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どでか野菜のソルナ村

 アリアたちは食事を終え、村長とともにソルナ村の西、封鎖地区と言われる場所に案内され進んでいた。出発して10分ほど経ち、小さなトンネルを抜ける。暗がりに慣れた目は眩しさにくらみ、一瞬細める。すると突然、先を歩いていたルーナが素っ頓狂な声をあげた。


「うわあ、なに、あれ!?」


 何か危険があったのかと、アリアは急いで前を見る。そこに広がる光景を見て、驚きで声が出ない。

 遠目から見ても何か大きなものが見えていたが、近づくにつれそのぼやけていた影がはっきりしていき、今、やっと正体がみえた。


「かぼちゃ、豆、ナス、ピーマン……野菜、ですよね、なんですかこの大きさは」


 イトも目を見開き、小さく言葉を溢す。


 目の前にあるのは、カラフルな街並み……ではなく、家に錯覚するくらいの大きさをした野菜たちであった。大きすぎるせいか、本来なら高く身をつける野菜も地に落ち、長いものは塔のようにそびえたち、それらが集まってまるで城のような風貌を作り出していた。


 村長はこちらを見て頷き、ゆっくりと喋りだした。


「これが我らがソルナ村で起きた異変です。5年前から……大災害から、村の作物は異常にすくすくと育つようになりました。おかげで村は潤ったし、最初は喜びましたよ。女神様のご加護だってね。でも想定外の育つ速さに、収穫が追い付かなかったことがあったんです」


 もう何年もこの状態ですから危険はないでしょう、と言いながら、村長が巨大野菜の方に向かって再び歩き出す。3人も黙ってついていく。


「そこから1週間。たった、1週間です。急に大きくなりはじめて、おや、と思った頃には手遅れでした。朝起きたら家を超え、見上げるほどの大きさに育っていたのです。これは魔王の呪いだと皆で恐怖し、村の東に逃げました……それが今のソルナ村です。最初の村はここ、完全に野菜の下敷きです」


 アリアの背丈ほどの玉ねぎをよいしょーと全身でずらして、村長は下を指さす。そこには、家だったのだろう、靴やお皿がぼろぼろに潰れていた。

 ルーナは見上げるほどの巨大なナスを手の平でぺちぺちと叩きながら話を聞いている。イトも横のトマトを拳で殴って、痛がっていた。トマトの勝利である。



「なるほど、村が普通に見えたのはそもそも移動していたからですか。でも、すみません、俺らは魔法使いとはいえ、これをすべて元通りにするのは難しいかと。野菜を小さくする魔法は知りません」


 イトが申し訳なさそうに言い、アリアとルーナの方を向いてわずかに首を傾げる。知らないよね、ということだろう、すぐに2人とも頷いた。


「ああ、元に戻すつもりはありません。魔法使いさまに見ていただきたいのはこの野菜たちの中心部、もっと不思議なものがあるのでね」


 村長はにかっと笑顔を作り、また歩き出す。


「こんなでかい笑い話はないですよ。実際村は豊かになりましたし、受けた恩恵の方がはるかに大きい。そういえば新しい作物も生まれましたよ、昼に食べたポカリコもその内のひとつです」


 あの甘味たっぷりのジューシー野菜を思い出してよだれが口に広がった。ほかの野菜たちもさぞ美味しいのだろう。

 味といえば、ここの巨大な野菜たちも美味しいのだろうか。収穫期を過ぎると腐ったりしそうなものだが、見える範囲では綺麗なものばかりだ。

 アリアは疑問を口にする。


「ここの野菜たちは獣に食べられたりしないのでしょうか。素人目にもかなり綺麗なものばかりです」

「たしかに、枯れたり腐ったりしてるものがないわね。このまま焼いて食べちゃいたいくらい!」


 ルーナも同じようなことを考えていたようだ。村長はこちらを見るとまたはっはっはと豪快に笑う。


「それは私も謎に思うところです。誰も手入れをしていないのに、荒れもせず、広がりもせず、この通りどーんと綺麗にあり続けるんですよね。なんだか中心部分を守ってるように見えまして、あそこには何かあるはずだと男の勘が……あ、見えました! あの光ってる部分です」


 村長が立ち止まり指を指す。アリアたちも急いでそばへ寄ると、野菜たちの影からぼんやりとした白い光が見えた。

 

 どうやらこの摩訶不思議な巨大野菜畑の中心には、ひときわ大きなかぼちゃがあり、その実が発光しているようだ。周りにはかぼちゃが集まってかぼちゃの山ができている。

 この辺りまで来ると密度が高く、野菜たちもより大きくなり、実と実の隙間をくぐり抜けやっと進む。



「つ、ついたあ」

「これはまた……触っても大丈夫ですか?」


 かぼちゃを壁にして寄りかかって休むルーナと、慎重に光るかぼちゃを観察するイト。周りのかぼちゃが大きすぎて小人にでもなったようで、なんとも面白い。


「ええ、私らは触るまではしたのですが何も起こらず。気になりはするのですが、中を見る勇気が出ませんでした。そこにあなた方魔法使いさまですよ! ぜひともお力をお貸しください」


 村長がきらきらした少年のような目でこちらを見る。まあ、たしかに自分たちなら魔物が出てきたところでなんとかなるだろう。自分はともかく2人は強いのだ。

 それに光る巨大かぼちゃ、なんとも面白い状況にアリアはわくわくする。中からお姫様とか出てきたらどうしよう。


「確かに中身が気になるわね、すぱっと切っちゃえばいいかな?」

「一箇所小さな穴を開けて、中を覗いてみるのはどうです?」

「ええと、穴を開ける。こんな感じ?」


 ルーナが指で宙にキリのような細長い尖った棒の絵を描き、そのまま下に指を振る。ぽすん、とかぼちゃで埋め尽くされた地面に転がった。

 村長が横でおおーと反応する。拍手までつけて、実に楽しそうだ。

 出された金属っぽい棒を持ち、イトがかぼちゃに勢いよく突き立てた。そのまま何度か力を入れてぐりぐりと回し、少し傷が入っただけの表面を見て、諦めた。


「かなり固いですね……やはり切っちゃう方がいいですね。みなさん少し離れていてください。どかーんとやっちゃいますよ」


 イトが軽く息を吐いて両手を前に重ねる。イトの美しい白髪がいくつかのグループに分かれ、動き出す。

 一瞬髪たちが後ろに引き、溜めを作ったかと思うと、次の瞬間大きな音をたててかぼちゃに突き刺さる。これを何度か繰り返すと、かぼちゃから漏れる光が強くなっていく。最後にぼんっと音をたて、小窓くらいの穴が開いた。


 イトはそのまま中を覗き、驚愕して固まった。中に向かって大声で叫ぶ。


「なっ……子供!? 大丈夫ですか!?」


 その声を聴いて、大慌てで村長が駆け寄る。アリアたちも同じように中を覗いた。



 中には白い服を着た子供が、丸くなって眠っていた。先ほどまで外に溢れていた光は、子供を守るように集まっていき、その体がほわほわと光るだけになった。

 長く赤い髪を持つその子は、すうすうとお昼寝でもしているように見える。しかしこれだけ大きな音をたててかぼちゃに穴を開け、今も何度か声をかけているのに、起きる気配はない。

 

 眠り続ける呪いも存在を聞いたことがある。かなり心配である。


「見たことない顔だ。村の子ではないです。遠くてよくわからないけど、胸が上下して呼吸してそうだし、見た目は寝ているようですね……」

「とにかく、急いで穴を広げます。ルーナ、のこぎりを作ってください。子供を傷つけないように慎重にいきましょう」

「わかったわ! ほいっ」


 ルーナはイトの言葉を聞きすぐに『おえかき』をはじめ、ぽとんと足元に大きなのこぎりが落ちてきた。

 村長とイトがそれぞれ左右に穴を広げていく。村長はさすがの筋肉と迫力で、うおおおおと言いながらあっという間にドアくらいの大きさまで広がった。そのあとイトの方も交代し、結局ほぼすべての穴を村長があけた。




 村長とイトがすぐに入ろうとしたが、大きな体をねじ込むには穴が小さく、ひっかかってしまう。そのため、ルーナとアリアが順番に入っていった。


 女の子だろうか。やはりこちらの存在をものともせず、寝入っている。

 アリアがその体を抱きかかえようとぐっと近寄った時、アリアのマントがさわさわと揺れだし、懐からひゅんっと何かが出てきた。


「あっ!」


 ルーナにもらった遺物だ!

 丸い球は光を放ちながら子供の方へ飛んでいき、呼応するように子供の光も強くなった。

 そして、球は子供の胸へと近づいてき、ぱんっと強い光を放つと、そのまま体の中へと吸い込まれていった。


「えっなになに何事!? ちょっと君、大丈夫!?」


 アリアとルーナは慌てて走り寄る。焦る声を聞いて、外の2人ものこぎりの手を止めた。

 子供の身体を覆う光が、一瞬だけ大きくなり、その身体を起こして、ふわっと消え去った。

 


 ゆっくりと瞳が開かれる。瞳も燃えるような赤色をしていた。

 ばちっとアリアと目が合い、その子はにっこりとほほ笑んだ。



「貢ぎ物、ありがとなの。助かったの」


 りんと響く可愛らしい声は、かぼちゃの外までしっかりと響き、大人たちは大混乱に陥った。

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― 新着の感想 ―
なんというほのぼの世界観!ルーナの魔法は便利ですね。 かぼちゃの中の子供は女の子?男の子?
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