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騎士団長殺しと呼ばれた男にしごかれています  作者: 片山絢森
第3章

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24/63

24.目覚めたあとは

ちょっとだけ戻ってきました。


    ***

    ***



 そこからステラは気を失ったらしく、気づくとベッドの上にいた。


「起きたか、ローズウッド」

「副団長……」


 近くにいたカイルが顔を上げる。彼は何かの調合をしていたらしく、手にしたナイフを置いて立ち上がった。


「……副団長が運んでくださったんですか?」

「ああ、うん、……まぁな」


 微妙に視線を泳がせるカイルに、何かあったのかと首をかしげる。そういえば、体が妙にさっぱりしている。


 着ているのは頭からかぶるタイプの夜着で、やけに大きめのサイズだった。髪は解いて下ろしてあり、腕に包帯が巻かれている。全身を見回したが、他におかしなところはない。サラシは自分で外したのか、呼吸しやすくて心地よかった。


 よく見ると、彼の足元に散らばっているのは、辺境で採れた薬草や種子、魔獣の牙、何かの毛皮などだった。

 そこで気づく。


「ここ……副団長のお部屋ですか?」

「ああ……うん、まぁ、そうだな」


 カイルがますます視線を泳がせる。そういえば、彼も気を失う前とは違う服装をしている。


「女性の職員が誰もいなかったんで、とりあえず俺が処置した。お前の部屋だと防犯上の危険があったから、俺の部屋に運んだ。一応、風呂に突っ込んだ時には意識があったぞ。で、手当てして、着替えは俺のを渡して、あとはそのまま寝かせておいた」


「そうだったんですか……すみません、ご迷惑をおかけして」

「いや、いい。問題ない」

 やけにきっぱりとカイルが言う。


「何もなかった。大丈夫だ」

「そうなんですか……私、なんだか、訓練場を出たあとのことが思い出せなくて……」

「覚えてないならそれでいい。思い出すな。何もなかった」

「副団長?」

「何もなかった」


 重ねて言われれば、そうですかと言うしかない。釈然としないまま頷くと、カイルはほっとした顔になった。


「……体の方は大丈夫か?」

「はい、もうなんともないです。薬もちゃんと抜けたみたい」

「あいつらと審判は厳正に処罰する。……ただ、ハーヴェイの家が難癖つけてくる可能性はある。何があっても守るから、どんなことでも報告しろ」

「分かりました」

 喉が渇いたなと思っていると、カイルが水を汲んでくれた。


「ゆっくり飲めよ」

「あ、ありがとうございます……?」


 どうして分かったんだろうと思ったが、おとなしく受け取る。

 まだ汲んだばかりらしく、カップは少しひんやりしている。冷たい水が心地いい。ほとんど一息に飲み干してしまうと、ふと何かが引っかかった。


「……副団長」

「なんだ」

「私が嗅がされたの、媚薬だったんですよね? こんなに簡単に抜けるものなんですか?」

「――――」

「それに、妙に体が軽くて……。あの、もしかして、何か……」

「――何もなかった」

 カイルがきっぱりと断言する。


「問題のあるような行為はひとつもなかった。大丈夫だ、ローズウッド。本当に、何もなかった。騎士団副団長の名誉にかけて誓う」

「でも、あの、何か、うっすらと覚えているような……」

「忘れろ。何もなかった」

「でも……」

「なかったって」

「だけど……」

「――強いて言うなら、お前は今後一切、人前で絶対に酒を飲むな。特にあいつらの前では、一滴たりとも口にするな」


 それだけだ、と重々しく口にする。

 ステラの両肩をつかんで告げたカイルの顔は、ものすごく真剣だった。


「……やっぱり何かあったんじゃないですか!」

「気のせいだ。何もなかった」

「教えてくださいよ! 気になります」

「ないったらなかった」

「あったでしょう? ありましたよね!?」

「俺の口から言えるか!」

「やっぱりあったー!」

 思わず体を抱きしめると、カイルが焦った顔になった。


「ない! なかったから落ち着け、ローズウッド!」

「だって副団長、私、私っ……」


「少なくともお前が想像するようなことは何もなかった。あと、他のやつらも見てない。安心しろ。見てたら俺が殺してた。とりあえず、全員生きてる。つまり目撃者はいない」

「……副団長は見てるじゃないですかー!」

「俺はノーカウントだ!」


 叫んだ後で、気を取り直したように咳払いする。耳の先がちょっぴり赤い。果たして何の記憶ゆえか。


「……俺も健康な成人男性なんだ。不可抗力だ。勘弁してくれ、悪かった」

「そ、それは……すみません」

「いや、俺の方こそすまん」


 互いに謝り合っているうちに、ようやく気持ちが落ち着いた。

 思い出せないのは不安だが、忘れてしまった方がよさそうだ。


「でも、よかったです」

「何がだ?」

「見られたのが副団長で。他の人だったら、ちょっと嫌でした」

「――――……」

「ご迷惑かけてすみません。もう大丈夫です」


 笑ったステラに、彼は束の間動きを止めた。

 しばらく固まっていたかと思うと、「あー…」とがりがり頭をかく。きょとんと顔を見上げていると、彼はなんとも言えない顔になり、それから息を吐き出した。


「……なら、よかったよ」

お読みいただきありがとうございます。何があった。


*少しだけ更新再開します。読んでくださっている方本当にありがとうございます。続きも頑張っておりますので、引き続きよろしくお願いします!

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