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騎士団長殺しと呼ばれた男にしごかれています  作者: 片山絢森
第4章-3

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54/63

54.決着


    ***

    ***



 ――いいかい、これは封印だ。


 どこかで遠い声がする。


 ――この封印をすれば、魔法が一切使えなくなる。それでも本当に封じる気か?


 聞いてくれたのは、黒髪に赤目の青年だった。色気のある顔立ちで、艶やかな声の持ち主だ。


 うん、とステラは頷いた。


 ――魔法だけじゃなく、魔力もです。まして、あなたは光魔法の使い手でしょう。本当に後悔しませんか?


 そう言ったのは水色の髪の人だった。黒髪の人物とは対照的に、清廉な雰囲気をまとっている。


 案じるような声を受け、ステラはふたたび頷いた。


 後悔なんてしない。神殿に閉じ込められるより、自分の力で立っていたい。


 ――いざとなったら、第三騎士団に来ればいいよ。そしたら守ってあげられる。今からでもそうしたら?


 今度口を開いたのは茶色の髪の人物だった。人なつっこく、明るい性格の青年だ。


 いいの、とステラは首を振る。


 その提案は魅力的だけれど、彼らに迷惑がかかってしまう。それに、表立って魔法が使えない以上、第三騎士団に入るわけにはいかない。ステラ自身も、その気はない。


 ステラの意思が変わらない事を悟ったのか、彼らはそれ以上言わなかった。



 ――いいよ、ステラ。君がそう望むなら。



 小さな左手に、次々と手が重ねられる。

 そこから強い魔力が流れ込み――ステラは、気を失った。



    ***

    ***



 ほんのわずか、意識が遠のいていたらしい。

 はっと気づくと、ステラは軽く首を振った。


「ローズウッド、大丈夫か?」

「平気です。すみません」


 どうやら魔力を使い過ぎてしまったらしい。頭がぐらぐらして、気を抜くと倒れそうになる。


(危なかった……)


 この感覚は久々だ。魔力のコントロールができなかったころ、よく彼らに「この状態になったらやめろ」と言われていた。今の感覚はあの時のものだ。

 だとすれば、もう長くは保たないだろう。


(でも、このままじゃ……)


 魔獣は次から次へと現れる。

 魔素が高まっている事により、周辺の森からも魔獣が集まってきているようだ。【妖精の鳥籠】が発動する前に集まった魔獣は、そのまま結界の中に閉じ込められる。

 空に輝く光を見上げ、ステラは唇を噛みしめた。


 ――せめてあれを壊せれば。


 魔素が薄まり、結界がなくなれば、全員で生還できる可能性が高まる。

 けれど、そうするには莫大な魔力が必要だ。少なくとも、魔力持ちが十名以上。いや、もっと必要かもしれない。


(だけど……)


 ステラの持つ光属性は、魔素に対抗できる唯一のものだ。これなら、もしかしたら。


「団長」

 呼ぶ声に、オレッセオが振り返った。


「あの結界を壊します。時間を稼いでいただけますか」

「できるのか?」

「やってみます。それに――いつまでもこうしているわけにはいきません」


 ステラの視線の先で、激しい炎がはじけ飛ぶ。

 カイルと竜との戦いは、さらに激しさを増していた。


 だが、【妖精の鳥籠】が発動した以上、圧倒的に有利なのは竜の方だ。魔素を補充できる上、力もいつも以上にみなぎっている。対する人間にとって、魔素は毒だ。長く戦い続ける事はできない。今は互角でも、長引けば長引くほど不利になる。


 そんな事になれば、どのみち全滅だ。

 そうなる前にと、ステラは瞳に力を込めた。


「成功する確率は?」

「分かりません。低いかも。ううん、かなり低いと思います。でも」


 やってみる価値はある。

 その言葉に、オレッセオは頷いた。


「協力しよう。――聞こえたな、全員! 全力でこの場を守り抜け!」

「了解!!」


 彼らの声は張りつめていたが、そこに焦りの色はない。


「頼むな、ローズウッド」

「無理すんなよ。でもちょっとだけ頑張って。ちょっとだけな」

「終わったら昼飯おごる!」

「いや食事支給だろ」


 あっそうかと言いながら、へへっと照れ笑いする声が混じる。それと同時にかすかな笑い声が起こり、「ローズウッド」と名前を呼ばれた。


「やるだけやってくれ、後は任せろ」

「失敗しても元々だろ。気楽にやれよな」

「無事に戻ったら、俺好きな子に告白するんだ」

「お前それ死亡フラグ……」


 ふたたび照れ笑いする声がして、どっと彼らの輪が沸く。ちなみに、好きな子に告白すると告げた彼は、食事をおごると言った人間と同一人物だ。

 それを聞いたら、ふっと体の力が抜けた。


「緊張感がないにもほどがあるだろう、あいつら……」

 いつの間にか隣に来ていたラグラスが、呆れた顔で嘆息する。


「うん、でも、緊張が解けた」

「解けすぎだ。まあ、でも、いいだろう」

 ちらりと横目でステラを見て、かすかに目元を和らげる。


「全員で帰ろう。騎士寮へ」

「うん」


 頷くと、ステラは両手を組み合わせた。

 幼いころからずっと行ってきた魔法の手順。魔力を失ってからも、鍛錬を(おこた)るなと言われていた。その意味が今なら分かる。


 たとえ封じられていても、魔力は自分の中にあった。途絶える事なく続けられていた一連の流れが、馴染みのある感覚を伴ってよみがえる。金色の粒がひとつひとつ、ゆるやかに全身に行き渡る。


 ふわり、とかすかな風が吹いた。

 胸の辺りに光がともる感覚があった。


 体の隅々まで広がった魔力は、やがて左手に施された封印に行きつく。今まで自分を守ってくれた、大切な守護と親愛の証。


 ――でも、もう大丈夫。


 パキン、と澄んだ音がした。

 見えない力が封印を壊し、力を解放しようとしている。


 パキン、パキ、パキ、パキン。


 左手に複雑な術式が浮かび上がり――そして、光とともに砕け散った。


「――いきます」


 強い風が巻き起こる。

 光をまとった金色の粒が、魔力のうねりとなって表れる。

 粒はやがて帯となり、帯は膨大な波となって、ステラの全身を覆っていく。



 ――あの結界に、風穴を。



 途端、すさまじい魔力が炸裂した。

 放たれた力は奔流となって、空の一点を駆け上がる。目指すのはその中心だ。

 白く禍々(まがまが)しい真昼の星に、清廉な光が突き刺さる。

 次の瞬間、星は粉々に砕け散った。


「副団長! 今です!」


 その声が聞こえたのか、それとも。

 ステラの声に、カイルがふと首をめぐらせたように見えた。

 気のせいか、先ほどよりも動きが軽い。


 遠くでふっと笑う気配を感じた。

 そうだなと告げた声は、空耳なのか、現実か。


 ――次の瞬間、竜の首に深々と剣が突き刺さった。

お読みいただきありがとうございます。大型竜編、決着です。

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