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 魔王の生まれ変わりだなどと、不穏なことを言い出したのは彼の方だ。

 しかしそのことで今、圧倒的に不利な状況に陥っているのは、ラヴェラルタ側だった。

 王子に向けた切っ先を下ろせば、王族に刃を向けた大逆の罪を認めたことになる。

 かといって、真実は明かせない。


 命がけの沈黙が続く中、ヴィルジールは一人一人の表情を確認するように、周囲をゆっくりと見まわした。


「……そうとしか思えないな。どうなんだ、マルティーヌ嬢」


 彼の視線がマルティーヌで止まった。


「そ……」


 そんなことはないと言いたかったが、喉が張り付いたようになって声が出なかった。

 この上、嘘を重ねることは難しいし、騙せるとも思えない。

 しかし、肯定もできないのだ。


 どうしたらいいの——。


 マルティーヌは剣を握り直し、その切っ先まで強化術を伸ばした。

 そうしないと、剣先が小刻みに震えてしまいそうだった。


 決して、動揺を見せてはいけない。

 それは、彼の言葉を肯定することになるのだから——。


「君は生まれ変わりを信じている。そうだろう? それはなぜだ」


 返事の代わりに相手を睨みつける。


「代わりに答えようか?」

「……」

「なぜなら、君自身がベレニスの生まれ変わりだからだ」


「な……っ!」


 構えた剣の切っ先が、激しい動揺に大きくぶれた。


「君こそなぜ、その魔鳥が『魔王の目』だと気付いた? 君が倒したその鳥は四つ足ではないし、目も二つしかない。『魔王の目』の真の姿を知る者は、この時代にはいないはずだ。それに君は、火炎黒竜は巨躯魔狼ほど硬くないと言っていた。戦ったことがないはずなのに、どうしてそんな比較ができたんだ」


「それ……は……」


 以前、彼が火炎黒竜の話を持ち出した時、何かしくじったように感じたが、そんな小さな綻びに目をつけられたとは思わなかった。


「『魔王の目』を倒した時も、私に剣を向けている今この瞬間も、君には全く魔力を感じられない。膨大な魔力を持っていたはずのベレニスもそうだった」

「!」

「だから、マルティーヌ嬢に初めて会った時、全く魔力を感じなかったから期待した。マルクが魔力を放出した時には驚いたが、あれは、何か仕掛けがあったのだろう」

「まさか、最初……からわたしをベレニスの生まれ変わりだと疑ってた……?」

「ああ」


 勇者ベレニスは、身に纏う魔力だけで人々や魔獣を威圧するほどの強大な魔力を持っていたと言い伝えられているが、実際は、マルティーヌと同じく魔力を外に放出することのない稀有な体質だった。

 勇者をより勇猛に脚色した伝承は、真実を知らない者にとってはマルティーヌが勇者であることを否定し、真実を知る者には明確な肯定となる。


 巨躯魔狼を倒した謎の少女の正体を暴くことに執着しているだけだと思われていた彼は、謎の少女に助けられた時、すでにベレニスの存在を感じ取っていたのだ。


 伝説級の大型魔獣を一刀にした謎の少女。

 病弱を装い、社交界に顔を出すことのない辺境伯令嬢。

 そして、凄まじい戦闘能力と、魔獣についての正確な知識を持つラヴェラルタ騎士団の若き副団長。


 彼は、この三者の関係の向こう側に透けて見える、勇者の影を追っていた。

 小さな罠をはり、少しずつ証拠を集めながら——。


 しかしなぜ、彼はそんなにベレニスに執着したのだろうか。

 彼は自分が魔王の生まれ変わりであると主張しているが、証明することは難しい。

 けれどそれが真実なら、時代を超えた復讐を考えているのだろうか。

 それが詐称なら、勇者の生まれ変わりという圧倒的な戦力を手に入れ、第四王子という王座から離れた位置から一気に国を掌握しようと画策しているのか。


 本当に、そうなの?


 マルティーヌは自身の内なるベレニスに問う。

 そのどちらであってもおかしくないが、何か、漠然とした違和感を感じる。


「だが、君とベレニスとは見た目は全く違うな。彼女はもっと体が大きくて、ちょうど……」


 ふっと笑ったヴィルジールは言葉を切って、オリヴィエをちらりと見た。


「彼を女性にしたような感じだった」

「う……むぅ……」


 オリヴィエがうめき声を上げて、剣を下ろした。


 ベレニスは現在、勇者像として残されている女神のような美貌で知られているが、実際は全く違う。

 本人の生まれ変わりであるマルティーヌも、以前、オリヴィエを引き合いに出して彼女の容姿を説明した。

 同様の例えをしたということは、彼がベレニスに実際に会ったことがある証拠なのだ。

 それは、彼が魔王の生まれ変わりである証明にはならないが、当時の『何者か』の生まれ変わりであることは間違いなかった。


 グラシアンも苦痛に耐えるように、両目を固く閉じ顔をしかめた。

 大きく息を吐き出すと同時に、諦めたように肩から力が抜ける。


 ラヴェラルタ家の代表二人が観念した様子を見て、騎士団の者たちもゆっくりと剣を下ろしていった。

 セレスタンがヴィルジールに向けた指先はそのままだったが、彼の周囲に渦巻いていた魔力が勢いを無くしていった。


 彼の勝ちだ。

 秘密はすべて暴かれてしまった。


 マルティーヌは唇を噛んだが、剣を下すことはしなかった。

 ただ一人、ヴィルジールの心臓に鋭い切っ先を向けていた。

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