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魔王の真実(1)

「では、何かございましたらお呼びください」


 執事と侍女が応接間から退出した。


 テーブルについたそれぞれの目の前にはティーカップが置かれているが、ヴィルジールはカップを手に取ることができない。

 隣に座ったセレスタンが、強力な拘束魔術を使っているからだ。

 主の後ろの窓際に置かれた椅子に座らされたジョエルも、指一本動かすことができなかった。


 彼らの長剣や自衛用の短剣などの武器は、全てラヴェラルタ家が預かっている。


「魔王として生きた記憶はあるが、魔王の能力は引き継いでいない。魔力も人並みしかない。だから、今は普通の人間だ」


 ヴィルジールがそう説明する通り、おそらく今の彼はいたって普通の人間だ。

 彼のまとう魔力にも妖しさは感じられない

 だから、ラヴェラルタ家としては、王子と従者を拘束するつもりはなかった。

 彼らがこちらに危害を加えるとは思えなかったし、彼ら二人の実力ではラヴェラルタの兄妹に敵わない。

 それに今の彼はこの国の王子という高貴な生まれであるから、今世で罪を犯していない王族を拘束するのは憚れた。


 しかし、「魔力はなくても、元魔王だと言われたら不安だろう」と、ヴィルジールが拘束を申し出たのだ。


 ヴィルジールの向かいの席には、紺色のシンプルなドレスに着替え、サラサラのストレートヘアのカツラを被ったマルティーヌが、緊張で顔を強張らせて座っていた。

 左隣にはグラシアン、右にオリヴィエが座る。


 応接室に集まったのは王子側二人と、ラヴェラルタ家の四人だけだ。


 中庭での事件に駆けつけたアロイスら騎士団の者たちには、魔鳥の死骸の処理に当たらせている。

 彼らには、現場に駆けつけた者たちが魔鳥を倒したということで、口裏を合わせてある。

 また、魔鳥が『魔王の目』であったこと、ヴィルジール殿下が魔王の生まれ変わりであることを、決して口外しないよう申し合わせた。

 彼らは全員、マルティーヌの秘密を知る信頼できる者たちであるから、うまく対処してくれるだろう。


 もう一人、衝撃的な現場に居合わせることとなってしまった侍女のコラリーは、魔鳥の首が切り落とされたあたりで気を失ってしまい、王子の秘密を知ることはなかった。

 今は、自室で眠っている。


「殿下、お話いただけますか?」


 グラシアンに促され、彼は小さく頷いた。

 彼は自分の中にある、魔王のいちばん最初の記憶から話し始めた。


「ふと気が付いた時、ざらざらした石でできた大きな椅子に座っていた。彼は自分がなぜ、こんな場所にいるのか、全く分からなかった。自分が誰なのかも分からなかった。大きな布を巻きつけただけのような簡素な服を身につけていて、年は……そうだな、十五、六齢ぐらいだった」


 ヴィルジールはちらりと視線を上げて、正面に座るマルティーヌをうかがうように見た。


 ベレニスは魔王のそのような姿を、ほんの一瞬だけ見たことがある。

 マルティーヌはあれが彼の本当の姿だったのかと納得しながら、小さな頷きを返した。

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