〜Day7〜
※あらすじにも書きましたが、直接的な表現は避けてるつもりですが、ショッキングな内容が含まれています。
〜Day7〜
嗚呼、昨日の女子高生は惜しかったなぁ。やっぱり、あの子にしとけばよかったかなぁと思いながら公園のトイレ内に大事な荷物を置く。それは会社に出勤しロッカーに荷物を入れる感覚に近い。その行為を出勤と例えるなら【趣味】の為に散策するのは仕事なのだろうか。まぁ仕事と違い上手くいかなくてもこの時間はウキウキする。
それじゃあ散策開始だ。さて今日はどんな出逢いがあるかなぁ。今日こそ【趣味】にピッタリの人と出逢えたら嬉しいんだけど。因みに僕の【趣味】にピッタリな子の条件とは……か弱い子だ。これは絶対条件と言ってもいい。もう一つはここの公園を通る事を誰にも言ってないという事だ。後は環境的な条件で言うと完全に日が沈み真っ暗で公園には【趣味】に付き合ってもらう子と僕以外は誰も居ない事。
ぶっちゃけ言うと相手は男性でも構わない。ただ男性となると中学生くらいから身体能力が侮れない。必然的に男性を狙う場合は小学生になってしまうが小学生男児は暗い公園を一人で通る事はほぼ無い……残念だ。ならば老人ならと思う人も居るだろう。だが僕の【趣味】に付き合ってもらうにはある程度アクティブに動いてくれる人じゃないと盛り上がらない。
結果的に女性に付き合ってもらう他ないのだ。
今日で七日目、今月はまだ三週間くらいあるけど………うーん、条件のハードルをもう少し低く設定しようか……いやいや妥協したらダメだ。それに今日、条件にピッタリの子と出逢えて【趣味】に興じたとして残り三週間が退屈になってしまう。この【趣味】は月に一回と決めている。自分で決めたルールを守らないと一生【趣味】に興じる事が出来なくなる可能性が高い。そんなのごめんだ。
期待や迷いを理性で制止してると前方から一点の光が見えた。僕はそれが何かを見定める為に立ち止まり観察。光は地面を照らしながら、こちらに向かってくる。僕の目の前まで来ると地面に向けられていた光は急に上へ上がり僕の顔を照らす。
「まぶしっ!」
「あ、ごめんなさい!」
眩しさでそのまんまの感想を口にした直後に誰かが謝る声が聞こえた。それと同時に光は再び地面を照らす。
「あの、大丈夫ですか?」
僕を気遣う声のする方を見ると制服を着た少女が居た。恐らく中学生くらいだろう。光は少女が持ってるスマホのライトだった事もその時にわかった。
「だ、大丈夫です。探し物ですか?」
まだ期待はできないが、この出逢いがあっさり終わらないように質問をしてみる。
「え?あ、いえ、その………怖くて」
「それでですか。もし良ければ出口まで送りますよ」
うーん、ちょっと言葉を間違えたかな。いきなり初対面の男にそんなこと言われたら警戒されそうだな。
「え?えっと………」
ヤバい、断られそう。このチャンスは逃したくない。なんとかしなきゃ。
「あ!でも、手を繋ぐのはダメだよ!今の時代、未成年の女子と手を繋ぐだけでも大変な事になりかねないから!」
「え、ふふふ♪そうですね」
ふぅ、なんとか警戒心を和らげられたかな。
「男は生きづらい時代なんだよ」
ダメ押しにもう一言。これで人畜無害だと思ってくれればいいけど………
「………あの!お願い出来ますか?」
よし、これでこの子の事を知るチャンスが出来た。
「うん。大丈夫だよ」
僕と少女は歩き出す。さぁ、この子はどんな子なのかを知らなきゃ。
「こんな時間に歩いてるって事は部活かなにかだったの?」
この質問は学生相手だと鉄板の質問だ。これで体育会系か文系か帰宅部かが大抵わかる。重要な事だ。
「いえ、部活はしてません。ちょっと友達と遊んでて」
そうか、そうか、それは実にいい。まずは一つ条件を満たせた。
「そっか。今の時期くらいだよ。友達といっぱい遊べるのは」
「そうなんですか?」
「そうだよ。大人になったら友達と遊ぶ時間なんて中々ないよ」
「それはヤダなぁ」
うまく会話できてる。もっと話をしよう。
「それにしてもそんなに怖かったの?」
「はい。だって……外灯がないから」
そうそう。大体、それが理由だよね。まぁ、僕にはそれが好都合だから毎月ここをウロチョロしてるんだけど。
「それに……」
「それに?」
少女の発言にはまだこの公園に怯える理由があるらしい。それは気になる。いろいろと今後の参考になるかも。
「【神隠し】のウワサって知ってます?」
「【神隠し】って突然、人が行方不明になったりするやつ?」
「はい。それです」
公園を怯えるもう一つの理由が【神隠し】。単純に考えるなら公園で【神隠し】が起きてるって事だよな。
「もしかして、この公園で【神隠し】が?」
「はい」
少女は静かに頷いた。【神隠し】か……毎月ここをウロチョロしてる僕も他人事ではいられない。ここは詳しく聞いてみよう。
「その【神隠し】のウワサってどんな内容なの?」
「えっとですね。暗い公園、一人の男性はフラフラ歩いていると一人の少女と出会う………」
少女は神妙な面持ちで語り始めた。それは周りの暗い雰囲気のせいか怪談めいた口調に聞こえる。
「その少女は怯えた様子でした。男性は親切心から少女を安全な場所まで送り届けると申し出たそうです。少女はその申し出を受け入れ二人で歩きます。男性は少しでも少女が安心できるように積極的に話をします。少女も楽しそうに受け答えしていたのですが、しばらくすると少女は無言になり、男性は心配し『大丈夫!俺が一緒に居るから怖くないよ』と気遣いました。すると少女は『それじゃあ、ずっと一緒に居てね』と一言。その後、男性の行方を知る人は誰も居ませんでした」
男性が怯える少女を送り届ける………状況的には今の僕だ。その後は少女が無言になるか……
「なんか、それって今の僕みたいですね」
「…………」
笑い混じりで言ってみたが少女は無言。もしかして聞こえなかったのかな。
「あの、大丈夫?」
「………………」
尚も反応は無い。体調でも悪いのだろうか。心配だ。
「もしかして僕……【神隠し】に遭うの?」
「……………………………………冗談です♪」
冗談か、よかった。体調が悪くなったのかと本気で心配した。初対面の僕に冗談を言える程リラックスしてくれているのか、それとも少しでも恐怖を紛らわせる為の強がりのようなものなのか。
「あ!でも、【神隠し】のウワサは本当ですよ。最近、行方不明になった人達のほとんどが最後にこの公園を通るって言って【神隠し】に遭ったみたいです。まぁ、【神隠し】なのでこの公園が現場なのかも怪しいですけど」
………そうか。そろそろ僕も身の振り方を考えないといけないな。
そうだ。この流れで僕が聞こうと思ってた質問をしよう。これはとても大事な質問だ。少女のおかげでその大事さを再認識できた。さぁ、質問だ。
「君は誰かにこの公園を通るって言ったの?」
「え?いえ、言ってないです。だって【神隠し】に遭うかもしれないじゃないですか」
そっか、誰かにこの公園を通るって言った事が【神隠し】の条件と解釈してるのか。
なにはともあれ少女の返答で僕の【趣味】に付き合ってもらう為の条件が満たされた。
【趣味】に付き合ってもらう為に少女に僕の趣味の事を細かく話した。すると少女は突然走り出した。これが僕の【趣味】の開始の合図だ。よかった、少女もノリノリで付き合ってくれて。
僕の【趣味】は簡単に言うと【追いかけっこ】だ。でも、この【追いかけっこ】は絶対に負ける訳にはいかない。だからこそ付き合ってもらう相手を慎重に吟味してたのだ。
そして、いま【趣味】に付き合ってもらってる少女は大声で何か叫んでる。公園の片側は川、その反対は住宅街だが、住宅街と公園の間には木々が生い茂っていて少女の声は届き辛い。ちゃんと騒音対策もしている。近隣住人への配慮だ。
少女は叫ぶのを止めポケットからスマホを取り出した。これは面倒だ。この【趣味】に第三者が入るような無粋な真似をされたら困る。僕は走る速度を上げるが……
「きゃっ!」
少女が転んだ。そりゃそうか、こんな真っ暗な中でスマホを操作するからだ。どうしよう……このままだと追いついてしまう。こんな楽しい時間をあっさり終わらせるのは惜しい。手加減するか。
僕は今から飛び掛かりますよと言わんばかりの大袈裟な予備動作の後、飛び掛かった。
「いやぁぁ!」
よかった、ちゃんと避けてくれた。さぁ、まだまだ【追いかけっこ】を続けよう。
次に少女が取った行動はシンプルでありきたりだが、厄介な行動だった。それは公園からの脱出だ。
一直線に公園の出口へ走る少女。僕の【趣味】はこの公園の中で留めなくてはならない。脱出を阻止する為に僕は足を速め、少女を追い越して出口へ行かないように追い立てる。
「いや、いやぁぁあ!」
上手く成功し、また適度な距離を保ちながら少女を追いかける。それから、しばらく【追いかけっこ】は続いたが人間いつまでも全力で走り続けるなんて到底ムリだ。僕はまだ体力に余裕があるが少女はと言うとフラフラだ。恐らく立ち止まったら乗り手を失った自転車の様に倒れてしまうだろう。これは僕が責任を持って終わらせるとしよう。
逃げる少女の背中に飛び掛かり押し倒し馬乗り状態になった。うつ伏せの少女を仰向けにすると少女は腕や足をバタつかせ大暴れ。足は放置するとして腕は何とかしなきゃならない。目には目を、腕には腕を。僕の腕で少女の腕を無力化した。そして、少女の顔をまじまじと見る。その少女の顔は唇が小刻みに震え目から大粒の涙、僕の【趣味】【追いかけっこ】で一番の山場であり楽しい場面でありクライマックスだ。
【追いかけっこ】に負けてこんなに泣くなんて僕は嬉しい。それは僕と本気で向き合ってくれたという証拠なのだから。これまで僕の【趣味】に付き合ってくれた人達は一様にこんな表情をする。だから、僕はこの【趣味】をやめられないのだ。
【趣味】をたっぷり満喫した僕はいま後片付けの最中。ロッカー代わりにしていたトイレのドアを閉め壁、床、天井一面をブルーシートで覆ってある。そうでないと凄く汚れるからだ。因みに僕自身もカッパに長靴、ゴーグルで露出度ゼロの完全防備だ。更に手には骨をも両断する包丁、他にも用途が様々な包丁が数種類ある。これが僕の荷物の全てだ。
とにかく後片付けは大変だ。でも、これをやらなきゃ、定期的に【趣味】を継続するのが困難になる。まぁ、月に一回だし【趣味】の事を考えると頑張れる。
それと自慢じゃないが、この後片付けのおかげで僕のスキルは格段に上がったと思う。精肉とかでバイトをしたら一ヶ月以内で大きな塊肉を任せてもらえるだろう。特に骨から肉を削ぎ落とす技術には自信がある。
そうこうしてる間に片付けの大半は終了。包丁で細かくしたゴミ、着ていたカッパ、長靴、ゴーグル、後は包丁をブルーシートで包み川へ移動。ホント、この公園は立地が良い。川で汚れた道具や衣類をすぐに洗えるし細かくしたゴミを川に流せる。ただし細かくしたゴミは全て川に流す訳ではない。自然に分解されそうなゴミだけ流すのだ。残ったゴミはカバンに入れて目立たない場所に捨てるつもりだ。おかげで帰りはカバンがパンパンになる。
片付けも終わり僕は公園を後にする。
「こんばんは」
「こんばんは!お疲れ様です」
帰り際、パトロール中のお巡りさんに挨拶されたので挨拶を返した。この瞬間は少しドキッとする。でも、職質された事はない。やはり第一印象の顔は大事だ。
はぁ、それにしても【神隠し】なんてウワサがあるのか……凄く良い公園だったのになぁ。新しい場所を探すか。
充実できた一日だったし今日は帰ろう。
Day7で主人公は【趣味】をやる事が出来ました。正直、これを書いてる時、私はまともな精神状態なのかと不安になりました。それと私の中では何が起きてるのかはわかってますが、それを文章で皆さんに伝えられてるかも不安です。 次は後日談になります。 最後までお付き合いください! それでは