‐ 第7話 ‐ 地下三階の恐怖
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
「君のせいだよ腰野君。あそこの責任者は君なのだから。一体どんな管理をしていればあれが逃げ出せるんだ? えぇ? 連中の恐ろしさは知っているだろう。このままでは私たちは始末される。あの臆病者の社長は守ってなんてくれないぞ。私たちだけでなんとかしなければ……」
工場長は凱たちを探す前に、わざわざ地下三階まで下りて腰野に説教を食らわせていた。その間に凱たちが逃げ出すという可能性を考えられないほど、工場長も腰野と同様に尋常ではなく何かに怯え、気が動転していた。
「わかっていますよ……。僕もまさか、大鳳教の信者がいるなんて思っていなかったんです。それも宇智田さんだなんて……。あの子は良い子だと思っていたのに……。もう一人の男は僕にはわかりません。なんで」
「男の方は通訳に来ていた本社の男だ! 私にもわからん! 訳が分からん! 兎に角あの二人を始末して、凱はもう一度眠らせるんだ!」
「そんな、始末って……殺すだなんてできません! たとえ大鳳教徒でも宇智田さんは殺したくない。きっと何か訳があったんですよ。ずっと何も起きなかったのに、今になって、うぅ……」
工場長はその場に泣き崩れる腰野の胸倉を掴み、無理やり立たせた。小人のような腰野は簡単に工場長の目線の高さまで持ち上げられた。
「何故殺せないんだ。責任逃れをするなよ。来たばかりの派遣社員の女に情があるのか? 殺したら凱と一緒に二人の死体を冷凍しておくんだ。後のことはそれから考える……。いいな? 落ち着くんだ。通訳の男は俺がやる。宇智田は君が殺せ。絶対に殺せわかったな! どいつもこいつも厄介事には見て見ぬ振りしやがる……。くそっ」
腰野の顔には工場長の唾液が飛び散り、それは眼球にも直撃していた。
「行くぞ。凱は外に出してはいけない。本来居てもいけないんだ。血眼になって連中は探している。いや、連中だけじゃない…………。これは日本のためであり世界のためであり、そう、平和のためだ。だからあの二人の命は仕方がない。殺す。殺す……」
腰野は涙を流しながら、念仏のように『殺す』と唱える工場長に続き、階段を上がった。
目の前の男は死神だと思った。そして自分はその死神に従うしかない。事実、死神の口にした残虐な言葉は、全て間違っていないことを腰野は認めていた。
殺したくない。殺されたくない。腰野は地下三階に凱がいることなど、ずっと忘れていたかったのだ。