(2)
しばらく考え込んでいたヴィルジールが思い切ったように口を開いた。
「オリヴィエ団長。ラヴェラルタ騎士団は、半月後に『死の森』への大規模遠征を予定しているのだろう?」
「ああ」
「私をその遠征に同行させてもらえないだろうか」
「殿下を? いや、しかしそれは……」
突然の申し出に困惑したオリヴィエは、同席する他の者たちの顔を見回した。
そこにいるのは元団長と、魔術師と騎士をそれぞれ束ねる二人の副団長だ。
この場での結論は騎士団の総意とすることができる。
中でも、ラヴェラルタ騎士団の戦力の要であるマルティーヌ……副団長のマルクの意向が最重要であるが、彼女は顎の下で指を組んでうつむき、じっと考え込んでいた。
元団長のグラシアンは厳しい表情で腕を組む。
もう一人の副団長のセレスタンは嫌悪感を露わにしているが、これは妹にヴィルジールを近づけたくないからだろう。
ヴィルジールもまた周囲の反応をうかがっていた。
即座に拒否されなかったことを確認した上で、話を続ける。
「そして私を、四百年前の魔王が閉じ込められていた場所まで、連れて行って欲しい」
「まさか、『魔王城』まで行くのか!」
オリヴィエが驚きの声を上げた。
ベレニスが魔王を討伐した後、その場に足を踏み入れた者はいない。
魔王が消えた後も、彼が召喚した凶暴な魔獣たちは子孫を残し、壮絶な生存争いを続けながら、森の奥地を支配している。
ラヴェラルタ騎士団も、魔獣が人間の居住エリアを脅かすことがなければ良いというスタンスだったため、危険を冒してまで巨大魔獣が巣食う森の奥地に入ることはなかった。
今回の大規模遠征も『死の森』の異変の調査と、魔獣を間引いて生態系を整えることが目的だったため、『魔王城』まで騎士団を進めることは全く考えていなかった。
しかし、遠征の計画を立てた当時と今とでは状況が違う。
「新たな魔王が出現した可能性がある以上、そこまで行かないと意味がないだろう」
「確かにそうだが……」
団長という立場にあっても、彼の一存では決められない。
しかし、どういう結論になるかは、もう分かっていた。
「マティ」
隣に座る妹に決断を促すと、彼女は両手でテーブルを強く叩いて、勢いよく立ち上がった。
「当然、行くわよ! 魔王城に!」
妹のきっぱりとした宣言に、セレスタンは笑い出す。
「あははは、やっぱりそうなるよねぇ。ま、僕だって、僕の魔術が初めて戦う魔獣にどれくらい通用するか試したかったんだよね。だから、マティに賛成!」
「マティがやるというのなら、俺にも異論はない」とオリヴィエも頷き、「お前たちが決めたのなら」とグラシアンも同意した。
マルティーヌは「でも……」と言葉を続けると、正面に座るヴィルジールを真っ直ぐに見た。




