表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第5章 ◆ 童歌が聞こえるか
81/87

‐ 第80話 ‐ 父と息子

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 僕という人間は、良く云えば気骨がある。悪く云えば、往生際が悪いといったところか。


 あいつは僕のことを知り尽くしたかのように、講釈を垂れて死にやがった。

 だが僕は生きている。だったらやり直せばいい。

 一体何をやり直すというのか? 自分に問い掛けるがわからない。

 

 せめて、母さんを奪ったあいつを殺してからやり直そう。僕の邪魔をする何もかもを無くしたとき、きっと何かが見えてくるはず。



 通路を蛆虫のように這い、教祖の元を目指した。

 蛆虫の目線で、誰かの靴先が視界に入る。男物の革靴。残念ながら教祖じゃない。あの人はいつも草履を履いている。じゃあ、誰だというのだ。


「……なんて姿なんだ」


 懐かしい声。そいつは勝手に僕の体を起こし、壁にもたれ掛けさせた。勝手なことをするなと抵抗したかったが、体がいうことを聞かない。


 勝手に僕の前に座り込み、僕の瞳に自分が映るようにした。

 向き合って話したところで、もう何もかも遅い。


「沢山、殺したんだな」


「……何だか……とでも、大事(おおごと)みだいに言うね」


「当たり前だ……! 自分が何をしたのか、わかっているのか」


 この僕に怒るなんて、何様のつもりなのだ。何もかも今更すぎて、滑稽で笑えてくる。


「僕はただ、掃除をじただけだよ……」


「違う。殺人だ」


 僕を理解できない父親には、ほとほと呆れる。理解しようとしないから、理解できないのだ。

 向き合って話すことなどもう二度とないだろうから、教えてやろう。


「昔ね、あぁ、父ざんと母ざんと、僕の三人で暮らしでいた時の話だよ……。まだ家にお手伝いさんもいない時だ……。二人ども、仕事で忙しぐてさ、特に父ざんは、帰っでごない日なんてざらにあった……。母ざんも帰っでぐるのが遅いし、家事はめちゃくちゃで、ずごく家の中が散らがっでいたんだ…………。僕ね……母ざんの負担を減らじだいと思って、学校から帰って、あの広い家を……僕一人で一生懸命掃除したんだ……。そじたら母ざんが帰ってぎで……すごく、ずごぐ褒めでぐれたんだ……。『()()()()()()()()()()()()()?』って……。あんなに頭を撫でて、抱きじめて喜んでぐれたのは、あの時だけだったな…………。とてもとでも、嬉じがったんだ……」


 思い出すと、胸が暖かくなるのがわかる。

 大切で、もういい加減、捨てなくてはいけない思い出だ。


「……だから、母さんの邪魔になるものは、お前が掃除したっていうのか?」


 父さんの声の感じが変わった。僕を理解しようとしているのだろうか。


「そうだよ……。()()()()()()()()()()()()……。そこが重要なんだ。だから僕は、絶対に群れない。仲間なんでいらない……。沢山、邪魔されたりもしたけどね……」


「……そうか……。なるほどな。それで、次にお前は誰を掃除しに行こうとしていたんだ……。私か?」


「ふ……。違うよ。息子に殺ざれないか、心配しでるの……? 残念だけど、あなたは眼中にないね……。僕から母ざんを奪った教祖を殺しに行ぐんだ。邪魔しないでくれ……」


 不毛な会話はここまでだ。僕は立ち上がろうと足に力を入れた。けれども足はしっかりと立ってくれない。このまま倒れてまた、地面を這うしかない。


「もう殺す必要はないんだ」


 倒れそうになった僕の体は、父さんによって支えられていた。父さんの、匂いがした。


「掃除、しなくていいんだ」


 ……何故? 会社も継がせてもらえないし、僕にできるのはそれしかないのに。


「悪かった……。今更だよな。父さん、もう会社辞めるし、慧も疲れただろうから、二人でゆっくり休まないか」


「……何言ってるの? 確がに疲れたけど、まだ何の成果も挙げられでないよ……」


 父さんが、僕を背負って歩いている。何処に向かっているのだろう……。家? まだお手伝いさんも、弟も、妹もいない、三人で暮らしていた頃のあの家に……。


「成果が全てじゃないんだ。私が言えたことではないが、休むことは必要なんだ。慧は人一倍頑張り屋さんだからな……その分ちゃんと休まないといけない」


「……あぁそうか……。休んでないがら、だから、ごんなに体が悪くなっちゃったのか。ごうなるまで自分では気が付かないものなんだね。ごめんね父ざん、迷惑掛けて」


「……家族に……迷惑なんて、ないんだ……」


 父さん、泣いているのだろうか。


 体が暖かくなってきた。顔を上げると家が見える。誰のセンスでそうなったのかは忘れたが、赤色の暖かい家だ。僕が云ったんだろうか? 赤色が良いと…………。



 父さんは静かに、眠る僕を背負ったまま、家へ入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ