38.味方の到着
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「無事か、ローズウッド!」
飛んできた矢がトカゲに刺さり、魔獣が後ろに跳びすさった。
「団長!」
「待たせたな。もう大丈夫だ」
数名の騎士を従えたオレッセオが、ステラの背後から駆けつけた。
「後ろに回れ。怪我は?」
「かすり傷です。すみません、私、獣の血を」
素早く全身に目を走らせたオレッセオが、「無事ならいい」と頷く。
「ひとりで入口に戻る方が危ない。一緒にいろ、すぐに残りの援軍が到着する」
「分かりました」
「かかれ!」
オレッセオの指示に合わせ、数名が魔獣を囲んでいく。全員第二騎士団の人間だ。ステラのような見習いではなく、本物の騎士。彼らの登場に、その場の空気が一変する。
「よく中型がいると知らせてくれた」
剣を構えたまま、オレッセオが口の端で笑う。
「おかげで居場所が特定できた。お手柄だ」
「いえそんな」
「――やれ!」
号令とともに、彼らが一斉に斬りかかる。
ひとりは目を、二人は爪を、残る二人のうち、ひとりは尾を警戒し、もうひとりは腹を狙う。攻撃が分散されるせいで、トカゲも狙いをつけにくいようだ。体に浅い傷がつき、トカゲが怒りの咆哮を上げる。
「君はここにいるんだ。巻き込まれると危ない」
そう言うと、オレッセオも駆け出していく。彼は第四騎士団の団長だが、そういえば、その前は第二騎士団にいたはずだ。だとすれば、援軍というのは第二騎士団の事なのか。だとすれば心強い。
(だけど……)
「はっ!」
オレッセオの剣がトカゲの爪を斬り飛ばす。
硬い鱗をものともせず、危なげなく剣を重ねていく。あれほど硬かった鱗が剥がれ、少しずつ第二騎士団が押し始めている。
(やっぱり、団長はすごい)
ほっと息を吐いた瞬間、背後に別の気配を感じた。
何を考える間もなく横に跳ぶ。わずかに遅れ、ステラのいた地面がえぐれた。
「ローズウッド!」
トカゲと応戦中のオレッセオが叫んだが、この位置では間に合わない。
「私は大丈夫です! そちらを!」
――無理に起き上がらず、転がってよけろ。
耳元でカイルの声がよみがえる。
必ず次の攻撃に備える事。できないなら転んだままでいいからよける。何よりも、自分の身を守る事。
次々に教えられた言葉を思い出す。体に力が湧いてくる。
(転んでないなら……運がよかった!)
よけた勢いのまま剣を構え、ステラは辺りを見回した。尻尾や爪で襲われる気配はない。仲間がいる事で、先ほどよりも余裕がある。
(どこから攻撃されたの? どこにいる?)
その時だった。
頭上の枝がしなったかと思うと、木の上から何かが飛びかかってきた。
反射的に剣で斬り上げ、勢い余って尻もちをつく。びりびりと両手がしびれ、剣先が震えた。
そこにいたのは、今までで一番大きな個体だった。
オレッセオが戦っているトカゲ達の、およそ一・二倍。それなのに、脚は二倍くらい太い。鱗の色ももっと濃く、血のような色をしている。
「ローズウッド、逃げろ!」
オレッセオが予備の短剣を投げつける。それは皮膚に当たったが、かすり傷ひとつ負わせる事はできなかった。
目にも留まらない速さで、トカゲの尾が短剣を砕く。
次の一撃がステラの顔の横をかすめ、風圧で近くの葉が裂けた。
(よけられない)
駆け出そうとした足元に、トカゲの爪が突き刺さる。
はっと息が止まり、ステラの目が見開かれた。
剣を握りしめる手に力が入り――そして。
トカゲの頭が、地面に落ちた。
「……え?」
ヒュン、と軽い音を立て、血脂が鮮やかに流れ落ちる。
「――よう、お待たせ」
その声に、ステラは今度こそ目を見張った。
不敵な笑みを浮かべたカイルが、目の前に立っていた。




