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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第5章 ◆ 童歌が聞こえるか
85/87

‐ 第84話 ‐ ××の特別な、

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 香雲館という名の塔は、僕が考案して作らせた。異端者を穴に落とし、魂が浄土へ導かれる仕掛けは素晴らしいと、お父さんに褒められた。


 素晴らしいと、そう云ってくれるのなら心残りはない。

 建設して一番に、お父さんの背中を押した。お父さんのために作ったようなものなので、一番にそうすることは自然なことだった。チップの取り出し方法を聞くよりも、容易いことだった。


 まだ若かったからか、お父さん亡きあとに僕を崇める者は少なく、異端者が増えた。

 香雲館を作った甲斐があると思えた。


 僕の側近によって展望台へ招かれた異端者の中に、暴れる女の信者がいた。

 往生際の悪さが目立つので、罪の内容を側近に聞いた。


「隣の男と手を組み逃亡しようとしていたので、その現場を捕えました」


 暴れる女の隣の男は相反するように動かない。

 男と女の目隠しを取らせた。


「そう……。そういうことかい」


 女は伊法だった。目隠ししていたのでわからなかったが、伊法も男も泣いている。


「カイル君か。涙を流すほど僕に恐怖を感じているのなら、初めから握手なんてするものじゃない」


 握手をしたのなんていつのことだったか、覚えていないのだろう。

 僕は色濃く覚えている。あの特別な静寂の時間を。

 僕の卒業後の全校集会は、この二人の特別な時間になったのだろう。


 伊法が僕に何か話したそうにしているので、猿轡を外した。


「××!」


「失礼だぞ!」


 お父さん以外で唯一僕を名前で呼んでくれる。正確には、黒板に書いてくれる。だから声にして呼んでくれたのは初めてだった。

 恐いもの知らずの伊法。無礼だと、側近に殴られる。僕は側近を止めた。


「何だい?」


 伊法の前に跪き、なるべく優しい声で云う。


「助けて……。友達でしょう……?」


 ――友達。ずっと、ずっと焦がれていた言葉――

 信じていたのに。僕の心を傷付けたあとにその言葉を云うなんて、なんて酷い言葉。なんて酷い人間。


「『変えようと思わなきゃ、変わらないよ』って。『いつか二人で』って……」


 心が痛いと、身体もおかしくなる。声が出にくかった。


「こんな香雲館(もの)作って! おかしいよ! どうしちゃったの!」


 側近が伊法を殴って黙らせる。もう止めに入ることはできなかった。

 僕が求めた友達は、こんな醜い生き物じゃない。友を死なせんと苦悩し戦う尊い存在。決してこのような、人の心を踏みにじる、爛れ穢れた存在ではない。


「助けて! お願い! ()()()()()()()()()!」


「君は友達なんかじゃない」




 死体の山の一番上に、伊法が見える。お父さんはもう見えない。

 伊法も、もう見たくない。だが燃やして浄土に逝くのは早すぎる。


 墨を流そう。塗りつぶすように。そうすれば、何が何だかわからない。

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