幸運は驚いた。「俺のことを知ってるんですか?」


「ほっほっほ、このところ、あなたの噂はあちこちで聞きますよ。特に、教会を怒らせたということで…」


「あちゃー…」


イーノは一行を家の中に招き入れた。シンプルながらも居心地の良い部屋で、皆は椅子に座った。


「それで、何か困ったことでも?」


「実は…」エリザベスが財布の中身を見せて、状況を説明した。


イーノは「なるほど」と頷き、深く考え込んだ。「ちょうどいい。実は村でも困っていることがあるんですよ」


「どんなことですか?」リーザが尋ねた。


「最近、村の周辺で魔物の目撃情報が増えているんです。若い衆は出稼ぎで不在のため、村の防衛力が心配でね」


老人は窓の外を見つめた。「どうか村を守るのを手伝ってもらえないでしょうか」


「喜んでお引き受けします」幸運は即答した。


イーノは嬉しそうに笑った。「あなたたちの特技は何ですか?」


「私は土の魔法が使えます」エリザベスが答えた。


「なんと!」イーノの目が輝いた。「それなら、村の周囲に土の壁を作ってもらえないだろうか?それだけでも、魔物の侵入を防げるんだが…」


「もちろん、やってみます」エリザベスは自信を持って答えた。


「私は剣術が得意です、あと風の魔法を少し」リーザも名乗り出た。


「私は…」幸運は少し迷った。


「ラッキースケベ術師です」幸運は自虐的に、白目を出しながらそう言った。


「ほっほっほ」イーノは楽しそうに笑った。「あなたとリーザさんには、村の東側にあるやぐらから周囲を警戒してもらえないかな?時々、魔物が近づいてくることがあるんだ」


「承知しました」リーザが答えた。


「土の壁の完成までが任務の期間として。報酬は宿泊費と食料、それに帰路の旅費を用意します。よろしいですか?」


三人は顔を見合わせ、頷いた。


「それでは、よろしく頼みますよ」


村長との話が終わると、それぞれが仕事に取りかかることになった。


エリザベスは村の周囲を歩きながら、土の魔法を使って壁を構築し始めた。土が盛り上がり、固まっていく様子に、村人たちが驚嘆の声を上げる。特に子供たちが興味津々で集まってきた。


「すごーい!魔法使いだ!」


「土が動いてる!」


エリザベスは子供たちの反応に照れながらも、作業を続けた。


一方、幸運とリーザは村の東側にある櫓に登った。かなり高く、周囲の景色が見渡せる位置にある。


「いい景色だな」


南の湖が遠くに見え、森や丘陵が広がっている。ただ、遠くには不毛地帯と呼ばれる荒れた土地もあり、そこから魔物が出てくるのだという。


二人は交代で見張りをすることにした。まずはリーザの番。幸運は櫓の床に座り、背中を壁にもたれかけた。


「あのさ、リーザ」


「なに?」リーザは景色を見渡しながら答えた。


「俺がラッキースケベの剣を抜けなかったこと…やっぱり気になるんだよね」


リーザは一瞬黙り、それから幸運の方を振り向いた。


「正直に言うとね…」彼女は少し言葉を選びながら話し始めた。「あなたの前世の記憶は本当かもしれないな、と思い始めてる」


「え?」幸運は驚いて顔を上げた。「ずっと妄想だって言ってたじゃないか」


「だって、普通そう思うでしょ?」リーザは肩をすくめた。「でも、バジリスクとの戦いの時にみせたあなたの剣術…あり得ないと言い切れなくなってきたのよ」


「そうか…」


幸運は空を見上げた。「俺自身、何が何だか分からなくなってきてるんだ。俺はラッキースケベ術師なのか、それとも勇者なのか…」


「でも、どっちでもいいよね」リーザがさらりと言った。「今のあんたはあんただ」


幸運は思わず笑った。「そうだな。今は目の前のことをやるだけだ」


二人の間に心地よい沈黙が流れた。幸運はふと、リーザの横顔を見つめた。いつもは厳しい彼女の表情が、今は柔らかく見える。


「そういえば、リーザはどうなんだ?」幸運が尋ねた。


「何が?」


「お前の未来だよ。老占い師が言ってたことを気にしてないか?」


リーザは少し黙り込み、遠くを見つめた。


「…気にしないと言えば嘘になる」リーザの声には不安が混じっていた。


「でも、あんな占いなんて当てにならないさ。昨日はガーディアンとの命がけの戦いで、感情がたかぶっていた。ハイになってた時に、ああいう事を言われると真に受けちゃうよね。ただそれだけさ」


「そうか。それなら良かった。お前あのあと宿で泣いてtmn」


幸運がニヤリとしながらそう言いかけた刹那、リーザは幸運の腹にボディブローを決めた。


「ぐふっ!?」


幸運は『くの字』に折れ曲がり、悶絶した。

リーザは他の仲間よりメンタルが弱いが、フィジカルは最も強い…。


それから10分後。

少し真面目なトーンでまた会話が始まる。


「なぁ、リーザ…。旅が終わったら、お前は何をするつもりなんだ…?」


リーザは意外そうな顔をした。

「考えたこともなかったな…。そもそもこの旅は大きな目的もなく…。ただ成り行きで面白そうなお前について来ているだけだし…」


「そうだな、商業国家ディーレに戻ったらギルドの依頼をこなすかな。幸運も一緒にやるか?」


「それもありだな」


「でも今はとにかく楽しいよ、この旅が」リーザは小さな声で告白した。


「俺もだよ」幸運が微笑んだ。


そのとき、リーザが突然姿勢を正した。


「あれは…何だ?」


遠くの荒れ地に、黒い影が群がっているのが見える。


「何かおかしい動きをしてるな」幸運も立ち上がって、目を凝らした。


「あれは…魔物の群れか?」リーザが眉をひそめる。


幸運は櫓に備え付けられた望遠鏡を手に取った。覗き込むと、確かに複数の魔物が何かを囲んでいる様子が見える。


「誰かが追われてるみたいだ…」


幸運は望遠鏡をさらに調整すると、魔物に囲まれた人影が見えた。黒と銀の装飾が施された服を着ている。


「あ…あれは…」


「どうした?」リーザが尋ねる。


「教会の服だ」


リーザはぎょっとした表情になった。「まさか…セシリア?」


「分からない。でも、助けに行かないと」


二人は急いで櫓を降り、村長に報告した。エリザベスも呼び寄せられ、状況を説明された。


「魔物に追われている人がいるんです。助けに行かせてください」幸運が言った。


イーノは心配そうに首を振った。「危険ですよ。あなたたち三人だけで…」


「大丈夫です」リーザが断言した。「私たちはこれまでも戦ってきました」


エリザベスも頷いた。「壁はまだ半分しか完成していませんが、人命が優先です」


「分かりました」イーノは渋々同意した。「でも、くれぐれも気をつけてください」


準備を整えた三人は、村の出口に集まった。サラも見送りに来ていた。


「どうか気をつけて…」サラは心配そうに言った。


「ありがとう、すぐ戻るよ」幸運は彼女に笑いかけた。


「あの…もし教会の人なら…」サラは言いよどんだ。


「分かってる」リーザが頷いた。「慎重に対応するよ」


「行くぞ」エリザベスが言った。


三人は村を出て、荒れ地に向かって歩き始めた。砂埃が舞う中、幸運は考えていた。まだ分からないことだらけだ。自分の魂が不完全だということ。前世の記憶の真偽。そして、ラッキースケベの剣の謎。


だが今は、目の前のことに集中しなければならない。リーザとの会話を思い出す。「今のあんたはあんただ」


そうだ。今の自分にできることをやるだけだ。


「急ごう」幸運は二人に声をかけた。


三人は砂塵を巻き上げながら、荒れ地へと駆け出した。

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