(5)
だけど……とマルティーヌは思う。
ヴィルジールはマルティーヌが病弱であるとは信じていないにしても、か弱い女性一人を幽閉することは容易いと思っているだろう。
でも、わたしはベレニスの生まれ変わり。
決して囚われの身になることはない。
たった一人でも、王国に壊滅的な被害を与えて逃げてやる!
そう考えると、昨日のラヴェラルタ領の独立の話は、自分を領地に保護するためだけの策ではなかったことに気づく。
万一、自分がドゥラメトリア王国に仇なす者として追われる身となったとしても、強力な武力を誇るラヴェラルタが独立国であれば、王国に身柄を引き渡さずにすむのだ。
しかし、独立は最後の手段。
両親や兄たちは、本音ではそこまでを望んでいない。
これまで通り、矜持を持って魔獣の出没する辺境の地を守りながら、平穏に暮らしていきたいはずだ。
「理解してくれたかい?」
「……はい」
彼の言う理解とは内容が違うだろうが、マルティーヌは神妙な顔で小さく頷いた。
自分が今しなければならないのは、舞踏会を穏便に辞退するために、彼の協力を取り付けることだ。
自分の兄である王太子の意図を暴露するような忠告をするくらいだから、彼はきっと味方だ。
彼からのカードにも「力になりたい」と書かれていた。
だから。
とてつもなく不本意だけど、使えるものは何でも使え!
それが、この国の王子であっても——。
そう決意して、背筋を伸ばして彼の目を見つめると思い切って口を開く。
「わたしは、舞踏会には行きません。ヴィルジール殿下、王太子殿下にお断りのお返事をしていただけますか?」
しかし彼は、ちょっと困った顔をした。
「でも私は、その王太子殿下から、マルティーヌ嬢を必ず舞踏会に参加させるよう仰せつかってきたんだよ」
「えっ?」
「君と面識があるのは私だけだからね。今回のラヴェラルタ騎士団との合同訓練に王太子の了承が出たのも、半分はその目的のためなんだ」
「そ……んな……」
味方じゃ……ない?
崖から突然突き落とされたような思いがした。
「だ、だって殿下は……」
これまでの話の流れから、きっと力になってくれると思い込んでしまった。
それは、わたしの思い過ごし?
彼に騙された?
彼は憎き王族。
どれだけ時代が変わっても、敵であることは変わらない。
一瞬でも、彼を信用したわたしが馬鹿だったんだ。
「悪いようにはしないって……言ったじゃない」
勝手に期待した自分が悔しくて、唇を噛んで俯くと、膝の上でドレスをぎゅっと握りしめる。
「ああ。もちろん、悪いようにはしないつもりだよ。不可抗力とはいえ、私が辺境伯領で魔獣に襲われたことがきっかけで、君の存在にアダラールの目が向いてしまったのだからね」
「じゃあ」
期待を持たせるような言葉にはっと顔を上げると、彼は口元だけに笑みを浮かべていた。
「しかし、俺としても王太子殿下の命に背くとなると、それなりの覚悟がいるんだよね。何か見返りがないと……ね」
彼の一人称と口調が変化する。
何かを企んでいるような怪しい表情に、もう自分に逃げ道がないことを悟る。
「見返り……って?」
彼は王位には興味がないと聞いていたが、自分やラヴェラルタ家を利用して、国王の座にのし上がろうと考えているのかもしれない。
あるいは、女ったらしだと噂される彼のことだから、「俺の愛人になれ」とでも言おうとしているのか。
緊張しながら彼の返事を待っていると、ヴィルジールはふっと笑った。




