第7話
「拾い物って?」
アドラの質問に、ペトラは紅茶のカップをソーサーに置きながら答えた。
「あの襲撃の後、私も逃げたんだ。知っての通り私は飛ぶこともできないし、足もさほど速くない」
ただ、この子たちがいてくれるおかげで助かっただけでね、とペトラは髪を撫でる。束ねた先、髪の先端に、蛇の頭があるのを見つけて勇はバイパーを思い出して少し怯えているようだ。
「敵意のある相手以外にはおとなしい。そう身構えないでくれ」
ペトラはその髪に紛れる蛇たちで、何度か人間の追っ手を振り払ってきたという。しかし、自分の故郷へ戻るために海沿いを歩いているときに討伐者に出くわしてしまい、文字通り背水の陣になってしまった。そこで。
「一か八か、泳いでみたんだ」
「ええ!?」
アドラが驚いて大きな声を出す。すぐに「すみません」と自分の口を覆った。
「もともと私は水の加護を受けている種族だからな、そのまま討ち取られるよりはと思って」
「それで泳ぎ疲れてそこの浜に倒れてたのね」
オルメアに呆れ顔で続きを言われ、ペトラは「面目ない」と軽く頭を下げた。
「水の加護?」
勇が聞き返す。
「そういえばイサミさんは知らないよね。わたしたち魔族にはね、自然の加護が備わってるの」
個々によって違うが、生まれつきこの世界の何か大いなる力により、魔族は加護されているという。マルタンが言うには、それは種族、出身地など、条件は明らかになっていないが、最低でもひとり一つは扱いに長ける属性が存在しているようだ。
「例えば、先生は水の加護が強いみたいなんだけど、アドラは風だね。火の魔法も使えるけど、風を上手く操れるから火の調節もうまいんじゃないかなっておもう。クラウスさんは水かな?」
「そうですね」
「そうなんだ、じゃあ、マルタンは?」
勇の問いにマルタンは気まずそうに口をもにゅもにゅした。
「あ」
ひょっとして。勇も勘づく。
「……マルはわかんないの……レジスタンスだから、なのかなあ」
ひげをしょんぼりさせてしまったマルタンに、ペトラはうーんと唸った。
「レジスタンス職を見たのは私も初めてだからな」
「顕現するのは珍しいと言いますけど、どのくらいの頻度なんですか?」
アドラが訪ねると、「わからない」ときっぱり答えた。
「え?」
「わからないんだ、それが。文献では、別種族からの侵略や攻撃が激化した場合に現れるというが」
だからレジスタンスがどういう職なのか、どんな特色があるのかもいまだに明らかになっていないという。ただ、わかるのは魔族の防衛の要になりうるということだけ。
「魔族って大変なんだね。でも加護があるってのはいいね」
ふかした饅頭を食べながら、オルメアは呑気につぶやく。
「私ら水の民は、水に入ると足が魚の尾びれに変わるけど魔法は使えない。常人よりも速くは泳げるけど、魔法は打てない。人間にも魔法を使うやつはいるけど、私たちはどうあがいても魔法を使えないのよ」
勉強してみたこともあるけどさっぱりね、とオルメアはカップの中の紅茶に砂糖を入れてスプーンでかき混ぜる。
「魔法の力は基本的には先天的素質が無ければ使えない。そういった者にも使えるように開発されたのが魔法機器だな」
ペトラはペン型のライトを胸ポケットから取り出すと、キャップを捻って光らせてみた。船の動力や、光魔法を応用したランプなど、人々の生活に役立てるための魔法機器は、都市部では裕福な層には好んで用いられるツールとなっている。
「私らには縁遠い品物ね……」
希少性も、値段もね、とオルメアは笑い、紅茶を一口。
「それで、マルタン。南の『柱』を探していると言ったな」
ペトラは、マルタンに地図を広げるよう言って、現在地を確認させると、オルメアに筆記具と紙を一枚用意するよう頼み、さらさらとクーナ湾南岸の拡大地図を描き始めた。人間の地図にも、魔族の地図にも載っていない小島がひとつ、この水の民の集落から北へ行ったところに描かれる。ペトラは、魔族の地図と並べて、こんなものだろうか、と独り言を零した。




