表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/210

(9)

 戦意を喪失した男たちの様子に、ヴィルジールはマルティーヌがベレニスの生まれ変わりであるという確信を得たようだ。

 雷に打たれたかのように体を震わせた。


「……本当……に?」


 あれだけ強い言葉と態度でマルティーヌを追い詰め、狙い通りの結論にたどり着いたはずなのに、自分で暴いた真実が、信じきれない様子だ。

 唯一自分に向けられたままの刃に向かって、ふらついた足取りで近づいてくる。


「本当に、そう……なのか」

「来るな!」


 異常にも見える彼の様子に、マルティーヌは警戒を強め、剣を握り直す。


「本当に……貴女がベレニス? そう、なんだな?」


 喘ぐような掠れ声と、懇願するような眼差しがなぜか胸に痛い。

 救いを求めるように自分に向けて伸ばされた指先が、小刻みに震えている。


「お願いだ、答えてくれ」

「……だったら、どうなのよ」


 はっきりそうだとは言えず、遠回しに肯定すると、彼はがくりと膝をついた。


「あぁ……まさか本当に会えるなんて、奇跡だ」


 マルティーヌを見上げた彼の頬に、一筋の雫が伝っていた。


「な……んで?」


 あまりにも予想外な彼の変化に、マルティーヌは思わず後ずさる。

 さっきまでの傲慢で冷徹な王族の彼は、どこへ行ってしまったのか。


「ずっと……ずっと会いたかった。魔王わたしに、死を与えてくれた勇者ベレニスに……」


 マルティーヌはその言葉に息を飲んだ。

 構えていた長剣が手を離れ、石のタイルに落ちて音を立てた。


「ああ……そうだった……のね」


 彼の目的は復讐でも、現世での権力の座でもなかったのだ。


 四百年前、消えゆく最期の瞬間に、魔王かれ勇者ベレニスに微かな笑みを向けた。

 邪悪な存在であったはずの彼の、満たされたような穏やかな表情が、マルティーヌとして生まれ変わった後もずっと脳裏に残っていた。


 次々と魔獣を生み出し、人間を苦しめ続けた魔王が、なぜ敵である勇者にあんな顔を見せたのか。

 その微笑みの意味を、今、知った。


 ヴィルジールは紛れもなく、魔王の生まれ変わりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=2706358&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ