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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第3章 ◆ 愛と破滅
33/87

‐ 第33話 ‐ ケイト

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 一番に飛び起きたのはケイトだった。直ぐに戦闘の準備をした。


 誤射ではないことがケイトには直感でわかった。今日に限ってデックスに酒を許したが、凱と勇魚の部屋から目の届く範囲で飲ませているし、彼はそうそう酔うことはない。二人のことは任せて大丈夫だと判断した。


 問題は王だ。王に付添っている世良は一般人に比べればある程度戦えるよう訓練されているが、ケイトには心許なかった。ケイトは凱と美生の保護が最優先だとわかってはいたが、本能ではそれを受け入れ切れていなかった。

 

 美生を連れて直ぐに部屋を出た。

 すると同時に建物全体が揺れ始めた。コンクリートの崩れる音が聞こえ、外から攻撃を受けていることがわかる。


 これほどの衝撃を受けるということは、爆破物で無遠慮に攻撃されている。上の仲間はもう……。


 兎も角脱出しなくてはならない。ここは地下だから生き埋めになってしまう。奴等が人攫いにこんな粗雑な戦法を取るのは、凱と美生が元通りに再生するからだ。


 奴等は何処までも卑劣で、教祖以外は安い命と考えている。人権を容易く黙殺する者たちなのだ。

 急いで脱出口に向かい走ろうとすると、美生がそれを止めた。


「ねぇ、王さんを助けに行こう」


 傭兵、それも大尉であるケイトはあろうことか、美生のその一言に救われてしまった。


 ――止まるな。動きながら考えろ――


 父に何度も云われた言葉が脳に響く。


 美生を守らなければならない。王を守りたい。

 崩壊の音の中を美生と駆け抜けながら考える。向かう先が既に答えを示していることに、彼女は気づいていない。




 王の眠る一番奥の部屋に向かい、ケイトと美生は全力で走った。


 しかし、二人は程なくして足を止めた。

 デックスが血を流し、死んでいた。


 あの銃声はデックスが撃たれた時のものだったのだ。頭を貫通している。凱が選んだデックスのキーホルダーが、零れたウォッカの上に転がっている。


 言葉を失くす美生の手を無理に引き、王の部屋に急いだ。動きながら考えろ。

 デックスほどの者がたった一発の銃で殺されるなど、信じ難い。彼が殺された今、凱と勇魚はどうしている……。


 外から攻撃を受ける衝撃音は次第に大きくなり、王の部屋の手前でとうとう天井が崩れた。舞う砂埃に構うことなく体を突っ込み、ケイトは必死に瓦礫を取り除く。動きながら考えろ。デックスの死は不自然だ。彼はあっさり死ぬ男ではない。不意を突かれている。奴等がデックスの不意など突けたものか。


 やっとの思いで、向こう側が見えるほどの隙間ができた。自分の手が傷だらけになっていることなど、ケイトは知らない。


「ケイトさん! (ワン)先生のことは僕に任せて、凱君と美生さんを連れて逃げてください!」


 瓦礫の向こう側からそう叫んだのは世良だった。


 世良のその言葉でケイトは傭兵である我に返り、今自分が一番成すべきことを思い出した。

 ――愚か者。冷静さを欠いている――


 ケイトは瓦礫の向こう側にいる王を世良に任せ、来た道を再び美生と共に走った。最初からこうするべきだったが、ケイトは自分が思う以上に王に対する思いが強かった。守りたい対象ほど、肝心な時に自身を狂わせるのだろうか。




 デックスの死体を再び通り過ぎたとき、ケイトはある異変に気づいた。


 あの銃声が鳴ってから、外からの攻撃を受けていた。しかし自分たちのいる地下に未だ敵は見当たらず、既にデックスは死んでいた。つまり、敵から攻撃を受ける前に、デックスは何者かに殺されたことになる。自殺など甚だありえない。


 ケイトは背筋が凍った。王と世良を残して戻る時、瓦礫の隙間から世良の顔が見えた。

 ――世良は、笑っていなかっただろうか。


「……イト! ケイト!」


 美生の呼び掛けで我に返る。


「ケイト! あたしは凱と勇魚を探すから、王さんのところに行って! 早く!」


 ケイトは立ち止って考える。

 あの笑みは何の笑みだ。我々を安心させるために見せた苦し紛れの笑みではないのか? そうだとしても、あの妙な落ち着きは何なのだろう。自分は奇襲に慣れている身でありながら、こんなにも動揺しているというのに。


 世良のあの笑みが特別な意味を持つとしたら、王が危ない。

 美生はデックスを殺したのが身内だと気づいていない。立ち止るケイトを見て、ケイトのことを思い、王の元へ戻るよう声を掛けただけだ。


 ケイトと美生はそれぞれ走り出した。互いを信じることにした。


 ケイトはもう一度、瓦礫を一心不乱に取り除き始める。怒り任せで指先から出血していることなど、彼女にはわかるはずもなかった。

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