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騎士団長殺しと呼ばれた男にしごかれています  作者: 片山絢森
第4章-3

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49/63

49.主役の到着


「嘘だろう!? 三度目!?」

「冗談じゃないぞ!」

「夢だって言ってくれ……!」


 彼らの顔が絶望に染まる。今でさえぎりぎりなのに、この上魔獣が増えたら対処できない。おまけに、遠くに目を凝らしたひとりが叫んだ。


「あれは……小型じゃない、中型の群れだ!」

「なんだって!?」

 ざわっと全員の間に動揺が走る。


「そんな、中型だなんて……」

「逃げなきゃ、今すぐに」

「どこへだよ?」


 彼らがぐるりと視線をめぐらせる。

 少し先は森の出口だが、完全に魔獣に囲まれている今、ここを抜けるのは難しい。無理に突破しようとすれば、一斉に襲いかかられる危険がある。


 隙を突こうにも、魔獣の数が多すぎる。

 いくらオレッセオや第二騎士団が強くても、一度に数体の討伐を行うのは難しい。その前に見習いが被害に遭い、それを助けるのに手間取られている。


 足手まといな彼らの身を守りつつ、大量の魔獣をさばいているのだ。その体力、気力ともに尊敬に値する。それでも、中型の魔獣の群れを防ぎ切れるとは思わなかった。


「じ……冗談じゃねえぞ」

 その時、近くにいたガロルドが呟いた。


「こんなところにいたら全滅だ。さっさと逃げないと」

「そっ、そうだ、ガロルドの言う通りだ」

 仲間が慌てたように同意する。


「他のやつらのことなんか知るか!」

「団長もあいつらもウザいんだよ。俺たちが逃げてる間、せいぜい囮になればいい」

「勝手に襲われてろっての。俺たちはごめんだ!」


 口々に言いながら、じりっと背後に後ずさる。信じられない行動に、ステラは大きく目を見張った。


 彼らがいなければ、防御が手薄になってしまう。案の定、その行動を見咎められたらしく、仲間のひとりが声を上げる。


「おい、お前ら? 何してる――」

「うっせえ!」


 駆け寄ろうとした相手を怒鳴りつけ、ガロルド達は逃げ出した。行き先は魔獣の群れの逆方向だ。少なくとも、ここにいるよりは安全だと踏んだのだろう。彼らの足取りには迷いがなく、こちらを振り返りもしなかった。

 あまりの出来事に、ステラはあんぐりと口を開けてしまった。


(ひどい……)

 他の人間も同様なのか、信じられないといった顔をしている。


「最初から期待していなかったが、予想を裏切らないやつらだな」


 ラグラスが呆れた声で言う。ステラもまったく同感だったが、それでもこの状況で、四人も抜けたのは痛かった。


「もっと集まれ! 背中を見せるな、狙われるぞ!」

 第二騎士団の青年が声を張り上げる。


「俺と団長が最前線で食い止める。怪我人を後ろに、仲間をかばえ! 動ける者は武器を取れ! ひるむな、魔獣から目をそらすな!」


 果敢に応戦しているものの、その声はわずかにかすれている。いつまでも体力が保たない事は明らかだった。


「うわあっ!」


 別の角度から魔獣に飛びかかられ、横にいた同期が尻もちをつく。反射的に飛び出すと、ステラは素早く剣を振るった。


「悪い、ローズウッド!」

「怪我はない?」


 だが、その時には魔獣の群れが間近に迫っていた。

 轟くような足音が襲いかかる。

 反射的に上げたステラの目に、大口を開けた魔獣の姿が映った。


「ローズウッド!」


 ラグラスが叫んだが、彼も魔獣と交戦している。

 間に合わない――。

 ぎゅっと目を閉じた瞬間、ふわりと馴染み深い匂いがした。



「――だから、目を閉じるなって言っただろ」



 聞き慣れた声とともに、何かが目の前を横切った。

 風を切る音に合わせ、魔獣の首が撥ね飛ばされる。


「でもまぁ、よく頑張ったな。上出来だ」


 乾いた草の香りと、焦げ臭いような炎の匂い。

 その、持ち主は。


「副……団、長……?」


 ステラに背を向ける形で立っていたのは、剣を手にしたカイルだった。

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