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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第2章 ◆ RMS
27/87

‐ 第27話 ‐ 憎まれている

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 自分の目標が明確になると、世界が違って見えた。

 直ぐに行動に移すのは、私の良いところかもしれない。


「最近生き生きしてんね。進路決まったの?」


「うん。私ね、大学で資格取って孤児院で働くわ。今その孤児院でバイトしてるの」


「え⁉ 一体何があったの?」


 夢露の驚きの声に、ジオも私の席へ駆けつけた。


「こないだちょっとした出会いがあってね。その孤児院、いろんな国の子どもを受け入れてるんだけど、まだ日本語を話せる子って少なくて。そこで働く先生たちも、いろんな国の言葉話せるわけじゃないからコミュニケーションが難しんだって。で、あたしみたいな話せる奴がいると助かるって云うからさ。……あたし、大勢の命を助けたいとかそんな心持ってないからさ、自分の周りだけでいいの。その孤児院の子たちの力になれたらそれで十分なの。それにね、バイトに行ってみて思ったんだけど、あたし意外とできないことが多くて……。初めてのバイトっていうのもあると思うよ? 料理もだし、子どもの接し方とか。あたしこういうこと勉強しなくちゃいけないんだと思って……って聞いてる?」


 二人は大袈裟にも目や口に手を当てて、感嘆しているようだった。


「いいなそれ」


「うん。すごくいい。でも」


 夢露は「でも」と付け加えた。何を思っているかは想像できた。


「ママには云ったよ。絶対許してくれないね~。医学部に行かないならお金は一切出さないってさ。あんなにお小遣いくれてた人がさ、娘のこんな大事なことには一円も出してくれないんだって(笑)。だから受験費用とか自分で貯めなきゃなんだけど、孤児院のバイトってボランティアに近いからなかなか貯まらないんだよね。だからバイト増やそうと考えてるところ」


「受験料の支払いって、もうそろそろじゃないの?」


「うん。明後日」


「やばいじゃん。用意できたの?」


「いや全然」


「やばすぎるじゃん!」


「……そうだよ。だから今日、もう一回ママにお願いしようと思ってるけど、最近やたらと忙しそうだし、そもそも医学部以外論外に思ってる人だし……絶望的」


 それでも、それ以外に方法がなかった。土下座でもなんでもするしかない。こんな時、父親の存在があったらいいのにと思う。


「なぁ、金貸そうか? 麗奈のとこで安く整形もさせてもらってるしさ」


 ジオはそう云ったが、私はそれだけは絶対にしないと決めていた。それをして三人の関係が壊れることを恐れていた。二人がいないと私はダメになると思った。


「じゃあさ、ママさん以外の身内の人で頼れる人いないの? なんか歳離れたお兄さんいるとか、いないとか、云ってなかったっけ?」


「……あぁ~……いた」


 夢露が云うまで兄に頼るという発想がなかった。同じママから産まれた血の繋がる兄妹だが、他人としか思ったことがなかった。


「いくつ離れてんの?」


「確か、十二くらい?」


「そんだけ歳離れてたらお金持ってるでしょ! 連絡しなよ!」


 二人はそれしかないと意気込み、今すぐ兄に電話するよう促した。連絡先は一応知っていた。


「でもさ、仲良くないし、それどころか嫌われてる気がするんだよね」


「十二も歳離れた妹を可愛く思わないわけないだろ! ちゃんと説明すればわかる話だし、いつかちゃんと返すって云えばいい。まぁでも直接会って話した方がいいな、こういう話は。迷ってる場合じゃないと思うぜ?」


 ジオの言う通り、迷っている場合ではない気もする。そこまで期限は迫っているし、これ以上ママを説得しても認めてもらえない自信がある。私はやっと見つけた自分の夢を大事にしたい。


 教室を出て、兄に電話を掛けた。ジオはあぁ云っていたが、兄は私のことを可愛いなどとは絶対に思っていない。同じ場にいるだけで敵意のようなものを確かに感じる。電話にだって、出てくれないかもしれない。

 おかしな緊張で、お腹が痛くなりそうだった。




 教室に戻り、あたしは二人にⅤサインをした。

 すると二人は自分のことのように大盛り上がりだった。もうすぐ授業だというのに、ホログラムでミニ花火まで上げだした。


「今日の二十時に大阪駅の時計塔で会うことになった」


「よっしゃ! 俺が車出してやるからさ、皆で行こーぜ!」


「いいの? ていうかジオ免許取ってたの!」


「やるじゃん! 皆で行こう! そしたら麗奈も怖くないでしょ?」


 私は良い友達を持ったと、心から思った。




 ジオのオープンカーに乗り、兄が待つ時計塔に向かった。友達の運転する車というだけで盛り上がり、向かう途中もずっと馬鹿みたいに騒いでいた。


「麗奈のお兄ちゃんどんな人かな? かっこい? ね、かっこい?」


 夢露はお酒でも飲んだかのようにテンションが高かった。

 本当は、今日もそれぞれの予定があったのだ。それでも私のためにさぼってくれた。自分のやりたいことが見つかり、それを目指すための大学に入るのは良いが、二人と離れ離れになると思うと寂しくも思った。


 時計塔が見え、兄が立っているのが見えた。ジオに近くで降ろしてもらい、私は兄の元へ走った。二人には離れたところで待ってもらった。


「すみません急に」


「いいよ。でもこの後急用ができてしまったから、手短にお願いできるかな」


 やはり兄の言葉には棘があった。そして冷たい目をしている。


 私はさっきまで二人がいてくれたおかげもあってか、臆することなく事情を説明することができた。兄はその間相打ちを打つことはかった。ただその場に立って、遠くを見つめていた。私の話が耳に入っているのか心配になるほどだった。


「……わかった。君の口座に一千万円振り込むよ。それから、返さなくていいから」


 兄は腕時計から一千万円を振り込む準備をした。

 どういうことかわからなかった。大学の費用はそんなにかからない。私のことを好いていないのに、何故そんなことをしてくれるのか。有難い話に不信感しか持てなかった。


「え、どうしてそんなに? 返さなくっていいって……」


 兄はホログラムを切って、私の方に向き直った。会って初めて、しっかりと顔を見合わせた。


「大学っていうのはさ、君が思っているより金がかかるんだ。一人暮らしにもなるだろうしね。大学に行きながら君が生活に困らない暮らしをしようと思ったら、それくらいは必要だよ。ただし、返さなくていいとは言ったけど、条件がある」


「……何?」


「医学部じゃない大学に行くのなら、奈須川を抜けてもらわないと困る。母の手を借りずに自分のやりたいことをやるっていうのは、そのくらいの覚悟があって当然だ。どうする? もう二度と奈須川を頼ることはできないけど、それでも君はその大学に行きたいのかな」


 兄は虫けらでも見るかのように、上から私を見下ろした。


 何故、この人にそんなことを云われなくてはならないのだろう。云っていることは間違っていないが、明らかに敵意が向けられている。私はこの人に憎まれるようなことをしただろうか……。しかしもう、頼れる身内はいない。元より、受験すれば母から勘当されることはわかっていたことだ。それを兄の口からはっきりと云われただけ。


 上等だ。


「行きたい。お願いします」


 兄は静かにもう一度腕時計を起動させ、送金ボタンを押した。

 沈黙の間に私の腕時計のダイヤルが光り、一千万円を受け取ったことを知らされた。




 車へ戻ると、先程までの騒がしさは何処へ行ってしまったのか、夢露とジオは静かに私を待っていた。


「どうだった? 大丈夫か?」


 ジオが訊ねる。


「うん。振り込んでくれたよ」


「良かった~」


 安心したようだった。これで二人と同じ。これで私は前へ進める。


「遠目からだったけど、お兄さんかっこよかったね! でもちょっぴり恐そう」


 夢露が云った。


「うん。恐いよ。あの人」


 夜風に包まれ都会の街を呆然と眺める。明るくて、たくさん人がいる。たくさんの人の頭上には、巨大なホログラム広告が見てと云わんばかりに輝いている。巨大なママが、眩しいくらいに微笑んでいる。


 もっと、少なくていい。中心じゃなくて、端でいい。

 上等だ。ママがいなくても、友と離れても、私はやってやると決めた。

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