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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第5章 ◆ 童歌が聞こえるか
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‐ 第69話 ‐ 夢と現 僕は××

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

「お前の父ちゃんって変人だよ」


 エイジ君にそう云われた。

 学校の帰り道だった。初めて云われた言葉ではない。


「どうして?」


 僕はエイジ君に訊ねてみる。新しい答えもあるかもしれない。


「だって、この前遊びに行かせてもらった時さ、お前の父ちゃんの、奥さん? いっぱいいたし、俺の膝の傷見るなりいきなり手を当ててくるし、なんか変な服着てたし、普通じゃないよ。お前だって変な服着てるし、それに音楽の時間全然歌わないじゃん。あれって何で先生に怒られないんだ?」


「…………やめてよ。そんなこと言ったら、お父さんが来ちゃうよ」


「え? どういうこと?」


 エイジ君はわかっていなかった。転入してきたばかりだからだ。だからきっと、僕のことに関しては真っ新な状態だから、友達になれると思って声を掛けた。


「あ、転校生! そいつと一緒に帰んない方がいいぜ!」


 僕たちの後ろからそう云ったのは、ノブ君だった。

 ノブ君は一緒に帰っているマサヒロ君に強く肩を叩かれ、直ぐに口を手で抑えた。エイジ君のために云った言葉がまずいことになると、云ってから気付いたのだ。


 犬を散歩させていたお姉さんや、街を巡回していた警察官、スーツを着たサラリーマンや、ベンチに座っていただけのおじいさん。そこら中にいた様々な人が、空虚な目でエイジ君とノブ君を囲んだ。


「……何、何なの。何処に連れて行くの!」


 エイジ君はわかっていないから、慌てて抵抗した。わかっているノブ君は声すら出ない。

 大人たちに連れて行かれ、やがてエイジ君の声は聞こえなくなった。


「大丈夫かい××。酷いことを言う子たちだね。早く家に帰ろう。君も早く帰りなさい」


 気づけば隣にお父さんがいた。公園の木の陰にでも隠れていたのだろうか。お父さんはいつも、いつの間に傍にいた。

 マサヒロ君はお父さんを見ると、逃げるようにして帰って行った。


 お父さんと大勢の大人たちは、僕に危険が及んでいるとわかると、直ぐに駆け付けて守ってくれる。なんでそんなことができるのかというと、僕の頭にチップが埋め込まれているからだ。チップのお陰で僕の居場所がわかるし、小さな音までも拾える。お父さんが僕のことを大事に思ってくれているから、こうしてくれるのだ。


 でも、そのせいで僕には友達がいなかった。近寄ると危ないと云われた。そう云った子の家族は街から引っ越した。確か、リエコちゃんだっただろうか……。爆発物を見るかのような目でそう云ったから、僕は頭に爆弾を抱えているのだと思った。そりゃあ、いつ爆発するかわからない奴と友達にはなれない。――けれども僕は欲しくて欲しくて、欲しくて……仕方がなかった。




 図書館にいるのが好きだった。お父さんの書いた本や、書に関する本以外を読めるし、声も出さなくていい。いる場所も安全な場所だから、大人たちに邪魔されることはなかった。

 児童書を読めば読むほど、友達の素晴らしさを知った。そして読めば読むほど、僕の家はおかしいのだとわかった。エイジ君の云っていたことは本当だった。変人で、狂っている。――本当は、わかっていた。




 僕は十二歳の誕生日、お父さんにあることを強請ってみることにした。変人でも、お父さんは僕に優しいから、欲しいと云ったものや、僕の役に立つと思ったものは何でも買い与えてくれる。

 だから、もしかしたら願いが叶うかもしれないと、期待した。


「お父さん、誕生日に欲しいものがあるんだ」


「言ってごらん」


「欲しいというかね、作るものなんだ。それで、父さんに手伝ってほしくて」


 父さんは筆を止めて聞いてくれた。


「親友を作りたいんだ。友達じゃなくていい。唯一無二の親友を、一人だけ、作りたいんだ。そのためにね、僕の頭のチップを取って欲しくて……」


 パッと顔を上げると、そこには般若の顔があった。

 いつも穏やかなお父さんの顔が、とても恐ろしい顔をしていて、怒りのあまり筆は二つに折れていた。――僕はとんでもないことを云ってしまったのだ。


 それから図書館に行くことは許されなくなった。僕が父さんに云ったことは、図書館にある本の影響だと思ったのだ。間違ってはいないが、図書館にいたって、学校にいたって、家にいたって、僕はずっと親友が欲しかった。勿論チップは頭に入ったままで、僕は爆弾人間のままだった。


 読める本は家にある本に限られてしまった。そんなもの、とっくに読み切ってしまったのに。それでも僕は、容易に喋れないためか、本に助けを求めずにいられなかった。次第に文字の書いてあるものは、何でも読みたくなってしまった。英語だろうとロシア語だろうと中国語だろうと、何でも。



 もう僕を救ってくれるものは何もない。

 そう諦めかけていたとき、死んだおじいさんの部屋から見つけた。


 それには唯一無二の、親友の作り方が記されていた。


 僕はそれに縋った。宝物として、いつも肌身離さず持っていようと誓った。

 お父さんも知らない、僕だけの秘密の本だった。









 ………………私は、呼吸をしていただろうか。

 体を起こすと、マスクが枕元から落ちていた。嫌な夢を見たのはそのせいだ。


 心を静めるため、自分の腹を触る。大丈夫だ。あれはちゃんとある。

 嗚呼、長年の夢が叶う。


 ……歳のせいか、また指が震える。否、迫る死期に恐怖しているのかもしれない。

 急がなければ。優士が私を殺しに来るのと、慧が凱を連れてくるのと、さてどちらが早いか。


 もうこれ以上、首を長くして待つことはできない。もう、優しくはなれない。

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