‐ 第84話 ‐ ××の特別な、
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
香雲館という名の塔は、僕が考案して作らせた。異端者を穴に落とし、魂が浄土へ導かれる仕掛けは素晴らしいと、お父さんに褒められた。
素晴らしいと、そう云ってくれるのなら心残りはない。
建設して一番に、お父さんの背中を押した。お父さんのために作ったようなものなので、一番にそうすることは自然なことだった。チップの取り出し方法を聞くよりも、容易いことだった。
まだ若かったからか、お父さん亡きあとに僕を崇める者は少なく、異端者が増えた。
香雲館を作った甲斐があると思えた。
僕の側近によって展望台へ招かれた異端者の中に、暴れる女の信者がいた。
往生際の悪さが目立つので、罪の内容を側近に聞いた。
「隣の男と手を組み逃亡しようとしていたので、その現場を捕えました」
暴れる女の隣の男は相反するように動かない。
男と女の目隠しを取らせた。
「そう……。そういうことかい」
女は伊法だった。目隠ししていたのでわからなかったが、伊法も男も泣いている。
「カイル君か。涙を流すほど僕に恐怖を感じているのなら、初めから握手なんてするものじゃない」
握手をしたのなんていつのことだったか、覚えていないのだろう。
僕は色濃く覚えている。あの特別な静寂の時間を。
僕の卒業後の全校集会は、この二人の特別な時間になったのだろう。
伊法が僕に何か話したそうにしているので、猿轡を外した。
「××!」
「失礼だぞ!」
お父さん以外で唯一僕を名前で呼んでくれる。正確には、黒板に書いてくれる。だから声にして呼んでくれたのは初めてだった。
恐いもの知らずの伊法。無礼だと、側近に殴られる。僕は側近を止めた。
「何だい?」
伊法の前に跪き、なるべく優しい声で云う。
「助けて……。友達でしょう……?」
――友達。ずっと、ずっと焦がれていた言葉――
信じていたのに。僕の心を傷付けたあとにその言葉を云うなんて、なんて酷い言葉。なんて酷い人間。
「『変えようと思わなきゃ、変わらないよ』って。『いつか二人で』って……」
心が痛いと、身体もおかしくなる。声が出にくかった。
「こんな香雲館作って! おかしいよ! どうしちゃったの!」
側近が伊法を殴って黙らせる。もう止めに入ることはできなかった。
僕が求めた友達は、こんな醜い生き物じゃない。友を死なせんと苦悩し戦う尊い存在。決してこのような、人の心を踏みにじる、爛れ穢れた存在ではない。
「助けて! お願い! 友達だったでしょう!」
「君は友達なんかじゃない」
死体の山の一番上に、伊法が見える。お父さんはもう見えない。
伊法も、もう見たくない。だが燃やして浄土に逝くのは早すぎる。
墨を流そう。塗りつぶすように。そうすれば、何が何だかわからない。




