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1.岸無しの娘

お読みいただきありがとうございます!


「ステラ・ローズウッド。またお前か」


 怒りを押し殺した声に、ステラはびくりと身を縮めた。


「す、すみませ……」


「時間厳守と何度言ったら分かるんだ! できないなら、さっさと騎士団などやめてしまえ。規律を守る他の人間の迷惑だ!」

「申し訳ありません! 二度と同じ間違いはいたしません!」

「そう言って何度目だ! もういい、罰として訓練後、防具の片づけをするように。言っておくが、ひとりでやるんだ。いいな!」

「了解いたしました!」


 ばっと最敬礼すると、高い位置でくくった髪がさらりと揺れた。

 深々と腰を折ったステラに、相手はフンと鼻を鳴らして立ち去っていく。頭を下げたままそれを見送り、ステラは息を吐き出した。


「またお前かよ、ローズウッド」

 途端に侮蔑交じりの声がかけられる。


「相変わらず、要領悪いよなぁ。『天然のローズウッド』は」

「つーか、なんで俺らみたいなエリートの中にお前がいんの? マジで迷惑なんだけど」

「恋人探しなら別の場所でやってくれませんかねぇ。まぁ、お前、顔だけは割と可愛いし、なんなら遊んでやってもいいけど?」


 どっと笑い崩れた彼らをよそに、ステラはへらりと笑みを浮かべた。


「あ、あははは……」


 ステラが剣術の稽古に遅れたのは、用意しておいた防具に砂が詰められていたせいだ。

 それだけでなく、模擬戦用の剣も隠されていた。

 いつもは一番乗りで待っていて、自分用の防具と剣を確保しておくのだが、今日に限って団長の呼び出しを受けてしまった。まずいとは思ったものの、何かされると決まったわけではない。そう思い、すぐに着替えて訓練場へ向かった。



 だが、残されていたのは砂の詰められた防具と、剣代わりのホウキだけだった。



 備品がなくなったら連帯責任なので、捨てられる事はないはずだ。そう思って探したが、なかなか見つけられなかった。

 ようやくカーテンの影に巻きつけてある剣を発見した時には、すでに訓練開始時刻になっていた。

 おかげで事情を知らない教官には激怒されてしまい、罰まで言いつけられてしまった。


(詰めが甘かった……)


 次こそは彼らの思考回路を読んで、もっとうまく立ち回らなければ。


 ステラが所属しているのは、王立第四騎士団だ。通称第四、もしくは四団。

 ステラのいるのは新人部隊なので、正確に言えば見習いだ。

 騎士団には女性もいるが、その数は極めて少なく、ほとんどが街の警備か雑用となる。例外もいるにはいるが、超のつくエリートだ。


 ステラのように、貧乏男爵家から騎士を志そうという女性はほぼ皆無。

 ちなみに、平民の女性にも騎士団は人気がない。

 貴族ならともかく、働き口としては最悪に近いからだ。


 騎士団は男社会であり、男性優位の傾向が強い。

 有力貴族の娘はその限りではないが、彼らはわざわざ騎士団に行かない。そのため、女性の割合は非常に低い。

 ステラのいる第四騎士団も、女性はステラひとりである。


 寮の部屋は団長の隣だし、入浴もひとりだけ別時間だが、それが他の団員の怒りを買っているらしい。

 役立たずの上に特別扱いなのだから、彼らの気持ちも分からなくはない。

 それでも、ステラは騎士団をやめる気はない。


 ここにいれば、衣食住は保障される。

 それだけでなく、少額だが給料も入ってくるのだ。

 戻る場所がないステラにとって、この職場を失うわけにはいかない。

 それを知っているからこそ、彼らもステラを舐めているのだ。


 だが、それも仕方ない。


 ステラ・ローズウッド。

 何を言われても怒らない「天然のローズウッド」であり、またの名を。


岸無し(ノーショア)のローズウッド」という。

お読みいただきありがとうございます。のんびり更新の予定です。

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