24.目覚めたあとは
ちょっとだけ戻ってきました。
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そこからステラは気を失ったらしく、気づくとベッドの上にいた。
「起きたか、ローズウッド」
「副団長……」
近くにいたカイルが顔を上げる。彼は何かの調合をしていたらしく、手にしたナイフを置いて立ち上がった。
「……副団長が運んでくださったんですか?」
「ああ、うん、……まぁな」
微妙に視線を泳がせるカイルに、何かあったのかと首をかしげる。そういえば、体が妙にさっぱりしている。
着ているのは頭からかぶるタイプの夜着で、やけに大きめのサイズだった。髪は解いて下ろしてあり、腕に包帯が巻かれている。全身を見回したが、他におかしなところはない。サラシは自分で外したのか、呼吸しやすくて心地よかった。
よく見ると、彼の足元に散らばっているのは、辺境で採れた薬草や種子、魔獣の牙、何かの毛皮などだった。
そこで気づく。
「ここ……副団長のお部屋ですか?」
「ああ……うん、まぁ、そうだな」
カイルがますます視線を泳がせる。そういえば、彼も気を失う前とは違う服装をしている。
「女性の職員が誰もいなかったんで、とりあえず俺が処置した。お前の部屋だと防犯上の危険があったから、俺の部屋に運んだ。一応、風呂に突っ込んだ時には意識があったぞ。で、手当てして、着替えは俺のを渡して、あとはそのまま寝かせておいた」
「そうだったんですか……すみません、ご迷惑をおかけして」
「いや、いい。問題ない」
やけにきっぱりとカイルが言う。
「何もなかった。大丈夫だ」
「そうなんですか……私、なんだか、訓練場を出たあとのことが思い出せなくて……」
「覚えてないならそれでいい。思い出すな。何もなかった」
「副団長?」
「何もなかった」
重ねて言われれば、そうですかと言うしかない。釈然としないまま頷くと、カイルはほっとした顔になった。
「……体の方は大丈夫か?」
「はい、もうなんともないです。薬もちゃんと抜けたみたい」
「あいつらと審判は厳正に処罰する。……ただ、ハーヴェイの家が難癖つけてくる可能性はある。何があっても守るから、どんなことでも報告しろ」
「分かりました」
喉が渇いたなと思っていると、カイルが水を汲んでくれた。
「ゆっくり飲めよ」
「あ、ありがとうございます……?」
どうして分かったんだろうと思ったが、おとなしく受け取る。
まだ汲んだばかりらしく、カップは少しひんやりしている。冷たい水が心地いい。ほとんど一息に飲み干してしまうと、ふと何かが引っかかった。
「……副団長」
「なんだ」
「私が嗅がされたの、媚薬だったんですよね? こんなに簡単に抜けるものなんですか?」
「――――」
「それに、妙に体が軽くて……。あの、もしかして、何か……」
「――何もなかった」
カイルがきっぱりと断言する。
「問題のあるような行為はひとつもなかった。大丈夫だ、ローズウッド。本当に、何もなかった。騎士団副団長の名誉にかけて誓う」
「でも、あの、何か、うっすらと覚えているような……」
「忘れろ。何もなかった」
「でも……」
「なかったって」
「だけど……」
「――強いて言うなら、お前は今後一切、人前で絶対に酒を飲むな。特にあいつらの前では、一滴たりとも口にするな」
それだけだ、と重々しく口にする。
ステラの両肩をつかんで告げたカイルの顔は、ものすごく真剣だった。
「……やっぱり何かあったんじゃないですか!」
「気のせいだ。何もなかった」
「教えてくださいよ! 気になります」
「ないったらなかった」
「あったでしょう? ありましたよね!?」
「俺の口から言えるか!」
「やっぱりあったー!」
思わず体を抱きしめると、カイルが焦った顔になった。
「ない! なかったから落ち着け、ローズウッド!」
「だって副団長、私、私っ……」
「少なくともお前が想像するようなことは何もなかった。あと、他のやつらも見てない。安心しろ。見てたら俺が殺してた。とりあえず、全員生きてる。つまり目撃者はいない」
「……副団長は見てるじゃないですかー!」
「俺はノーカウントだ!」
叫んだ後で、気を取り直したように咳払いする。耳の先がちょっぴり赤い。果たして何の記憶ゆえか。
「……俺も健康な成人男性なんだ。不可抗力だ。勘弁してくれ、悪かった」
「そ、それは……すみません」
「いや、俺の方こそすまん」
互いに謝り合っているうちに、ようやく気持ちが落ち着いた。
思い出せないのは不安だが、忘れてしまった方がよさそうだ。
「でも、よかったです」
「何がだ?」
「見られたのが副団長で。他の人だったら、ちょっと嫌でした」
「――――……」
「ご迷惑かけてすみません。もう大丈夫です」
笑ったステラに、彼は束の間動きを止めた。
しばらく固まっていたかと思うと、「あー…」とがりがり頭をかく。きょとんと顔を見上げていると、彼はなんとも言えない顔になり、それから息を吐き出した。
「……なら、よかったよ」
お読みいただきありがとうございます。何があった。
*少しだけ更新再開します。読んでくださっている方本当にありがとうございます。続きも頑張っておりますので、引き続きよろしくお願いします!




