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騎士団長殺しと呼ばれた男にしごかれています  作者: 片山絢森
第2章

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14.大部屋の攻防-1※


    ***



「お前、最近調子に乗ってるんじゃないか」

 ガロルドに絡まれたのは翌日の事だった。


「俺らの世話もしないで、何のつもりだよ。さっさと前みたいに雑用しろよ、ローズウッド」


 そうだそうだと他の面々も頷いている。

 その輪に入らない者達もいるが、かばってくれるわけではない。同期に囲まれて、ステラは逃げ場がなくなった。


(失敗した)


 声をかけられた時、もう少し警戒すべきだったのだ。

 けれど、今までの事を謝りたいと言われ、わずかに心が揺らいでしまった。

 カイルに説得されたのだという言い訳を信じた自分のミスだ。カイルは泳がせると言っていた。何かするはずはなかったのに。


 声をかけてきた当人は、ステラから目をそらしている。

 今まで知らんぷりされた事はあっても、嫌がらせには加担した事のない人物だ。だから信じていたのだが、もう少し確認するべきだった。


「お前がやらないせいで、繕い物がたまってるんだよ。掃除も洗濯も、たっぷりやることはあるんだからな。今までサボってた分、しっかり働いてもらおうか」

「は……?」

 サボる、という単語に目を瞬く。


「それに、下着! お前が洗わなくなってから、汚れも落ちないし、布もすぐにダメになるんだ。こっちは迷惑してるんだよ。ほんっと使えないやつだよな、お前」


 鼻息を荒くするガロルドに、「えっと、私は自分の仕事はこなしてるつもりだけど」と控えめに告げる。


「それじゃ足りないの?」

「当たり前だろ。自分の当番だけやればいいってもんじゃないんだよ。お前は俺たち全員の世話をしないといけないんだからな」

「えぇー……?」


 初耳だ。


 というか、普通はそれぞれ自分の仕事をすればいいと思うのだが。

 怪我や病気など、何か理由があれば別だが、彼らは健康な成人男性なのだ。場合によっては、ステラよりもよほど楽にこなせるはずなのに。


 彼らはにやにやと笑いながら、ガロルドを中心に迫ってくる。

 おそらくこれは、ステラが言う事を聞くまで収まらない。


 ガロルドの家に逆らうのはまずい。

 けれど、今のステラは平民の娘だ。男爵家に迷惑はかからない。

 ここで従えば、今まで以上に彼らにこき使われる日々が待っている。そんな事はできないし、したくもない。


 できれば穏便に解決したいと思っていた。本当は、今でもそう思っている。

 人と争うのは苦手だし、誰かを怒らせるのも嫌だ。


 ――だけど。


(このままじゃ……よくない)

 ためらいを振り払ったのは一瞬だった。


「……私が繕い物をしたとして、みんなは何を代わってくれるの?」

「は?」


 ステラの問いに、彼らは目を丸くした。

 意味が分からなかったのか、一斉に怪訝な顔になる。


「仕事を代わるのはいい。手伝うのだって構わない。だけど、みんなは私に何をしてくれるの? 代わりに力仕事をやってくれる?」

「何言ってんの、お前」

「掃除でも、洗濯でもいい。代わりに何をしてくれる?」


「ふざけんなよ。なんで俺たちが……」

「何もしてくれないの?」

「当たり前だろ! それはお前の仕事だろうが」

「――だったら」


 ステラは彼らの顔を見た。


「もう手伝えない。ううん、ずっとそう言ってる。私はみんなの雑用係じゃないし、理不尽な命令には従えない。今後一切、私はみんなの世話はしない」

「なっ……!」


 彼らが驚いた顔になる。

 ステラが言い返すとは思わなかったのだろう。驚愕が隠せない様子だ。

 実際は何度もしているのだが、耳に入らないのかもしれない。人間は都合の悪い事を忘れる生き物だ。


「何度も何度も言ってきた。いつか分かってくれると思ってた。みんなと仲良くなりたかったから、喧嘩もせずに、言いなりになってきた。でも、それじゃ駄目だったんだね」

 もうやめる、とステラは告げた。


「見習い期間は二年しかないのに、このままじゃみんな駄目になる。自分のことは自分でする。できないことは協力する。仲間ってそういうものでしょう?」

 でも今は違う、と言う。


「私に全部押しつけて、みんなは楽をしてるだけ。それは仲間とは言わない。そして、私はもうそれには付き合えない」

「ふっ……ふざけんな、そんなの許さないからな!」

 ガロルドが唾を飛ばしてわめく。


「今まで通りに働け! 言うことを聞けよ!」

「そうだぞ、平民のくせに!」

「貴族に尽くせ! 従え!」

「お荷物の分際で!」

 一斉に怒鳴られたが、ステラの表情は変わらなかった。


「もうやらない。怒鳴られても、殴られても、絶対にやらないから」

「お前っ……」

「話がそれだけなら、もう行く。さよなら」

 彼らの脇をすり抜けようとしたところで、乱暴に腕をつかまれた。


「ちょっ……!?」

「……このまま逃がすかよ」


 怒りに顔を赤黒くしたガロルドが、ステラの腕を握りしめる。


「ガロルド? 痛い、離して」

「黙れよ、岸無し(ノーショア)!」


 空いた手でステラの顎をつかみ、乱暴に上向かせる。パンっと乾いた音が響き、衝撃にステラがよろめいた。


岸無し(ノーショア)の分際で、ずいぶん偉そうじゃないか。お前、ここにいる全員敵に回して、無事に済むと思ってんのか?」

「どういう意味……」

「貴族を怒らせて、ただで済むはずないんだよ」


 その声に、気圧されていた面々も次々に頷く。


「そっ……そうだぞ、平民のくせに!」

「このままで済むと思うなよ」

「思い知らせてやる。絶対に」

「…………」


 恐れていた事態に、ステラはぎゅっと唇を噛んだ。

 けれど、まだステラの正体はばれていない。家同士の問題になるとは限らない。


(だけど……)


 一体、どうしたら。

 ステラの表情が変わった事に気づいたのか、彼らが勝ち誇った顔になる。


「ほんっと手間取らせやがって、平民風情が」

「あーあ、これは何か落とし前をつけてもらわないとなぁ。ガロルド、何にする?」

「そうだな……」


 そこでガロルドがわざとらしく顎を撫でる。


「――裸とか?」

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