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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第4章 ◆ 想イ人
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‐ 第67話 ‐ 蛙亭にて

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

「最後に優士さんの目撃情報があったのは、事故のあった交差点から十三キロ先のラーメン店のようです。手掛かりはこれだけですが、向かってみますか?」


治安の悪そうな店で武器を調達し、戻ってきたケイトが云った。淡路島にあったカフェのように、RMSに協力する小さな組織が僅かばかりあるらしい。


「行こうぜ。聞き込みすればもっと手掛かりが見つかるかもしれない。ついでに飯もそこで食べてこう」


 俺たちは生き返った優士を探すため、そこに向かった。


 ネオンライトの看板に「蛙亭」と書かれたラーメン屋で、どこか憎めない顔をしたマスコットの蛙が、店内の至るところにいた。従業員は給仕ロボットと人間の半々だ。ロボットを全導入する資金がない店は、どこもこんな感じだ。


 兎も角腹ごしらえをしなくては。子ども二人の腹の音が車内でずっと鳴りっぱなしだった。


「え~っと……蛙亭ラーメン一つと、ケイトが塩ラーメン一つと、蛙亭お子様ラーメンが二つか」


「違う! 俺普通のラーメンでいい!」


 そう怒った凱に、若い店員の男はやけににっこりと笑った。

 凱の体は凡そ十二歳になっていた。そりゃあ、お子様ラーメンじゃない。俺が悪かった。


 入口の横に喫煙室があるのが見えた。色っぽい蛙が煙草を吹かしたイラストが貼ってある。


「俺ちょっと煙草」


 そう声を掛け、席を立った。

 喫煙室には誰もない、この感じがどこか懐かしい。


 煙を吐きながら優士のことを考える。写真で見たバイクに乗っている優士の後ろに、以前の姿の美生が乗っていたとする。少しロックな、お似合いのカップルだと思った。やんちゃをしていそうな少年でも病気になり命を落とすのが、何だか信じられなかった。


 十八で恋人を亡くした美生はどんな気持ちだったのだろう。その経験があるから、周りにいる俺たちを死なせないよう庇ってくれたのだろうか……。


 美生たちの座るテーブルを見る。髪色の似ているケイトと美生は、一見親子のように見える。何も知らない人間から見れば、ケイトと()()だ。誰もあいつが二十五歳の純日本人、宇智田美生であるとわからない。それでも優士は美生だと信じてくれるだろうか。そもそも、あの優士は生前の優士と、同じ人間なのだろうか……。



 遠くからエンジン音が聞こえてくる。美生が運転していた車よりも煩い、バイクのエンジン音だ。これ以上回転数を上げてくれるなと、悲鳴を上げるような酷い音だ。


 窓ガラスの外を一瞬で横切ったそいつを、俺は見逃さなかった。

 ――あれは優士だ――


 急いで店の外に飛び出た。テーブルに戻って美生たちに伝えている時間はない。何せ優士は猛スピードだった。


 目の前の無人タクシーに乗り、追跡ボタンを押した。が、やはりタクシーはそれほどスピードを出してくれない。


 自動運転機能を切り、手動に変えてアクセルを踏む。車に詳しくないとこんなことはわからないし、それ以前にタクシーの機能を無理やり変えることは違法だが、今は法に構っていられない。

 前を走る優士は赤信号を一切無視した。手動運転に切り替えて正解だ。じゃないと今頃は信号でゆっくり停止している。


 運転に集中しつつ何とか腕時計を起動させ、ケイトに電話を掛けた。


「優士だ! 店の前を通ったんだ! 俺が今タクシーで追ってる。お前らはそこで待っててくれ!」


「本当ですか? ですが、こちらもそうはいかなくて」


 ケイトが話した直後、電話口から銃声が聞こえた。


「このラーメン屋、大鳳教の信者が経営する店だったみたいでして、凱君の顔が割れていたみたいです」


 ケイトは相変わらず冷静な口調だった。


「まじかよ大丈夫なのか!」


「はい。こちらは私とマックスで十分対処できそうです」


「……誰だマックスって」


「美生さんと凱君が箱につけた名前です。少々過激な店員たちですが、戦闘はこちらの専門分野ですので、問題ありません」


「そりゃ頼もしいな……。あとな、優士はどうやら大鳳教に向かってるんじゃないかな」


 大鳳教の象徴の一つである高い塔が見える。それだけを目標に優士は走っているように見えた。


「やはり大鳳教ですか……。わかりました。時間は掛からないと思いますが、こちらが片付いたら直ぐに追いかけます。とはいっても敵の本拠地ですので近くで落ち合いましょう。連絡は忘れないでくださいよ」


「わかった。あとでな!」


 電話を切り、前を走る優士に集中を戻した。


 一瞬だが、確かに見た。目の前を通り過ぎた優士の顔は、憎悪に満ちた顔をしていた。あれが美生の知る優士なのだろうか。そんな恐ろしい顔をして、大鳳教へ突っ走って、一体何を考えている。優士に何があったというのだ。

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