‐ 第64話 ‐ 絆
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
「お前、昨日寝てから一気に四歳くらいになったか?」
直ぐに成長することを見越してかなり大きめの服を着ていたが、確かにサイズがきつくなっていた。勇魚の云う通りだ。
「何処かで服を買いに寄りましょう」
「ありがと。ところでさ、あたしたちって何処に向かってるの?」
車はあたしたちが何もせずとも自動で走るために、あたしはただ乗っているだけだった。RMSも崩壊して、他に逃げ場があるのだろうか。
「取り敢えず、沖縄を目指して南に走っています」
「沖縄ぁ?」
「沖縄ぁ?」
あたしと勇魚の声が重なった。
「私の父が沖縄に基地を所有しています。父はもう傭兵を引退していますし基地も使われていませんが、隠れ家ぐらいにはなるでしょうし、力になってくれると思いまして」
「なるほどな。そこまで行けば奴等も追ってこないか」
「いえ、全国各地に大鳳教の信者はおりますので油断はできません。一旦そこで立て直せればと」
一体、この逃亡劇はいつまで続くのだろう。ここにいる誰も、逃げなければならないことをした覚えはないのに。
運転の必要がない道中は、時間が存分にあった。凱と遊んだり、頭の良い黒い箱に名前を付けたり、寝たり、お父さんとママを思ったり……。
ケイトは外した腕時計を床に置き、立膝で座ったまま、ホログラムに映し出されるニュースや記事に、細かく目を通していた。
「これ……ちょっと見てください。大鳳教のことが載っています」
ケイトがホログラムを壁に飛ばした。
「大鳳教総本部、大鳳生命研究所内にて信者約三十七名が死亡。全て変死体。闇金融業者幹部三名死亡。一体を除き、二体が大鳳教信者と同じ変死体……。大阪市内で同時期に確認される暴走バイクの少年と関係はあるのか……。なんだこれ。三十七人もなんで一斉に死ぬんだ」
勇魚の問い掛けに、ケイトは情報をさらに調べた。
「写真が出てきましたが、酷いですね。見れますか? ……車内で嘔吐されるのは困りますので」
あたしたちはお互いの顔を見合わせた。
「凱はあっち向いてな」
「大丈夫だし。なんか今の美生に言われても説得力ねぇし」
何も云い返せなかった。
「開けますよ。変死体はこれです」
ケイトが見せた変死体は、何だかどれもミイラのようだった。だが、骨も残らず朽ちている部分もあれば、身が剝きだしている部分もあり、何だかまるで……
「俺の反対の力みたいだね」
凱が云った。
RMSで瓦礫に埋まった自分の体と、ケイトの足を再生させた時のことを思い出した。
逆再生させると、あたしもケイトもこの変死体のようになるのではないかと想像した。
「この事件と同時期に、バイクで暴走する少年の姿が相次いで確認されています。しかもこの少年は闇金融業者の組長をバイクで轢いた少年のようなんですよね。だから繋がりがあるのではないかと言われているようです。これがその少年です」
ケイトが映した少年を見て、言葉を失った。
――あいつは七年前に死んだはず――
あの日、棺桶の中にいるあいつの顔を見て、手を合わせて、そのまま泣き崩れた。
受け入れられない日々を、長々と藻掻き苦しみ生きてきたのだった。皆と出会うまで。
「美生さん? どうしました」
「知ってる」
「え?」
「あたしの彼氏。でも、七年前に病気で死んだはずなの。なんで、優士が……」
「このヤンキーお前の彼氏なのか! あ、ごめん」
勇魚の云ったことは間違っていないが、ケイトに鋭い睨みを向けられた勇魚は口を閉じた。
「……もしかすると、ご遺体が何処かに渡っていたのかもしれません。延命や再生の研究をする組織はいくらでも遺体を欲しがります。そこで何か実験が行われていたのでは」
「そんなことする組織って、大鳳教だろ」
「全て憶測ですが、そうなります」
「もしそうだったとして! なんで優士がそんなに人を殺すの?」
そんなこと聞かれても誰もわからない。わからないことばかりだ。
「でもよ、お前のその彼氏、大鳳教も闇金融も、悪い奴ばっかを狙って殺してる感じがしないか? 何か理由があるんだろ」
勇魚の云う通りだ。優士は無作為に人を殺したりする奴ではない。あの変死体は優士の力なんかじゃない。拾った猫を、大きな手で大事そうに洗って、ミルクをあげて……。
優士の肩に乗る猫。誰よりも優しいあいつのすることには、きっと意味がある。
「不思議なことばかりですが、こうして美生さんが生きていることを考えると、優士さんが生きているのも、ありえることなのかもしれませんね……」
「……あたし、優士に会ってみたいんだけど」
口に出してから、沈黙であたしは我に返った。
何を、自分勝手なことを云っているのだろう。一体どの口が。皆で凱を守るために沖縄に向かっているのに。
でも、会って本当に優士なのか確かめたいのは本心だ。
あたしのことが、わからないとしても。
「……優士さんが私たちの味方であれば、大阪に戻るのはありかもしれません」
少し考えた様子で、ケイトが答えた。
「でも大鳳教で優士は生き返ったんだとしたら、大鳳教の支配下なんじゃ……」
「では何故信者を三十七名も殺害して、彼は逃亡しているのでしょう。理由が私たちと同じなら、しっくりきませんか?」
「闇金業者を殺したのは?」
「細かいことはいいです。そこは本人に聞かないとわかりません。兎も角、優士さんと合流できる術を探しましょう」
驚くほどケイトはあたしの意見に賛成だった。半ば強引な気もした。
「凱と勇魚はどう?」
あたしは恐る恐る訊ねた。
「俺も賛成。何かあったら、今度は俺が美生のこと守ってあげるよ」
いつの間にか心身共に成長した凱の言葉に、あたしは唖然とした。守ってあげるよなんて言葉は、生まれて初めて貰った。
「皆が賛成なら俺も賛成だ。ずっと逃げるのもなぁ」
ケイトは勇魚の言葉に薄っすらと笑みを浮かべた。すっかり、勇魚を尻に敷いているように見えた。
「箱の中が空ですので、武器を補充したら向かいましょう」
ケイトは大人しくしている黒い箱を、コンと叩いた。
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