表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/210

王子の謝罪(1)

「セレス兄さま、ヴィルジール殿下とジョエル様の拘束を解いてあげて」

「あぁ、そうだな」


 もはや、彼らを拘束しておく理由はない。

 ヴィルジールは確かに魔王の生まれ変わりではあったが、彼自身にも、そして魔王の記憶にも、敵意がないことは明らかだった。


 こわばっていたヴィルジールの肩がふっと下がった。

 彼は両手を持ち上げ、しびれの残る掌を握ったり開いたりしながら動きを確かめる。

 そして、目の前に置かれていたティーカップを取ると、冷め切った中身を一気に飲み干した。

 長く話し続けて、よほど喉が渇いていたのだろう。


「不自由な思いをさせまして、大変申し訳ありませんでした。すぐに、熱いお茶を入れなおさせましょう」


 グラシアンが手を打って、執事を呼ぶ。


 話が途切れたところで、ヴィルジールは後ろを振り返った。


 窓際の椅子に座らされていた彼の側近は、ここまでの話があまりにも衝撃的だったのか、青ざめたこわばった顔で、足元の少し先を見つめていた。

 拘束術は解けたはずなのに、身体はまだ硬直したままだ。


 ラヴェラルタ家の者たちは勇者の真実を既に知っていたし、王子には魔王の記憶があった。

 彼だけが、全く何も知らなかったのだから無理もない。

 自分が仕えていた主が、魔王の生まれ変わりだったという事実を、受け止めることすら難しかったはずだ。


「ジョエル、お前まで巻き込んでしまってすまなかった」


 主から謝罪の言葉をかけられ、ジョエルがびくりと体を震わせ、顔を上げた。


「私とマルティーヌ嬢の秘密を知ってしまったお前は、簡単に自由にさせてやることはできない。だが、悪いようにはしないからしばらく辛抱して欲しい。お前のことは信頼しているから、いずれは……」


 そこまで聞いて、ジョエルが突然立ち上がった。


「いいえ、いいえ! そんなことをおっしゃらないでください! 前世が何者であれ、私の主はこれからもずっと殿下でございます。幼少より長くお仕えしてまいりましたのに、何も存じ上げなかったことをむしろ恥じております」


 そして彼は、床にがくりと膝をつく。

 その肩が震えていた。


 ヴィルジールは席を離れると側近の前に立ち、彼の肩に手を置いた。


「ありがとう。私が隠していたのだから、お前が知らないのは当たり前だ。気にするな」


 そして、彼を立ち上がらせると、振り返ってラヴェラルタ家の当主を見る。


「グラシアン卿、ジョエルをそちらに同席させてもらっても構わないだろうか。彼は私とは乳兄弟でフォルナード侯爵家に連なる者だ」


 となれば、この場では二番目に家格が高い。


「いいえ、そのようなことは……」


 ジョエルは最初は固辞していたが、結局ヴィルジールの右隣に席が用意されることとなった。

 とはいえ、少し椅子を下げ、王子の斜め後ろに控えるところが従者らしい。


 お茶のワゴンを押した侍女とともに応接室に戻ってきた執事は、事情を察したのか、自然な振る舞いで、王子の次にジョエルの前にティーカップを置いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=2706358&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ