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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第5章 ◆ 童歌が聞こえるか
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‐ 第71話 ‐ 勇魚&麗奈、突入

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 優士は速度を一切落とすことなく、大鳳教の門をバイクで突っ切って行った。

 同じように俺が突っ込むわけにはいかないので、急ブレーキを掛け近くに停まった。

 辺りに誰もいなさそうなので、車から降りて門の近くまで行ってみる。


 それにしても大鳳教総本部はでかい。縦にも横にも。広大な敷地と建築物が権力を現わしている。三つの珍妙な建物があるが、優士はどの建物に入ったのだろう。直ぐに追いつくとは云っていたが、ケイト達はまだ来る気配がない。近くに優士がいるというのに……!


 歯痒く、門の前でウロウロとしていると、人の視線を感じた。一人の女子高生が俺から距離を取り、怪しそうに見ているではないか。この子も信者だろうか。つい迂闊に門まで近づきすぎてしまった。女子高生からは不審者と思われているのではないだろうか。


「いや、あの……! 知り合いがここに入って行ってしまって、連れ戻したいんだけど俺も勝手に入ってしまっていいもんかなぁと、思っ……て?」


 不信感を払拭するために出た言葉が疑問形で終わってしまった。女子高生も困ったような顔をしている。


「私も、似た理由でここに来たの。ここ関係者じゃないと入れないから、一緒に行きます?」


 思わぬ返事だった。こんなチャンスは二度とない。

 しかし、返事には『私は大鳳教信者です』という意味も含まれている。

 ……危険な子には見えない。今どきの女子高生だ。万が一のためケイトから銃も持たされている。


 ケイトに連絡だけ入れて、女子高生の後をついて行くことにした。


「君は、ここの関係者なの?」


「うん。母親がここの偉い人やってて、まぁ今は絶縁中なんだけど、どうしても確認したいことがあって……」


 偉い人、とは誰を指すのかが気になる。そしてこの女子高生はやけに顔が整い過ぎている気がする。

……もしかすると、と俺は思った。


 女子高生は大鳳生命研究所と書かれた建物に堂々と入った。立派な建物だが、一般のそれとは何かが違う。異様さが隠しきれていない。左右に建つ建物などは、隠すどころか主張しているようなものだ。

 見るからに関係者以外が入っていい所ではない。優士も今から俺が入る研究所にいるといいのだが……。


 

 研究所内に入ると、直ぐに受付ロボットが出迎えに来た。白いボディにはやはり黒丸が描かれている。ロボット自身も一人の信者であるかのようだ。


「――大鳳生命研究所へようこそ。お名前をお伺いします――」


「奈須川麗奈」


 女子高生は自分の名を不愛想に答えた。やはりその苗字ということは、奈須川美鈴の娘なのだろうか。先程云っていた絶縁中とはどういうことだろう。言葉通りの意味なら、この子は敵ではない。


 名乗り終わった後、ロボットは女子高生の顔をスキャンした。


「――信者名簿に登録がございません――」


「はぁ? そんなわけないでしょ。な・す・か・わ・れ・な。もう一度調べて」


 ロボットは数秒考える。


「――奈須川麗奈様は、十月三日を持ちまして、除名処分されております――」


「はぁ? ママの仕業ね。マっ……奈須川美鈴に会いたいんだけど」


「―――信者名簿に登録がございません―――」


「活舌が悪いのかしら……。な・す・か・わ・み・す・ず。もう一度早く調べて!」


「――信者名簿に登録がございません――」


「本当に耳悪いんじゃない? あんたメンテしてもらってる? 苗字と名前に分けてもう一度検索するとか、似た名前を洗い出すとかしなさいよ!」


 女子高生はロボットに対し荒々しい口調になってきた。

 どうも、雲行きが怪しい。


「―― 一件、ヒット致しました。ご面会は、大鳳美鈴様でお間違いないでしょうか――」


「……大鳳? 確認するから顔を映して」


 ロボットはホログラムでその人物を映し出した。

 その人物はやはり、奈須川美鈴だった。


「大鳳って、まさかとは思うけど、教祖と同じ大鳳を名乗ってるの? いつ名前の登録が変わったの?」


 奈須川の娘は動揺している。苗字が変わるということは、それはつまり……。


「――お答えすることができません。面会を、希望されますか――」


「面会も何も! 私はいつも通してくれてたでしょう! 黙って通しなさいよ!」


「――受付が必要です。面会の場合はこちらの日程から予約日を……」


 奈須川美鈴のホログラムが予約表に変わった瞬間、奈須川の娘は痺れを切らしてロボットのボディを鞄で殴った。その振動によって、ロボットの出したホログラムが消えた。


 ロボットは倒れこそしなかったものの、暫く静止した。

 その静止している間、緊張が走り、嫌な予感がした。――ただでは入れてもらえないし、ただでは帰らせてもらえないと。


「――異端者からの攻撃を確認しました。直ちに連行致します――」


 ロボットがそう云った直後、奥からもう一体のロボットが現れた。受付ロボットのような仕様ではなく、捕獲を目的とした大きな腕があり、滑るように真っ直ぐ女子高生に向かってきた。


「やばい! きゃあー!」


「――お待たせ致しました。大鳳生命研究所へようこそ。お名前をお伺いします――」


 奈須川の娘に用がなくなった受付ロボットは、ぐるりと俺に向き直った。

 やはりまずい状況になってしまった。俺なんて尾澤に知られているから、名乗ったら即アウトだ。偽名を使っても顔をスキャンされたら終わりだ。やはり正式に信者と登録されていなければ入ることはできない……。


 俺は受付ロボットを思い切り蹴り倒し、一か八かで奈須川の娘を捕えようとするロボットに銃を放った。だが、高度なボディは一切傷つけることができず、ロボットはそのまま奈須川の娘を簡単に捕まえてしまった。


 そして、奈須川の娘を片手で捕まえたまま、今度は俺に向き直った。逃げようと後ろを向いた時には、蹴り倒したはずの受付ロボットが起き上がって、俺の目前に立ち塞がっていた。表情が無いのに、怒っていると思った。




 俺はケイトの言いつけを守らなかったことを後悔した。


 信者が数名走ってくるのが見え、いつの間にか俺も奈須川の娘と同じように、無様にもロボットの手の中に収まっていた。

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