‐ 第63話 ‐ 死にぞこないへ贈る言葉
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
教祖に言われた通り、タオの様子を見に母さんの研究所に向かった。
「母さんもその、優士の力を、目にしたんですか?」
「えぇ、目の前でね。殺されそうになったんだもの……」
会議の時から母さんは具合が悪そうだった。余程優士の力は母さんにとって凄まじいものだったのだろう。
「気分が悪いわ。彼には一人で会ってちょうだい。私は休ませてもらうわ」
母さんには申し訳ないが、好都合だった。一人でタオの顔を拝みたかった。
仕切りのカーテンを開ける。いつもは被検体が並ぶそこに彼がいると思うと、滑稽に思えた。
「……聞こえますか? ドクタータオ」
包帯から覗くタオの体は、干からびたミイラのようになっていた。足元の布を捲ると、両足がなくなっていた。先に両足に触れて逃げられないようにし、そこからこの状態に仕上げたというのなら、尋常でない怒りが込められている。
無理もない。記憶転移したと云っていた。被検体だったのならやり返そうとするのが当然だ。僕だってそうする。――研究者が被検体に報復を受けるとは、なんとも……
「無様なものだな」
思っただけのつもりが、しっかりと口に出ていた。仮に聞こえていてもどうでもいい。この男の人生が終わったことは、見ればわかるのだから。
「なん……だ、と……」
驚いた。どうやらしっかりと聞こえていたらしい。言い返せる力があるとは驚きだ。
この男にも十分、皆が称賛する生命力とやらがあるではないか。
「無様だと言ったんです。お互い上司に恵まれない報われないなどと、僕を同類のように語るあなたが嫌いでした。そして直ぐに僕より優位に立っていると錯覚する。全然違いますよ。最初から違うんです。まず母さんとあなたの上司を同類と考えてほしくない。あなたは昔僕に言いましたね。ドクターアンソニーのような医師に認められてこそ本物の研究者と呼べると。あんなのはただの狂人です。医師でも研究者でもない。それを必死になって追いかけるあなたもまた狂人だ。だからそんな姿になる」
「あなたの……母親も……ぐるっで、いる……!」
「ですから、一緒にしないでください。母さんは僕に愛情を持って育ててくれましたし、国民のためには技術の幅を広げ社会に貢献している」
タオは苦しそうに涙を浮かべ、僕を睨み付けた。変わり果てた姿は醜い。こんな人間なってしまったのかと、少し残念にすら思う。
「もう追いかける人もこの世にいませんし、研究もできない体でしょう。殺してあげましょうか?」
「……まだ、研究が……うぢだ……美生の……!」
こんな姿になっても研究を諦められないとは哀れなのか、それとも研究者の鏡なのか。
なんにせよ僕にとっては前者で、哀れすぎて殺すことすらできなかった。
ずっと云いたかったことを云えてすっきりした。
腐臭のする部屋を出て、教祖の望むよう僕は捜索に戻った。




