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騎士団長殺しと呼ばれた男にしごかれています  作者: 片山絢森
第3章

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29.新たな火種


「え? ううん、まだ決めてない」


 彼らと仲良くなる前に班分けの話があったため、ステラと組んでくれる人はいなかった。


「なら俺と組まないか。五人一組が原則だから、あと三人必要だが」

「……いいの?」

 目を瞬くと、彼は事もなげに頷いた。


「お前の腕は確かだし、そうしてくれると俺も助かる。どうだ?」

「あっずるい、ラグラス。俺も誘おうと思ってたのに」

 すぐに別のひとりが乗ってくる。


「じゃあオレも一緒がいいな。それで四人? あとひとりじゃん」

「なあなあ、それなら俺も参加したい。ちょうど五人だし、それでいいだろ?」

 口々に言われ、ステラは目を輝かせた。


「嬉しい。よかったら一緒に――」

「待ってくれ!」


 その時だった。

 つかつかとやってきたガロルドが、ステラの前に立ちふさがった。


「ガロルド……何?」


 あの日以来、ステラの事を徹底的に避けていたはずなのに、どうした風の吹き回しか。

 不穏な様子に、しんと彼らが静まり返る。


 ガロルドの表情は硬いまま、きつく口を引き結んでいる。今にも舌打ちをしそうな表情だったが、彼の口から出たのは思いがけない一言だった。


「お……俺と、組んでくれ」

「え?」

「お前と組みたい。その……い、色々あったけど、ご――誤解を解きたくて、今までのこと」


 聞き間違いかと思ったが、ガロルドはこちらを見つめている。一瞬、不愉快そうに口元がゆがんだが、それを押さえつけるようにして、いびつに笑う。


「ちゃんと話したいんだ……お前と」

「ガロルド……」

「その証として、俺と組んでくれ。ローズウッド」


 正直、手放しで頷く気にはなれなかった。

 今でもガロルドの事は怖いし、そばに来られると身がすくむ。


 何度も裸にされかけた事、体を触られそうになった事、寮の部屋で襲われかけた事。どれもステラの記憶に刻まれている。そんな相手と組んでも、うまくいくとは思えない。


 だが。


「……そうなのか?」

「ローズウッドと、仲直り?」

「本当に?」

 そばにいる彼らの顔がぱあっと明るくなる。


 そうなのだ。


 彼らは平民出身だ。貴族であるガロルドには逆らえない。おまけに彼は第四騎士団でもリーダー的存在であり、他の団員にも顔が利く。

 ガロルドの意向に逆らっているという事実は、彼らにとって相当なストレスだったに違いない。手放しで歓迎するムードに、ステラは嫌だと言えなくなった。


「……大丈夫か、ローズウッド」

 ひそりとラグラスが囁く。


「不安なら断れ。俺が盾になる」

「ラグラス……」

「今までの償いにもならないが、それくらいはできる」


 遠慮するなと、ステラを気遣う発言をする。ステラは無理やり笑みを浮かべた。


「ううん、大丈夫。ありがとう」


 彼の家も男爵家だ。子爵家には逆らえないと、少し前に言っていた。だとすれば、こうしてステラをかばう事さえ負担になる。

 

 もちろん、彼がそれを口にする事はないだろう。ステラを仲間と認めた以上、彼は自らの言葉を守る。けれど――だからこそ、そんな真似をさせるわけにはいかなかった。


 いずれ彼らは見習いを終え、正式な騎士団の一員となる。その時、中心になるのはガロルドだ。

 彼らのためにも、ガロルドと対立する事は望ましくない。

 逡巡は振り捨て、ステラは思い切って頷いた。


「分かった。あなたと組む」

「そうか」


 ガロルドがほっとした顔になる。

 顔を伏せた一瞬、その口元がかすかにゆがんだ気がしたが、気のせいかもしれない。

 立ち去る後ろ姿を見つめながら、ステラは一抹の不安をぬぐえずにいた。

 やっぱり早まってしまっただろうか。――でも。


「よかった。これでみんな仲間だな」

「きっとこれからは過ごしやすくなるぞ。ガロルドが言えば、他のみんなも従うはずだ」

「やったな、ローズウッド」


 肩を叩かれ、喜びを口にする彼らにはとても言えない。


(気をつけていれば、大丈夫……)


 絶対に気は抜くまいと、ステラはひそかに決意した。

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