5.彼らとの関係
(あれはびっくりしたなぁ……)
彼らとの出会いを思い出し、ステラはひっそりと苦笑する。
まさかいきなり突き飛ばされるとは思わなかった。
あれがきっかけで、その後の扱いが決定したと言ってもいい。
もっとも、あのやり取りがなかったとしても、いずれ似たような目に遭っただろう。何しろ彼らは偏見に凝り固まっており、落ちこぼれの自分は軽蔑の対象だったからだ。
ステラは別に、留年したわけではない。
もちろん落第したわけでもない。
ではなぜ卒業できなかったのかと言えば――。
ただ一点、足りない部分があっただけだ。
彼らも知っているはずなのに、覚えていないのか、それとも故意に忘れているのか。
結局ステラはへらっと笑い、「そうかもね」とやり過ごしたのだった。
最悪な入寮日に始まって、その後の扱いも似たようなものだった。
最初、ステラは楽観視していた。
今はこんな態度だけれど、きっと仲良くなれる。いつか分かってもらえるはずだと。
だが、彼らの態度は季節が過ぎても変わらなかった。
日常生活では嫌がらせを受け、訓練や自主練習も妨害される。口を開けば侮蔑や性的なからかいが続いた。今の生活に慣れ始めてからも、彼らの邪魔は続いていた。
ステラが平民で、後ろ盾がないと思われているのも原因のひとつだった。
実際は違うのだが、表立って反論できない。日頃のストレスをぶつけるように、彼らはステラを捌け口にした。
そんな態度は収まるどころか、ここ最近、ますますひどくなっていた。
細かな雑用を丸投げされ、できないと言えば罵倒される。防具の砂など可愛いものだ。嫌がらせは多岐にわたり、ほどなくして暴力がそこに加わった。たった三か月で、ステラの体は傷だらけになってしまった。
服に隠れる場所が大半だが、たまに際どい場所を殴打され、親切ごかして服をめくられそうになる事もあった。もちろんすぐに逃げ出したが、彼らはげらげらと笑っていた。
おかげで今は薬草と包帯が手放せず、手当てもすっかり慣れたものだ。
見習いを卒業できるまで、あと二年弱。
だが、彼らの態度は変わらない。
むしろ正式な騎士に近づくにつれ、余計に増長しているようだった。
第四騎士団は他の四つに比べ、際立った特徴がある。
――選民思想と男尊女卑。
血筋で言えば第一騎士団に及ばず、実力では第二騎士団に劣る。特殊技能は第三騎士団の末席にも届かず、模擬戦では第五騎士団に負けた。どう考えても自慢できない。
だが、彼らの多くは下位貴族だ。平民中心の第五騎士団に比べ、自らの家柄を鼻にかける言動が目立っている。そしてそれは日常生活にも表れていた。
団長のオレッセオはそんな空気を察し、事あるごとに諫めていたが、まったく効果がないようだ。そして彼らは唯一の女性であるステラを馬鹿にし、徹底的に見下している。
このままでは取り返しのつかない事になりそうで、とても不安だ。
できればうまくやっていきたいが、やっぱり難しいだろうか。
パンにかぶりつきながら、ステラはうーんと首をかしげた。
ひとりの食事はすっかり慣れた。むしろ、気楽な気さえする。
でも、できればみんなとお喋りしながら、わいわい食事を楽しみたい。
そう思うのは、贅沢すぎる願いだろうか。
他のみんなは大部屋に集まってお喋りするか、ゲームに興じているだろう。だが、ステラはその輪に入れない。
最初は仲間になりたくて、大部屋にもよく行っていた。けれど、すぐに邪魔だと追い出された。
たまに仲間に入れようとしてくる事もあったが、そんな時は身の危険を感じて断った。実際、ぞっとするような計画が立てられていたと後で知った。見かねた同期が忠告してくれなければ、ひどい目に遭っていたかもしれない。
さすがにしょんぼりしたものの、いつまでも落ち込んではいられない。
昔の仲間の顔を思い出し、ステラはよし、と気合いを入れた。
(こんな顔してたら、みんなに笑われちゃう)
――いつか、彼らとまた会う日まで。
情けない姿は見せられないと、ステラは小さく拳を握った。