47.魔獣の襲撃
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森の入口付近で集団発生した魔獣は、一斉に見習い騎士へと襲いかかっていた。
「うわあああああっ!?」
「なんでこんな数の魔獣が!?」
「助けてくれ! 囲まれた!」
森の外で避難していたはずの彼らは、今や全員が森の中にいた。
それもそのはず、彼らが避難した先に別の魔獣が現れたのだ。
第二騎士団の人間が魔獣と戦っている間、安全確保のため森の中へと戻り、そこで集団発生に巻き込まれた。
「ラグラス、助けてくれ! 脚が……っ!」
「そのまま動くな!」
脚に噛みつかれて動けない同期の背後に回り込み、ラグラスは剣を突き出した。渾身の力を込めて、魔獣の首を刺し貫く。牙から解放された相手がよろけたが、うずくまる余裕があるはずもない。流れる血をそのままに、彼も剣を持ち直す。
「助かった、ありがとな」
「礼には早い」
みんな、と声を張り上げる。
「落ち着いて、ひと固まりになれ! 背中合わせになって、絶対に背後を取られるな! 人数が多ければ多いほど有利だ! 死角を作るな、攻撃の手をゆるめるな!」
「でも、数が多すぎる!」
どこからか悲鳴じみた声が上がる。
「すぐに援軍が到着するはずだ! それまで粘れ。いいか、俺たちは騎士見習いだ!」
そう言うラグラスも、先ほどからずっと走り詰めだ。前線で食い止めている第二騎士団の代わりに、即席の司令塔として動いている。
だが、指示だけで見習いが動けるはずもない。そのため、自ら率先して仲間のフォローに回っている。被害を最小限で食い止められているのもそのせいだ。だがその分、彼の負担は格段に重くなっている。顔には出さないものの、疲労は一番溜まっていた。
(くそ、このままだと……)
流れる汗をぬぐう間が惜しい。血の匂いが辺りに立ち込めている。
オレッセオとカイルはどこにいるのだろう。
彼らの事だから、今も魔獣と格闘しているはずだ。それとも、自分達を助けるための準備に走り回っているのか。あの二人は信用できる。特にあの副団長は、凡庸な存在感とは裏腹に、どこか底が読めないものがある。
彼らについては心配ない。
それよりも、別の心配事がある。
(あいつら)
ひときわうるさい声を上げる一角を見やり、ラグラスは眉をひそめる。
「ひいいいぃぃっ!?」
「うわやめろ、助けてくれ!」
「なんでこんなことになってるんだよぉっ!?」
そこにいたのはガロルドの班だった。
つい先ほど、半死半生の様子で駆け込んできた彼らは、中型のトカゲ魔獣に襲われたらしい。半泣きの彼らが助けを求めてきたのだが、その中にステラの姿はなかった。
真っ先に問い詰めようとした矢先、魔獣の群れに襲われたのだ。
(ローズウッドはどうなった。どこにいる?)
できるなら、今からでもガロルドの胸ぐらをつかんで問い詰めたい。場合によっては、一発殴っても構わない。あの底抜けにお人好しな同期の少女は、こんな場所で何らかの企みに巻き込まれていい人間ではないのだから。
本当なら、単身で捜しに行きたい。
だがそうすれば、ここにいる彼らは統率者を失い、混乱に陥ってしまうだろう。そうなれば全員の命に係わる。知らん顔で放り捨てていく事もできたが、どうしても踏ん切りがつかなかった。
この中の誰ひとりが欠けても、ステラはきっと悲しむはずだ。
だとすれば、ここを守るのは自分の役目だ。
(無事でいろ、ローズウッド)
――それでも戻らなければ、その時は。
「みんな!! 無事!?」
ステラの声が聞こえたのはその時だった。




