‐ 第25話 ‐ タオ
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
正直行き詰っていた。部下に調べさせてはいるが、宇智田たちを手引きした連中が何者なのかわからない。母さんと約束した期限は近づくばかりで、苛立ちも募るばかりだった。
「もしかして、行き詰ってます? ドクターアンソニーも楽しみにされてるんですけどね」
許可もなく僕の隣に勝手に座ってきたのはアンソニーの助手であり、僕と同じ幹部補佐のドクタータオだった。
「あ、隣よかったですか?」
「……」
「あなたは嫌いな相手だと直ぐにそうやって無視するんですから」
タオは僕の性格を知った風に云い、そのまま話しを続けた。
「お互い大変な上司を持ちましたよね。あ、あなたの場合はお母様にあたるので失礼かもしれないですけど(笑)。同じ幹部補佐という立場ですし、困っているのなら、僕でよければ協力しますよ」
瞞着されてたまるものか。この男は僕を出し抜いて幹部に昇進したいだけなのだ。
事あるごとに誘惑してくるこいつを、僕は厭らしい奴だと思った。糸のような細い目で肌は浅黒く、何処の人種なのか僕は知らない。興味もない。
折角テラスに出て外の空気を吸い苛立ちを抑えていたのに。
外で不味い空気を吸うのは無駄だと思い、席を立った。
「慧さん!」
一人の部下が荒い息を立て、僕に向かって走ってきた。
部下は宇智田たちを手引きした連中に繋がるかもしれない信者がいると話す。その裏切り者の信者は、昨晩既に教祖直々に罰を与えられており、香雲館のとある場所に幽閉されていると云う。この部下は幽閉されている場所を知らない。それは幹部クラスと一部の信者にしか知らされていない場所だった。
「わかった。ほかにも情報がないか調べておいてくれ」
何も知らない部下は賢い犬のように返事をして去った。
「あそこですか。まだ死んではいないでしょうけど、聴取するなら急いだ方がいいですね」
部下の話を聞いていたタオは空を仰ぎ、裏切り者の信者を哀れむように云った。
「……どうしてです?」
僕はそういう場所があるとは知っていたが、実際にそこに足を運んだことはなかった。
「気が触れてしまうからですよ。喋るどころじゃなくなる。急ぐのなら一旦そこから出してやって、拷問するなりして喋らせたほうがいい」
タオは他愛のないことのようにすらすらと喋った。人の命を何とも思わないアンソニーの部下なだけはある。僕は軽蔑するように口を噤んだ。
「あぁ、そういうの、慣れてないですもんね。僕がやって吐かせましょうか? 勿論手伝ってはいただきたいですけど」
黙っている僕を勝手に慣れていないと決めつけ、タオはまた僕を唆した。だが案の定、慣れていないことは確かだった。銃で人を撃つことはあっても、僕は研究と云った惨いことをやったことがない。何処かで気も引けた。なら専門家に任せた方が事が早く進むかもしれない。僕を出し抜こうと何か企んでいるのだろうが、そんなことはさせない。使えるだけ使ってやる。
「なら、お願いしたいです。僕はどうすれば?」
「まずはその高そうなスーツを着替えることですね。それから鼻栓もした方がいい」
僕は自然と怪訝な顔を向けたのかもしれない。
「嘘じゃないですよ? これから行くところはドクター奈須川やあなたのような高貴な人にはきついでしょうから。それから……」
「……何です」
「僕に対する態度も、もう少し改めていただきたいですね」
細く厭らしい目が、いつもより開いていた。




