‐ 第51話 ‐ まだ死ねない
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
まだ死んでいなかった。知らない女の声が聞こえるからだ。何かぶつぶつ云っているのが聞こえる。
三枝木に殴られ過ぎた時のように、また頭が真っ白だ。体は指一本動かすこともできず、耳だけが聞こえる。死んだ人間は暫く耳が聞こえていると聞いたことがある。死んでいないのではなく、正確にはそっちかもしれない。
真っ白だった頭が、ジッパーを下げるような音がして、さらに白くなった。
「可哀想に。生きていたら凱の被検体にしたかった」
凱? 被検体だと……? 一体誰だ……。
頭が真っ白なのではなく、俺の視界が白いだけなのだとわかった。ミラは何処だ。ミラはどうなった?
「取り敢えずそっち子は今すぐ保管ね。直ぐに使うには勿体ないわ」
女の声は誰かにそう指示した。そっちの子とは何だ。誰のことだ! そう叫びたいが声が出ない。
白い視界は徐々にそれ以外の色を取り戻し始めた。
鉛のように重い瞼を片目だけ開くことができた。
眼球を素早く回す。
ミラは俺の隣にいた。寝ていた。
「ドクター奈須川! 死体が生きています!」
慌てふためく声と共に、床に何かを落とす音がした。
「……嘘でしょう……なんて生命力なの……! 心臓は止まっていたはず」
「かなり微弱ですが、確かに動いています! 直ぐに蘇生の準備を」
「ちょっと待ってくれる?」
やはり俺は生きている。白い服。医者なんだろう? ミラだって、まだ寝ているだけかもしれない。俺なんかよりミラを助けろ。
「私はこの生命力に賭けてみたい。凱の歯を持ってきてちょうだい」
「いいのですか?」
「まだ数はある。同じような被検体に使うより、私はこの少年に使ってみたい。本当に死ぬ前に早く用意してちょうだい」
凱……? 歯? さっきから意味がわからない。俺に何をするつもりだ。
ミラ、本当に死んでしまったのか? だったらもう、俺もそっちへ逝きたい。俺に構うな。
どうしてミラが死んで、お前達のような奴が生きているんだ。ふざけるなよ。お前達が死んでくれよ……!
――もう、何もかも嫌だ――
「ドクター奈須川、準備が出来ました。おや……? この少年、泣いていますね」
部下の言葉に奈須川は煩わしく目を向ける。
「そんなの、ただの反射でしょ」




